●平成22(ワ)18759 損害賠償請求事件「クイックルック」

 本日は、『平成22(ワ)18759 損害賠償請求事件「クイックルック」平成23年05月16日 東京地方裁判所 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110531172242.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標権に基づく損害賠償請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、被告による標章の使用が商標としての使用に該当するか否かの判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 菊池絵理、裁判官 岩慎)は、

『1 被告各標章が商標として使用されているか否か(争点(1)ア)について商標は,当該商標を使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの(商標法3条2項),すなわち自他商品識別機能及び出所表示機能を有するものとして登録されるのであるから,ある標章の使用が,商標権者の登録商標を使用する権利(同法25条)の侵害行為又は侵害とみなされる行為(同法36条1項,37条)といえるためは,当該使用される標章が自他商品識別機能及び出所表示機能を有する態様で使用されていることが必要である。


 そこで,本件の事案にかんがみ,まず,被告各標章が自他商品識別機能及び出所表示機能を有する態様で用いられているか,すなわち,商標としての使用(商標的使用)がされているか否か(争点(1)ア)について検討する。


 ・・・省略・・・


(4) 被告各標章の使用の商標的使用該当性

 以上を前提に,被告各標章の使用が商標的使用に該当するか否かについて検討する。

ア 甲49の被告コンピュータ商品のディスプレイ上の表示について前記(3)アのとおり,甲49における「“img08524.pdf”をクイックルック」との表示は,「このアプリケーションで開く」,「“img08524.pdf”を圧縮」,「複製」,「“img08524.pdf”のディスクを作成...」等との表示と並列して表示されているものである。そして,「このアプリケーションで開く」,「“img08524.pdf”を圧縮」,「複製」,「“img08524.pdf”のディスクを作成...」等の表示は,いずれも,「開く」「圧縮」「複製」「作成」等の作業を行い,これらの機能を利用する際の案内表示であることが明らかであるから,「“img08524.pdf”をクイックルック」との表示に接した需要者,利用者は,「“img08524.pdf”」という名称のPDFファイルについて,「クイックルック」という作業を行い,この機能を利用する際の案内表示であると理解す
るものと解される。


 ところで,証拠(甲7の1,2,甲8,30,47,48,65,66,乙5の2の5)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,ファイルを開かずにファイルの内容をすばやくプレビュー表示するという,被告OSソフトウェア商品が有する機能を「Quick Look」(クイックルック)と表示していること,被告OSソフトウェア商品が当該機能を有することは,被告コンピュータ商品あるいは被告OSソフトウェア商品の利用者,需要者に,広く知られていることが認められる。


 そうすると,「“img08524.pdf”をクイックルック」との表示は,「“img08524.pdf”」という名称のPDFファイルを開かずに同ファイルの内容をすばやくプレビュー表示するという機能を利用する,ということを記述した案内表示であり,この表示に接した被告コンピュータ商品あるいは被告OSソフトウェア商品の利用者,需要者は,被告OSソフトウェア商品あるいはこれを搭載した被告コンピュータ商品が有する,ファイルを開かずにファイルの内容をすばやくプレビュー表示するという機能を利用する際の案内表示であると認識するものと認めることができる。


 以上によれば,「“img08524.pdf”をクイックルック」との表示は,被告OSソフトウェア商品あるいはこれを搭載した被告コンピュータ商品が有する,ファイルを開かずにファイルの内容をすばやくプレビュー表示するという機能を利用する際の案内表示であり,被告標章2が,被告コンピュータ商品あるいは被告OSソフトウェア商品の自他商品識別機能,出所表示機能を有する商標として表示されているものでないというべきである。


 したがって,被告標章2は,甲49の被告コンピュータ商品のディスプレイ上において,被告コンピュータ商品あるいは被告OSソフトウェア商品の自他商品識別機能・出所表示機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,甲49の被告コンピュータ商品のディスプレイ上における被告標章2の使用は,商標としての使用(商標的使用)に当たらない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。