●平成22(行ケ)10325 審決取消請求事件 特許権「ペレット状生分解

 本日は、『平成22(行ケ)10325 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ペレット状生分解性樹脂組成物およびその製造方法」平成23年05月23日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110526100603.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、取消事由1(本件補正の却下に関する判断の誤り)についての判断が参考になります。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『4 取消事由1(本件補正の却下に関する判断の誤り)について

 審決は,本件補正のうち補正事項1は法17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではないから不適法であるとし,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。


(1) 補正事項1は法17条の2第4項各号に該当するか

ア 法17条の2第4項4号につき

(ア) 法17条の2第4項4号は,「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」と規定している。ここで「明りょうでない記載」とは,それ自体意味の明らかでない記載など,記載上不備が生じている記載であって,特に特許請求の範囲について「明りょうでない記載」とは,請求項の記載そのものが文理上意味が不明りょうである場合,請求項自体の記載内容が他の記載との関係において不合理を生じている場合,又は請求項自体の記載は明りょうであるが請求項に記載した発明が技術的に正確に特定されず不明りょうである場合等をいい,その「釈明」とは,記載の不明りょうさを正してその記載本来の意味内容を明らかにすることをいうものと解される。


 ところで,補正事項1は,前記のとおり,本願に係る発明のうち,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」という記載を削除するものである。


 したがって,補正事項1が「明りょうでない記載の釈明」に該当するためには,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」との記載が上記明りょうでない記載と認められ,それを削除することによってその記載の本来の意味内容が明らかになるものであることを要する。


 しかし,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」の記載のうち,「僅かに」の部分を除く「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも低い混練温度で」との記載は,生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度と混練温度との高低の関係をいうものであることが明白であるから,その記載自体の意味は明りょうであって,当該記載を除くことが,特許請求の範囲について明りょうでない記載をその記載本来の意味内容を明らかにするものであるとはいえず,むしろ,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」全体を削除すると,生分解性天然樹脂(A)と生分解性合成樹脂(B)との「混練」に関し,補正前発明と本件補正後の発明とではその実質に相違が生ずる可能性があると認められる。


 したがって,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」との記載全体を削除することを内容とする補正事項1は,そもそも「明りょうでない記載の釈明」を目的としたものと認めることはできない。


(イ) 法17条の2第4項4号括弧書き該当性

 法17条の2第4項4号に該当するためには,補正事項が「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る」(同項4号括弧書き)ところ,同括弧書きの意義は,拒絶理由通知で指摘していなかった事項について「明りょうでない記載の釈明」を名目に補正がされることによって,既に審査・審理した部分が補正されて,新たな拒絶理由が生じることを防止するために,「明りょうでない記載の釈明」は最後の拒絶理由通知で指摘された拒絶の理由に示す事項についてするものに限定されるという趣旨と解される。


 前記3の本件出願の手続の経緯のとおり,最後の拒絶理由通知(甲2の4)においては,まず,[理由1]において,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」混練する旨は当初明細書等(甲1)に明示的に記載されていないし,自明でもないと指摘して,法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとし,さらに,[理由3]において,「(2) 請求項1における『僅かに』なる記載は多義的に解され不明瞭である」として,「僅かに」という記載に限って法36条6項2号に規定する要件を満たしてない旨指摘していることが認められる。


 以上によれば,最後の拒絶理由通知において明りょうでないと指摘された記載は,文中の「僅かに」という記載のみであることは明らかであるから,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」という記載全体を削除する本件補正は,審査官が「拒絶の理由に示す事項」の範囲を超え,むしろ[理由1]で指摘された新規事項の追加についての拒絶理由を回避するためになされたものと認めるのが相当である。


 したがって,補正事項1は,法17条の2第4項4号括弧書きの「拒絶の理由を示す事項についてするもの」に該当しないというべきである。


イ 法17条の2第4項1ないし3号につき

 前記のとおり,補正事項1は,本願に係る発明の構成の一部を削除するものであるから,法17条の2第4項1号の「第36条5項に規定する請求項の削除」を目的とするものに該当しないことはもちろん,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」という発明特定事項を削除するものであって,それにより特許請求の範囲が拡張されることが明らかであるから,同項2号の「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものであるともいえず,さらに,同項3号の「誤記の訂正」を目的とするものにも該当しない


ウ 以上のとおり,補正事項1について法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではないとして,本件補正を却下した審決に誤りはない(なお,審決は,4頁の「3むすび」において,「補正事項1を含む当審補正は,特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない」とするが,被告準備書面第1回の2頁下7行〜4行が指摘するように上記補正は「特許法17条の2第4項の規定に適合しない」の誤りであるものの,審決書全体の記載からみて,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではない)。


(2) 原告の主張に対する補足説明

ア 原告の主張(ア) につき

(ア) 原告は,補正事項1は,もともと当初明細書等に記載されていない事項を削除する補正であるから,法17条の2第4項4号に掲げる特許請求の範囲についての「明りょうでない記載の釈明」に該当すると主張するが,原告の上記主張に理由がないことは,前記(1)ア(ア)のとおりである。


(イ) また,原告は,「明りょうでない記載の釈明」に該当するためには結果として指摘された特定箇所の記載不備を解消する補正であればよいというべきところ,平成19年1月16日付けでなされた最後の拒絶理由通知(甲2の4)は,新規事項を含む記載において明りょうでない記載があるというものであり,これを明りょうにして拒絶理由を解消するために結果として新規事項の削除の補正となったにすぎないから,補正事項1は「明りょうでない記載の釈明」に該当するとか,最後の拒絶理由通知は,請求項自体の記載は明りょうであるが請求項に記載した発明が技術的に正確に特定されず不明りょうであること等に該当するとするものであるから,補正事項1により請求項に記載した発明が明りょうになることは明白である旨主張する。


 しかし,前記(1)ア(イ)のとおり,法17条の2第4項4号括弧書きの「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る」とは,同号の「明りょうでない記載の釈明」を目的とする補正については,審査官が拒絶理由中で特許請求の範囲が明りょうでない旨を指摘した事項についてその記載を明りょうにする補正を行う場合に限られるのであって,審査官が指摘した事項を含んでさえいれば補正する範囲は問わないというものではなく,その補正の範囲は,その補正によって新たな拒絶理由が生じない程度の範囲に限られるというべきであるから,新規事項の追加状態を解消する目的の補正に同号を適用する余地はないというべきである。


 そして,前記(1)ア(イ)のとおり,補正事項1のうち「僅かに」を除く「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも低い混練温度で」との部分は,最後の拒絶理由通知において「明りょうでない」と指摘された部分ではなく,また,それ自体「明りょうでない」とはいえないから,上記部分の削除を含む補正事項1は,最後の拒絶理由通知において審査官が指摘した事項の範囲を超えて補正しようとするものであって妥当でない。原告の主張に従えば,「明りょうでない記載の釈明」との名の下に,明りょうでない記載をその記載本来の意味内容を明らかにすることを超えて補正できることになり,法17条の2第4項4号の趣旨を没却することになる。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


イ 原告の主張(イ) につき

 原告は,本件補正において削除した新規事項は本願発明の新規性や進歩性に何ら関与しないから,本件補正を却下すべき理由はない旨主張する。


 しかし,補正事項1において削除される事項が本願発明の新規性や進歩性に関係しないか否かは,補正事項1が「明りょうでない記載の釈明」を目的とする補正であるか否かを判断するに当たって何ら関わりのないことであるから,原告の上記主張は理由がない。


ウ 原告の主張(ウ) につき原告は,補正事項1が認められなければ原審補正についての拒絶理由は法17条の2第3項の規定に適合しないとして解消できないことになり,発明の保護が図れない旨主張する。


 しかし,前記ア(イ) のとおり,法17条の2第4項4号括弧書きの「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る」とは,同号の「明りょうでない記載の釈明」を目的とする補正については,審査官が拒絶理由中で明りょうでない旨を指摘した事項について,その記載を明りょうにする補正を行う場合に限られるのであって,新規事項の追加状態を解消する目的の補正に同号を適用する余地はないのであるから,補正事項1が認められなければ発明の保護が図れない旨の原告の上記主張は採用することができない。


 その他,原告は,本件では,再度最後でない拒絶理由通知がなされる余地があったものを審査官が裁量により拒絶査定をしてしまったものであるが,当然のように補正を却下することは極めて不公平であって,このように審査官や審判官の恣意的判断に委ねられるという運用基準は法の下の平等憲法14条)に反するとか,分割出願は特許出願において補正が却下された場合にするものであるとの考え方は分割出願の趣旨に反するものであるとか,出願人の経済的負担も大きい等と縷々主張するが,いずれも法17条の2第3,4項を正解しない独自の見解であって,採用することができない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。