●平成22(行ケ)10401 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「浄水器

本日は、『平成22(行ケ)10401 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟浄水器平成23年04月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110510113010.pdf)について取り上げます。

 本件は、意匠登録無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、3条1項3号における本件意匠と引用意匠との類否についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 井上泰人、裁判官 荒井章光)は、

『1 本件意匠と引用意匠との類否について

?A 類否判断の前提となる事実

ア 本件意匠の形態について

 本件意匠の形態について,全体が縦長の略直方体形状を呈し,本体正面の左右両側縁部は,丸みを帯びた弧状面とされ,本体の両側面において,背面より奥行きの約1/4前方に縦分割線が形成され,本体の上縁部及び下縁部に周回する横分割線が形成され,本体正面の中央よりやや上方に吐水口が形成され,吐水口は本体正面から水平に突出する短い管と,これに接続された逆円錐台状口部と,その上面には縦長の逆台形状のレバーが形成され,そのレバーは水平方向に対して略60度程度の角度で手前側(右側面視左方)に傾斜して形成され,吐水口よりやや上方から本体の上端付近に亘って,凸状で縁取りされたトラック形状の窓部が形成され,凸状縁取り部前面角部(正面側突出面の角部)は傾斜状に面取りされたものであることは,当事者間に争いがない。


イ 引用意匠の形態について

 引用意匠の形態について,全体が縦長の略直方体形状を呈し,本体正面の左右両側縁部に,正面の略2分1の平面部を残し,その両側に略30度の角度で後方に傾斜するテーパー面が形成され,本体の両側面において,背面より奥行きの約1/4前方に縦分割線が形成され,本体の上縁部及び下縁部に周回する横分割線が形成され,本体正面の中央よりやや上方に吐水口が形成され,吐水口は本体正面から水平に突出する短い管と,これに接続された逆円錐台状口部と,その上面には縦長の逆台形状のレバーが形成され,そのレバーは水平方向に対して略30度程度の角度で後方側(右側面視右方)に傾斜して形成され,吐水口よりやや上方から本体の上端付近に亘って,凸状で縁取りされた円形状の窓部が形成され,凸状縁取り部前面角部(正面側突出面の角部)は傾斜状に面取りされたものであることは,当事者間に争いがない。


ウ 本件意匠と引用意匠との共通点及び差異点

 また,本件意匠と引用意匠との共通点及び差異点が前記第2の2?Bの本件共通点及び本件差異点のとおりであることも,当事者間に争いがない。


?B 両意匠の類否

ア 本件共通点について

 浄水器において,本体部分が略直方体形状を呈し(甲10の1〜7等),本体部分を構成する板材と板材との接合部分が合わせ面として線状に形成され(甲10の45,46等),本体正面の中央よりやや上方に吐水口が形成され,吐水口は本体正面から水平に突出する短い管と,これに接続された逆円錐台状口部と,その上面には縦長の逆台形状のレバーが形成されているほか(甲10の3等),容器内の残量確認用の窓部を形成し,当該窓部を凸状縁部によって囲うこと(甲10の37等)は,本件出願日前から普通に見られる,ありふれた態様であって,本件共通点については,いずれも本件意匠及び引用意匠における格別に顕著な特徴ということはできない。


 この点について,原告は,本件共通点は,それぞれ単独では公知の意匠に見られる形状等だとしても,共通点1,2,5を1つの意匠の創作と解すれば,公知意匠とは異なる特徴を有するものということができる,共通点4及び5は,両意匠に特有の格別に顕著な特徴であるなどと主張する。


 しかしながら,意匠の類否判断は,当該登録意匠と引用意匠とを全体として観察すべきであるから,両意匠の共通点の一部のみ(共通点1,2,5)を1つの意匠と仮定して判断することは,明らかに失当である。また,共通点4及び5は,本件出願前から普通に見られる態様であることも,先に指摘したとおりである。原告の主張は採用できない。


イ 本件差異点について

?? 本件意匠が浄水器に関する意匠であることに鑑みると,需要者は,浄水器を使用する際,吐水口等が設置された浄水器正面部を必ず目にするものである。そして,本体正面部の大きな部分を占めている両側縁部について,本件意匠のように,端部付近が丸みを帯びた弧状面であるか,引用意匠のように,略2分の1の平面部を残し,その両側に略30度の角度で後方に傾斜する傾斜面であるかの差異は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に与える影響が大きいというべきである。したがって,差異点1は,需要者に引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的効果を有するものということができる。


 この点について,原告は,角を丸める「丸面取り」は,面取りの一種と認識されているから,本体正面の両側縁部は共通する美感を有しているといえるので,差異点1が類否判断に与える影響は大きくないなどと主張する。


 しかしながら,角を丸める「丸面取り」が面取りの一種であったとしても,大きく形態が異なる本件意匠と引用意匠とにおける本体正面の両側縁部の美感が直ちに共通するものということはできない。原告の主張は採用できない。


?~ 吐水口についても,需要者が浄水器を使用する際,必ず目にするものである以上,吐水口のレバーの形状や配置状態(レバーが手前側に立設されているか,後方側に寝ているか)については,需要者の美感に与える影響は大きいというべきである。


 したがって,差異点2は,需要者に引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的効果を有するものということができる。


 この点について,原告は,種々の角度で立設されたレバーを備える吐水口の形状は公知であるから,需要者は,どのような角度でレバーが立設されているかについて格別認識することなく,浄水器を使用するものであるといえるので,差異点2が類否判断に一定程度の影響を与えることはないなどと主張する。


 しかしながら,種々の角度で立設されたレバーを備える形状の吐水口が存在するからといって,需要者が吐水口のレバーの形状を格別認識することなく,浄水器を使用するものということはできない。原告の主張は採用できない。


?? 容器内の残量確認用の窓部についても,需要者が浄水器を使用する際,これに着目し,内容量を確認してから給水を開始し,あるいは残量を継続的に確認しつつ給水を終了することが一般的であるから,浄水器の窓部の形状は,需要者の美感に与える影響は大きいというべきである。


 そして,本件意匠の窓部は,略直方体形状の本体部分と同様に縦長の略トラック形状であるのに対し,引用意匠における円形状の窓部は,本体の形状が縦長の略直方体形状を呈する中にあって,特徴的な形態を有しているものであるから,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与えるものということができる。

 したがって,差異点3は,需要者に引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的効果を有するものということができる。


 この点について,原告は,円形の窓を備えた公知意匠を本意匠として,縦長略トラック形状の窓を備えた公知意匠が類似意匠として登録されているから,窓部の両形状は共通の美感を有するものであるといえるので,差異点3が類否判断に与える影響は大きくないなどと主張する。

 しかしながら,特定の部位の形状について共通の差異点を有する意匠について,本意匠及び類似意匠としての登録がされた対比事例があることをもって,その余の共通点及び差異点等の構成上の特徴を無視し,本件意匠と引用意匠との前記差異点3に係る類否判断においても同様に解することは,意匠の類否は全体的な観察に基づいて行われる以上,相当ではない。原告の主張は採用できない。


書@ 需要者は,浄水器を使用する際,吐水口等が設置された浄水器正面部を必ず目にするものである以上,本体の縦・横の比率は,美感に影響を与えるものということができる。


 そして,本件意匠は,引用意匠と比較して縦長の態様を呈しており,需要者にスリムな印象を与えるものである。

 したがって,差異点7は,需要者に引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的効果を有するものということができる。


 この点について,原告は,浄水器は,本体正面が最も需要者に看取されるものであるから,両意匠の全体の比率の評価においては,奥行きに対する縦の比率よりも,むしろ本体正面直方体の縦と横の比率をより重視して評価すべきであるところ,本件意匠と引用意匠における同比率の差異,すなわち,差異点7が類否判断に与える影響は微弱であるなどと主張する。


 しかしながら,差異点7については,原告主張のとおり,正面直方体の縦と横の比率を重視して評価したとしても,なお類否判断に一定の影響を与えるものということができる。原告の主張は採用できない。


以上からすると,その余の差異点については格別特徴的なものではないとしても,本件意匠と引用意匠との類否判断において,差異点1 ないし3は顕著な特徴ということができ,美感に大きな影響を与えるものということができるのみならず,差異点7についても,美感に影響を与えるものということができるから,本件差異点は,需要者に全体として引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的効果を有するものと認めるのが相当である。


ウ 小括

 以上からすると,本件共通点は,浄水器において普通に見られるありふれた態様であって,いずれも本件意匠及び引用意匠における格別に顕著な特徴ということはできないのに対し,本件差異点は,美感に及ぼす影響が大きく,需要者に全体として引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的効果を有するものと認められるから,本件意匠と引用意匠とを全的的に観察した場合,両意匠は類似するものということはできない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。