●平成22(行ケ)10252 審決取消請求事件「音響波方式タッチパネル」

 本日は、『平成22(行ケ)10252 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「音響波方式タッチパネル」平成23年04月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110502083302.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消訴事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、サポート要件の判断基準が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子、裁判官 田邉実)は、


『2 サポート要件の判断基準

 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである知財高裁大合議部判決平成17年11月11日〔平成17年(行ケ)10042号〕参照)。


 本願発明は,音響波方式タッチパネルに用いられるガラス基板の成分の含有量の数値範囲を特定している発明であるから,本願発明において,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲に記載された当該成分の含有量の数値範囲が,発明の詳細な説明に記載されており,当該成分の含有量の数値範囲により,発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が音響波減衰等の抑制等の課題を解決できると認識できるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし音響波減衰の抑制等の課題を解決できると認識できるか否かを検討して判断すべきと解される


3 発明の詳細な説明において記載された具体例


 ・・・省略・・・


12 ガラス基板の密度について

(1) 原告は,段落【0042】の記載に,ガラス基板における一般的な密度が2.6〜3.0g/cm3であることを考え併せれば,実施例において確認された効果が請求項9に係る発明の範囲で得られることが,当業者には理解されると主張する。


(2) しかし,段落【0042】には「ガラス基板の密度は,例えば,2.6〜3.0g/cm3程度,好ましくは2.7〜3.0g/cm3程度(特に,2.75〜3.0g/cm3程度)である。」との記載はあるが,本願明細書には,ガラス基板の密度と本願発明の作用・効果との関係は具体的に記載されていない。


 よって,技術常識を参酌しても,ガラス基板の密度としての「2.6〜3.0g/cm3」の数値範囲と得られる効果との関係の技術的な意味が,当業者に理解できる程度に記載されているということはできない。


(3) また,原告主張の「ガラス基板における一般的な密度が2.6〜3.0g/cm3であること」が,出願時の技術常識であることについては,これを認めるに足りる証拠はない。


 よって,原告の主張は採用することができない。

(4) 本願明細書の発明の詳細な説明に記載された具体例について検討するに,比較例1,比較例2,参考例1,参考例2及び実施例1について,各ガラスの密度は記載されているものの(表1),密度に関する効果について,具体的に記載されていない。


 よって,このような5つの具体例から,密度に関する効果が得られる範囲として,ガラス基板の密度が2.6〜3.0g/cm3であることが裏付けられているとはいえない。
(5) したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,出願時の技術常識を参酌して,ガラス基板の密度が2.6〜3.0g/cm3であれば密度に関する効果が得られると,当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載したものではない。


13 ガラス基板の軟化点について

(1) 原告は,段落【0042】の記載に,ガラス基板における一般的な軟化点が800〜900℃であることを考え併せれば,実施例において確認された効果が請求項10に係る発明の範囲で得られることが,当業者には理解されると主張する。


(2) しかし,段落【0042】には,「ガラス基板の軟化点(107.6poise)は,例えば,800〜900℃程度,好ましくは830〜860℃程度である。」との記載はあるが,本願明細書には,ガラス基板の軟化点と本願発明の作用・効果との関係は具体的に明示されていない。


 よって,技術常識を参酌しても,ガラス基板の軟化点としての「800〜900℃」の数値範囲と得られる効果との関係の技術的な意味が,当業者に理解できる程度に記載されているということはできない。


(3) また,ガラス基板における一般的な軟化点が800〜900℃であることが出願時の技術常識であることについては,これを認めるに足りる証拠はない。


(4) 本願明細書の発明の詳細な説明に記載された具体例について検討するに,比較例1,比較例2,参考例1,参考例2及び実施例1について,各ガラスの軟化点は記載されているものの,軟化点に関する効果については具体的に記載されていない。


 よって,このような5つの具体例から,軟化点に関する効果が得られる範囲として,ガラス基板の軟化点が,800〜900℃であることが裏付けられているとはいえない。


(5) したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,出願時の技術常識を参酌して,ガラス基板の軟化点が800〜900℃であれば軟化点に関する効果が得られると,当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載したものではない。


14 小括

 以上より,原告が主張する取消事由2は理由がなく,審決のサポート要件違反についての判断に誤りはない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。