●平成21(ワ)2310 不正競争行為差止等請求事件(3)

 本日も、『平成21(ワ)2310 不正競争行為差止等請求事件 平成23年03月24日 大阪地方裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110418132258.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点3(原告商品のブラシ単体は本件特許発明3の技術的範囲に属するか)における出願経過等を参酌してのプロダクト・バイ・プロセスクレームの技術的範囲の判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 北岡裕章、裁判官 山下隼人)は、


『3 争点3(原告商品のブラシ単体は本件特許発明3の技術的範囲に属するか)について


 ・・・省略・・・


(4) したがって,原告商品のブラシ単体は,少なくとも構成要件Pにいう環状の溶着部が形成される工程を含んで製造される物とは認められないから,原告商品のブラシ単体は,その余の構成について判断するまでもなく,本件特許発明3の技術的範囲に属するものとは認められない。


(5) 被告の主張について

ア 被告は,本件特許発明3は物の発明であることから,特許請求の範囲の記載のうち物の特定に必要な構成要件さえ充足すれば,構成要件Pの非充足にかかわらず,原告商品のブラシ単体はその技術的範囲に属するとし,本件特許発明3の構成要件Pの製造方法部分は,技術的範囲を限定する機能がないように主張する。


確かに,本件特許発明3は特許法2条3項1号の物の発明であるから,本来,製造方法によって,その技術的範囲が限定されるべきものではなく,また製造方法による限定を加えなくとも,物としての構成を特定することは可能である。


ウ しかしながら,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件特許3に係る出願経過について,以下の事実が認められる。


(ア) 出願当初の請求項1の記載

 訴外P1は,平成14年11月14日,本件特許3に係る出願(特願2002−330721号)をした(甲97の1・3)。本件特許3の出願当初の請求項1の記載(本件当初発明3)は以下のようなものであった(甲97の5)。


「多数枚を重ねて回転歯ブラシを形成するブラシ単体であって,多数の素線が束状に集合されると共に,その素線が放射方向に押し開かれてなる素線群と,押し開かれた素線群が台座に固定された状態で,素線群の中心部分が環状に溶着されて溶着部が形成されると共に,環状の溶着部の内周が円形に切断されて円形の挿通孔が形成されてなるロール歯ブラシ用のシート状のブラシ単体。」


(イ) 拒絶理由通知の内容

 特許庁審査官は,平成19年5月15日,本件当初発明3は,特願2001−307672号を先の出願として,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない旨の拒絶理由を発した(甲97の9)。


 同拒絶理由に係る拒絶理由通知書には以下の記載がある。

「先の出願1の願書に最初に添付された明細書又は図面には,ロール歯ブラシ用の回転ブラシにおいて,台座に設けた挿通孔から突出させた素線群の突出端の中央にコーンを差し込んで放射方向に押し開き,押し開かれた前記素線群を台座に固定して中心部分を環状に溶着して挿通孔を形成することにより製造されたシート状のブラシ単体を備えたものが記載されている。」


(ウ) 出願人による補正

 訴外P1は,平成19年8月30日,手続補正書(本件補正書)を提出して,本件当初発明3の内容を本件特許発明3のように補正するなどし(本件補正),これにより平成19年9月19日に特許査定を受けた(甲97の4・11)。


 訴外P1は,本件補正に係る同日付けの意見書(以下「本件意見書」という。)において,以下のように述べた(甲97の11)。


「本願の請求項1の発明は,前記のとおり…であるところ,引用例には,少なくとも上記の構成要件である『素線群の中心部分が,内周が挿通孔の上端周縁に位置する環状の溶着部に形成され』ること,及び,『環状の溶着部の内周が,挿通孔の上端周縁の位置で円形に切断されて』いること,については記載も示唆もされていない。」
「本願発明は,このように素線群1を台座の上に固定した状態で内周が挿通孔の上端周縁に位置する環状に溶着するとともに,同じく台座の上に固定した状態で溶着する部分の内側を挿通孔の上端周縁の位置で切断するので,溶着部(81)の厚さが均一に仕上げられる,という効果を奏するものである(〔0016〕など参照)。引用例からはこのような効果は期待できないもので,本願発明特有の効果である。

 以上のとおり,本願発明は引用例に記載された発明であるとはいえないので特許法第29条の2に該当するものではない。」


以上のとおり,本件特許3の出願から特許査定に至る経緯をみると,訴外P1は,拒絶査定を免れるため,本件補正において,ブラシ単体の製造工程について具体的に特定した記載を特許請求の範囲に盛り込んだ上,かかる製造工程によって製造されたが故に,「溶着部の厚さが均一に仕上げられる」という従来のブラシ単体にはない新規な効果が期待できる旨強調していることが認められる。


 そうすると,これによって従来のブラシ単体と差異が生ずるのかどうかは不明であるものの,少なくとも,特許庁審査官は,かかる意見を考慮に入れて特許査定をしたものと認められるから,本件特許発明3の技術的範囲を定める上では,構成要件Pを無視することは許されず,むしろ同構成要件は,本件特許発明の技術的範囲を限定する機能を有しているものと解すべきである。


オ したがって,本件特許発明3の技術的範囲を定めるに当たり,これを無視すべきようにいう被告の主張は失当であり,採用できない。』

と判示されました。