平成22(行ケ)10269 審決取消請求事件「土壌の無害化処理方法」

 本日は、『平成22(行ケ)10269 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「土壌の無害化処理方法」平成23年05月11日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110512115417.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由3(相違点dについての判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)は、

『ウ 取消事由3(相違点dについての判断の誤り)について


 審決が認定した本願発明と甲1発明との相違点dは,「本願発明は,『鉄粉を前記土壌に対して0.1〜10重量%の範囲内で添加』する対し,引用発明は,鉄粉を水溶液に600,1200,6000,12000mg/l 添加する点」である。


 原告は,甲1発明では,TCE水溶液に対して0.12〜1.2重量%の鉄粉を添加する技術が開示されているところ,この技術を本願発明に適用する場合に,鉄粉の添加量を「土壌」中の水分に対する量として算出すると,その値は0.5〜116重量%となり,これは,浄化の対象が「土壌」の場合には,土壌に含まれる「水」に対して必要な添加量の「4〜100倍」以上の鉄粉を添加しなければ分解効果が得られないことになり,また,甲1発明における鉄粉の添加量の中心値が0.63重量%であるのに対して,本願発明の中心値は58.25重量%と,3桁程度の差となっていることは,「水溶液」と「土壌」とが全く異なる性質を有することを裏付けるものでもあり,このように,本願発明は「土壌」について鋭意研究した結果初めて得られた解明事実に基づいてなされたものであり,このような認識は「バイアル瓶内の水溶液」の試験のみからは得られないと主張する。


 そこで検討するに,本願発明は,その特許請求の範囲において「・・・鉄粉を前記土壌に対して0.1〜10重量%の範囲内で添加して該土壌と混合することにより・・・」と記載するように,土壌に対する関係で鉄粉の混合割合を定めているものである。


 そうすると,鉄粉の「土壌中の水分」に対する添加割合に基づく原告の主張は,必ずしも本願発明の特許請求の範囲に対応してはいないが,とりあえず,原告の上記主張を前提とした場合,(原告が主張する)「0.5〜116重量%」という範囲の値は,土壌の間隙率が20%ないし40%と仮定した場合のそれぞれについて,土壌の比重を2.65t/m3として計算した結果であるところ,甲1発明から算出される水溶液に対する鉄粉の添加量である0.12〜1.2重量%と重複している。


 このように,原告の主張を前提とした場合でも,本願発明における土壌に対する鉄粉の添加量は,甲1発明から算出される値と一部重なることから,少なくとも当該重複部分については当業者が容易に想到可能なものであることに加え,本願発明における「0.1〜10重量%」の数値限定の上限値の「10重量%」について臨界的意義があるとは認められず,この上限値は設計的事項にすぎないというべきであるため,相違点dは全体として当業者が容易に想到し得たというべきであり,この点に関する審決の判断は結論において誤りはない


 以上のとおり,相違点dは容易想到であるため,鉄粉の添加量の中心値が本願発明と甲1発明において異なる旨の原告の主張については,検討するまでもない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。