●平成22(ワ)8024 実用新案権侵害差止等請求事件「靴収納庫用棚板及

 本日は、『平成22(ワ)8024 実用新案権侵害差止等請求事件「靴収納庫用棚板及び靴収納庫」 平成23年04月28日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110517144817.pdf)について取り上げます。


 本件は、実用新案権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、争点1(被告各商品が本件考案の構成要件を文言上充足するか)についての判断が参考になるかと思います。

 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 達野ゆき、裁判官 北岡裕章)は、


『1 争点1(被告各商品が本件考案の構成要件を文言上充足するか)について

(1) 被告各商品の構成

 被告各商品が次の構成のうち,?の構成を備えることについては,証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によりこれを認めることができ,その余の構成を備えることについては,争いがない。


ウ 検討

 本件では,構成要件?における「掛合部」の解釈が争点の一つとなっているところ,前記本件考案に係る実用新案登録請求の範囲の記載によれば,構成要件?の「掛合部」は,「横桟部材に着脱可能に掛合する」ものであるとともに(構成要件?),「掛合」の状態として,「収納姿勢」と「跳ね上げ姿勢」とに回動可能であり(構成要件?),かつ横桟部材の長手方向に摺動可能であること(構成要件?)が必要である。


 そして,構成要件?における「靴収納庫に設けられた横桟部材」との記載からすれば,「横桟部材」は,あらかじめ靴収納庫に設けられていることが前提となっているといえる。また,本件明細書(段落【0019】)においても,掛合部が嵌合する横桟部材として,いわゆる「突っ張り棒」や,靴収納庫に既に設けてある筒状又は横柱状の横桟,「螺子式固定具」が,横桟部材の例として掲げられており,かかる記載からすると,本件考案では,横桟部材は,あらかじめ靴収納庫に設けられていることが前提となっていると理解することができる。


 また,「掛合」という文言について,かかる文言は一般的に用いられる語彙ではないものの,漢字の意味からして,部材同士を引っ掛けることによって接合するものと理解できるし,「特許技術用語集」(乙6)においても,「to hook(latch) 掛け合わせること」と記載されていることからすれば,「掛合」との文言に接した当業者は,同文言について,引っ掛けるという比較的簡易な態様で接合させることと理解するものと考えられる。なお,原告は,「掛」の漢字には,「上が固定された状態で,高いところからぶらさがる」という意味も有すると主張する。しかし,「掛」という漢字の意味について,「新選漢和辞典」(甲4)では「ぶらさげる。ひっかける。」等と記載されており,「角川漢和中辞典」(甲5)でも,「かける。ぶらさげる。ひっかける。かかる。ひっかかる。ぶらさがる。」等と記載されていることからすれば,「掛」という漢字における「ぶらさげる」というのは,あくまでぶらさがる対象をそのままにした状態で,着脱の可能な態様で接合することと解するのが相当であり,このような態様以外のぶらさげる接合態様を広く含むものとは解し難い(原告が主張の根拠とする「大辞泉」〔甲8〕は,「かかる」〔掛ける・懸かる・係る〕という言葉一般の意味を解説したものであり,「掛」という漢字の意味よりも広いものと解される。)。


 さらに,作用効果の観点からしても,本件明細書(段落【0010】)には,「本考案にかかる靴収納庫用棚板では,…既存の靴収納庫にも必要に応じて所望する箇所に取り付けて使用することができる利点がある」と記載されており,かかる記載からすれば,本件考案の棚板は,横桟部材を靴収納庫に設置したままの状態で,着脱が可能となる態様をもって棚板を横桟部材に接合させるが故に,既存の様々な靴収納庫や横桟部材にも対応することができるという点に,その利点があると解することができる。


 以上からすれば,構成要件?における「掛合部」は,横桟部材を靴収納庫に設置したままの状態で,横桟部材に棚板を着脱可能に接合することができる部分であり,かつ,これにより回動及び摺動が可能となるものと解するのが相当である。


エ 請求項2との関係

 なお,原告は,本件実用新案登録に係る請求項2の考案として,「横桟部材に掛合する掛合部が,靴収納用棚板の側面視においてフックもしくは下向きU字形に掛合部を形成されていることを特徴とする請求項1に記載の靴載置用棚板」が掲げられており,これからすると,請求項1における「掛合部」は,請求項2の掛合部以外の態様を広く含むものと理解することができるとも主張する。


 しかし,本件明細書の考案の詳細な説明欄に記載された掛合部は,前記ウのとおりであり,それ以外の掛合部の構成は記載されていない。請求項1における「掛合部」が,請求項2の「掛合部」以外の態様を含むものであるとしても,請求項2の考案は,掛合部の具体的な構成として,「フックもしくは下向きU字形に掛合部を形成されていること」との構成を開示したにすぎず,請求項1における「掛合部」の解釈を,前記ウの解釈より広げる根拠とはならない。


(3) 被告各商品との対比

ア ところで,本件考案の構成要件?の記載によれば,本件考案の対象は「靴載置用棚板」である旨明示されており,本件明細書の記載においても,「棚板」と「横桟部材」とは別の部材として説明されていることからすれば,本件考案の対象は,あくまで「棚板」部分のみであり,「横桟部材」自体は,考案の対象とされていないものと解される。したがって,被告各商品との対比についても,被告棚板との対比のみ検討すれば足りる。


イ そこで,被告棚板について検討するに,前記(1)で認定したとおり,被告棚板の一端には,円形の穴が設けられており,被告棚板を靴収納庫の横桟部材に回動及び摺動可能に取り付けるためには,当該円形の穴に横桟部材を挿通させる必要がある。そして,かかる接合態様は,横桟部材を靴収納庫から取り外さない限り,着脱することのできない接合態様であり,本件考案にいう接合態様とは異なるというべきである。


 したがって,被告棚板の円形の穴は,横桟部材に着脱可能に接合することができる掛合部には当たらない。


ウ 上記のように,被告棚板は,靴収納庫に設けられた横桟部材を取り外すことなく,横桟部材に着脱することができる掛合部を備えていないので,構成要件?を充足するとは認められない。


(4) 以上により,被告棚板は,文言上,本件考案の技術的範囲に属するものとは認められない。』


 と判示されました。