●平成22(行ケ)10332 審決取消 商標権 行政訴訟「天下米」

 本日は、『平成22(行ケ)10332 審決取消 商標権 行政訴訟「天下米」平成23年04月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110427131509.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、商標法4条1項11号の判断における商標の類比の判断が参考になるかと思います。

 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、

『 2 商標法4条1項11号該当性の有無

 審決は,本願商標「天下米」と引用商標「天下」は類似し,また本願商標の指定商品「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」と引用商標の指定商品の一部「籾米」も類似するから,本願は商標法4条1項11号に該当し商標登録を受けることができないと判断するところ,原告は上記類似該当性をいずれも争うので,以下検討する。


 ・・・省略・・・


(2) 本願商標「天下米」と引用商標「天下」とは類似するか

商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうる限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


 また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものを類否判断の対象とする場合,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないと解すべきである最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。


 そこで,上記観点に立って,本願商標「天下米」と引用商標「天下」との類否につき以下検討する。


イ(ア) 被告は本願商標「天下米」につき「天下」「米」と分離した上で,「米」の部分には自他商品の識別機能がなく「天下」の部分が要部であるとするが,「米」が普通名詞であるとしても,わずか3文字の漢字からなる「天下米」につき,このように分離して観察すべき十分な根拠はないというべきであって,本願商標については,基本的に「天下米」として一体的にみるのが相当である。


(イ) そこで,一体である本願商標「天下米」と引用商標「天下」を比較してみる。


 本願商標は,前記第2,2(1)のとおり「天下米」との縦書きの筆書風の文字よりなるところ,「天下」・「米」という構成要素から「この上なくすばらしい米」といった観念が生じるとともに,「テンカマイ」との称呼を生じる。


 他方,引用商標は,前記第2,2(2)のとおり「天下」の横書きのゴシック体の文字よりなるところ,「天下」とは,「天のおおっている下」・「一国全体。全国」・「一国の政治。万機。また,その権力」・「天子の称」・「実権を握って思うままにふるまうこと」・「世間。世の中」・「世に類がない。この上ない」(広辞苑第6版,甲8)といった各種の観念が生じるものであり,また「テンカ」との称呼が生じるものである。


 以上によれば,本願商標と引用商標とは,まず,その外観上,いずれも図柄等のない文字のみで構成された商標であって,「天下」の部分で完全に一致しており,文字が縦書きか横書きか,筆書風かゴシック体か等の点で違いはあるものの,その外観の違いがさほど顕著であるともいえない。


 また,観念については,本願商標からは「この上なくすばらしい米」といった観念,引用商標からは「天下」ないしそれに準ずる観念(「世に類がない,この上ない」という観念を含む。)が生じるものである。称呼上も,両商標は「テンカ」の部分で一致する。


 そして,商品取引の実情を検討すると,前記のとおり原告は福井県に本店を有し平成3年2月2日に設立された資本金500万円の有限会社であって,創業90年となる来歴の主たる業務は肥料商であり,ウェブサイトによる「天下米」と「土橋商店」の検索結果も1万2800件程度であることからすると,全国的にみた一般需要者が「天下米」なる文字を見,あるいは「テンカマイ」なる称呼を聞いたときに,その販売業者としての「土橋商店」(原告)を直ちに想起するとまではいえないというべきである。


(ウ) 以上によれば,本願商標と引用商標とは,外観は,その受ける印象が相当程度異なるものの,「天下」が共通であるから,一定程度の共通性が認められ,観念は,本願商標が「米」に関するものであるとしても,「この上なくすばらしい」「世に類がない」という意味を含む「天下」を共通にしているから,相当程度共通しており,称呼も「テンカマイ」と「テンカ」であって相当程度共通しているといえるから,前述した取引の実情を考慮すると,商標法4条1項11号にいう「類似する商標」であると認めるのが相当である。


ウ 原告の主張に対する判断

 (ア) 原告は,取消事由1において,審決が本願商標「天下米」を「天下」と「米」とに分離して判断したことが誤りである旨主張するところ,この点については,前記のとおり,本願商標は「天下米」として一体的に解すべきであり,その限りにおいて原告の主張は理由があるが,いずれにしても,審決による本願商標と引用商標の類否判断の結論に影響を及ぼすものではない。


(イ) また原告は,特許庁において,「天下」の文字を接頭語,接尾語とする多くの商標につき登録が認められている旨主張するが,各出願商標が登録要件を充たすか否かは事案ごとの判断であるから,「天下」の文字部分を含む他の商標が登録を認められたからといって,本願商標が登録を認められるかとは別の問題であって,原告の上記主張は理由がない。


(ウ) 原告は,インターネット上,本願商標の「天下米」と原告名「土橋商店」をキーワードとして検索すると,多数ヒットすることからすれば,本願商標「天下米」と原告は決して無名ではなく,相当広い範囲で周知であると主張するが,広くインターネットが普及した現代社会において,この程度の事実によって,原告と本願商標との結びつきが全国的にみた一般需要者にとって周知であるとまで認めるには足りない。』

 と判示されました。