●平成22(行ケ)10288 審決取消請求事件「縦形式固液分離精製搾り機

 本日は、『平成22(行ケ)10288 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「縦形式固液分離精製搾り機」平成23年04月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110428141339.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の棄却審決の取消を求めた審決取消訴訟事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(本件訂正の可否についての判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 知野明、裁判官中 平健)は、

『当裁判所は,原告が主張する取消事由には理由がなく,審決を取り消すべき違法は認められないから,原告の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。


1 取消事由1(本件訂正の可否についての判断の誤り)について

 本件訂正は,願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないとした審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

(2) 判断

 特許法126条3項は,訂正が許されるためには,「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内」であることを要する旨規定する。同規定は,第三者に対する不測の損害の発生を防止し,特許権者と第三者との衡平を確保する趣旨で設けられたものであるから,同規定の要件を充足するか否かは,同趣旨に照らし,訂正に係る事項が,願書に添付された明細書又は図面の特定の箇所に直接的又は明示的な記載があるか否かを基準により形式的に判断すべきではなく,当業者において,明細書又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項(すなわち,当業者において,明細書又は図面のすべてを総合することによって,認識できる技術的事項)との関係で,新たな技術的事項を導入するものであるか否かを基準として,実質的に判断すべきである。


 上記観点から,本件訂正が許されないとする原告の主張の当否について検討する。


 原告は,本件明細書の段落【0012】の記載及び図1(別紙図面のとおり)によれば,下方側のカラー部材15は,スクリーン4の下方に設けられており,縦型筒体の下方に存在するものではないから,訂正事項1,3中の「カラー部材が縦型筒体の下方に固定されている」との点は,願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものではないと主張する(訂正事項1,3)。


 しかし,原告の上記主張は,採用することができない。

 すなわち,本件明細書には,「スクリーン4は上方側のカラー部材14と下方側のカラー部材15間に架設される。」(段落【0012】)と記載される一方で,「本発明の縦形式固液分離精製搾り機1は大別して垂直方向に沿って配置される縦型筒体2と,同じく垂直方向に沿って配設され縦型筒体2内に収納されるスクリュー3と,該スクリュー3の回転機構部5と,縦型筒体2間とスクリュー3の間に配設され前記スクリュー3の羽根18先端に接合される摺接部材18a・・・と,該摺接部材18aが摺動するスクリーン4等からなる。」(段落【0009】),「縦型筒体2は支持台6に片持ち懸下支持され,食品原料7・・・の投入される投入口8と圧搾分離液12を取出す排出口9を形成する。また,その下端の底板10には脱水粕11(図2)が排出される排出口13が形成される。なお,図1に示す如く縦型筒体2の上下にはカラー部材14,15が固定される。」(段落【0010】),「下端の支持軸21は下方のカラー部材15内に嵌着され,上下に移動して固定可能な支持具22に枢支される。なお,支持具22には排出口13側に開口する脱水粕通路23が貫通形成される。」(段落【0011】),「縦型筒体2の底板10の排出口13は閉止用蓋28により閉止される。」(段落【0015】)と記載されている。


 上記明細書の記載及び図1(別紙図面)を総合すると,本件発明1における「縦型筒体」は,カラー部材及び底板も含めた全体を指し,圧搾分離液排出口,原料投入口及び脱水粕排出口を有するものと解するのが合理的である。


 したがって,本件明細書及び図面には,カラー部材は,「縦型筒体」の下方に固定されていることが示されていると理解することができる。そうすると,訂正事項1,3により新たな技術的事項を導入するものとはいえない。


 また,原告は,本件明細書には,支持具を上下に移動することに関して,具体的な構成が開示されていないから,「支持具を下げることによりスクリューを下降させ(る)」との構成は,明りょうでない記載の釈明には当たらないと主張する(訂正事項2,4)。


 摺接部材が磨耗した場合に支持具を下げることによりスクリューを降下させることの技術的意義は明確であるから,本件訂正が本件特許の技術内容を不明確にするとの原告の主張は採用の限りでない。


 以上によれば,本件訂正は,いずれも,願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでなく,特許法134条の2第1項ただし書,及び同条5項において準用する同法126条3項,4項の要件を満たすとした審決の判断に誤りはない。』


 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。