●平成22(行ケ)10310 審決取消請求事件「非ポリマー可撓性有機発光

 本日は、『平成22(行ケ)10310 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「非ポリマー可撓性有機発光デバイス」 平成23年05月10日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110513105237.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由2(相違点(B)に関する判断の誤り)および取消事由3(本願発明の効果に関する判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 清水節、裁判官 古谷健二郎)は、


『3 取消事由2(相違点(B)に関する判断の誤り)について

(1) 原告は,審決が,相違点(B)に関する検討において,「微小な放電が生じて素子を破壊しないように,ITOからなる透明導電性膜の第1電極の表面を,さらに平滑にしようとすること,すなわち,凹凸の程度を小さくしようとすることは,引用例2の記載事項を基に当業者が容易になし得ることである。」と判断したことが誤りであると主張する。


(2) そこで検討するに,引用例2(甲2)には,有機薄膜EL素子のITO透明陽極の凹凸が大きいと凸部にかかる電界が大きくなり,その部分で微小な放電が生じて素子を破壊し,非発光点を生じさせて素子の寿命を低下させるため,凹凸が5nm以下のできるだけ平滑な透明陽極が望まれることが記載されているものと認められるが,本願発明のように,「繰り返して曲げた後でも電流/電圧特性の明白な変化がない」ことに着目しての平滑な透明陽極という事項までは開示されていない。


 しかし,引用発明は,前記2(2)のとおり,発光効率,発光安定性ともに優れ,種々の形状に変形しても性質が変化しないという作用効果を奏するために,第1電極等の表面における1μm以上の異物,突起物,穴,空孔などの単位面積当たりの欠陥の合計数をできるだけ少なくし,当該表面が平滑である方が望ましいことを開示するものである。そして,当業者であれば,異物等の大きさが1μm以上であることに格別の技術的意味はないものと理解できるから,結局,引用発明は,引用例2を参酌するまでもなく,第1電極等の表面をできるだけ平滑にすることにより,繰り返して曲げた後でも電流/電圧特性の明白な変化が生じないという,本願発明と同様の技術思想を開示しているものと認められる。


 また,電極の凹凸を原子間力顕微鏡を用いて測定することは,周知技術であり(引用例2),その凹凸の程度を表面rms粗さにより示すことも,周知技術である(審決が掲げた特開平6−289194号公報,甲4)と認められる。そして,本願発明におけるITOの表面rms粗さが「3.6nmを超えない」という数値限定については,前記1のとおり,ITOの表面rms粗さができるだけ小さいことが望ましい旨の技術的意味を示したにすぎず,その臨界的意義を見い出すことはできない(原告自身も,本願発明の「3.6nmを超えない」という数値限定に対して臨界的意義は必要とされるものではないと主張する)。


 したがって,当業者が,引用発明において,本願発明の相違点(B)に係る構成を採用することに,格別の困難性はないものといえ,原告の上記(1)の主張は採用することができない。


(3) 原告は,本願発明と引用発明とでは,発明が解決しようとする課題が異なり,課題解決のための基本的な技術思想も異なる上に,0.5cmの曲率半径に繰り返し折り曲げた場合の耐久性についても引用発明は円筒状に1回曲げた結果しか示しておらず,ITOが脆い性質のものであって,素子の2回目の折り曲げにおいて短絡が生じる蓋然性は極めて高いことからみて,本願発明と引用発明との効果は同質であるとはいえないと主張する。


 しかし,前示のとおり,本願発明と引用発明とは課題解決のための技術思想が共通するものであり,引用発明における変形が1回のみであって複数回にわたる変形が排除されていると限定して解釈すべき合理的理由はないから,原告の主張を採用することはできない。


 この点に関して原告は,引用発明の技術思想は,発光デバイスの層の厚さよりも大きなITOの大きな欠陥を少なくすることによって素子の耐折り曲げ性を向上させるというものであるのに対し,本願発明の技術思想は,ITOの表面のrms粗さとして測定した滑らかさを制御することによって耐折り曲げに強い可撓性有機発光デバイスを得ようとするものであると主張する。


 しかし,引用発明は,前示のとおり,1μm以上の異物空孔などの単位面積当たりの欠陥の合計数をできるだけ少なくするという技術思想を開示するが,その異物等の多きさが必ずしもデバイスの各層の厚さよりも大きいものに限定されるわけではなく,本願発明と同様に電極の表面が平滑であることが望ましい旨を明らかにしているから,原告の主張は採用することができない。


4 取消事由3(本願発明の効果に関する判断の誤り)について

 原告は,審決が,「本願発明の効果も,引用発明1,引用例2に記載された事項及び周知技術から予測し得る範囲内のものであり,格別のものとは認め難い。」と判断したことは,ITOは脆いという本件出願前の技術常識を看過したものであり,本願発明の効果は当業者の予測できる範囲を超えるものであると主張する。


 しかし,引用発明は,前示のとおり,第1電極等の表面をできるだけ平滑にすることにより,繰り返して曲げた後でも電流/電圧特性の明白な変化が生じないという,本願発明と同様の技術思想を開示していると認められるから,ITOは脆いということが本件出願前の技術常識であるか否かを問うまでもなく,本願発明の効果は,引用発明から予測し得る範囲内のものであり,原告の上記主張を採用することはできない。』


 と判示されました。

 
 詳細は、本判決文を参照して下さい。