●平成22(ネ)10014 各意匠権侵害差止等・特許権侵害差止等

 本日も、『平成22(ネ)10014 各意匠権侵害差止等・特許権侵害差止等 意匠権 民事訴訟「マンホール蓋用受枠(部分意匠)/地下構造物用丸型蓋」平成23年03月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110414114410.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点B−2(被告製品Bは,本件発明と均等か)についての判断も参考になります。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『争点B−2(被告製品Bは,本件発明と均等か)に関し

・原判決31頁2行目から33頁4行目までを削除し,以下のとおり改める。

・「(1)特許権侵害訴訟において,相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下『対象製品等』という。)が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を確定しなければならず(特許法70条1項参照),特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合には,上記対象製品等は,特許発明の技術的範囲に属するということはできない。


 しかし,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,?上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,?上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,?上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,?対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,?対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。


 そして,上記?における『特許発明の本質的部分』とは,明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分を意味するものである。


(2)具体的検討


 ・・・省略・・・


エ均等論適用のための第1要件具備の有無

 以上によれば,本件特許(RV構造)出願以前から,平受構造や急勾配受構造のマンホールは存在したが,本件発明では,内鍔(棚部)を用いず,凸曲面部と凹部で構成することにより,『閉蓋の際,バールで蓋本体を引きずるようにしたり,蓋本体を後方から押し込むだけで蓋本体を受枠内にスムーズに収めることができる』ようにしたものと認められ,その全体的な構成をみれば,被告製品Bにおいても,凹曲面部はないものの,本件発明の構成と類似の構成を採用したことによって,蓋本体を受枠内にある程度スムーズに収めることができるものといえる。


 このように,内鍔(棚部)を設けず,凸曲面部と凹部とで受枠を構成するという点において,本件発明と被告製品Bとは共通している。


 なお,被控訴人は,被告製品Bには蓋本体,受枠ともに凸曲面部がないと主張するが,本件発明と同様の作用効果をもたらすかはともかくとして,被告製品Bの『蓋アール面12』,『受枠アール面21a』とされる部分が,いずれも形式的に『凸曲面部』に当たることは明らかである。


 また,被告製品Bの『蓋A面11』が『凹曲面部』に当たることは明らかである。


 さらに,被控訴人は,被告製品Bの『蓋A面11』及び『蓋アール面12』は,受枠の凸曲面部,凹曲面部に倣っていない旨主張するが,これらはいずれも『受枠アール面21a』,『段部22』に対応する形で形成されており,『倣った』の要件を満たすものというべきである。


 他方で,本件発明の請求項の分説B,C,Gのほか,明細書の段落【0008】,【0020】においても,繰り返し『凸曲面部』と『凹曲面部』とが対になって記載され,蓋本体と受枠それぞれに凸曲面部と凹曲面部を設けるという構成を採用したことによって,『閉蓋の際,バールで蓋本体を引きずるようにしたり,蓋本体を後方から押し込むだけで蓋本体を受枠内にスムーズに収めることができる』との作用効果(本件作用効果?)が生じる旨記載されている。


 以上を前提として,明細書のすべての記載や,その背後の本件発明の解決手段を基礎付ける技術的思想を考慮すると,本件発明が本件作用効果?を奏する上で,蓋本体及び受枠の各凸曲面部が最も重要な役割を果たすことは明らかであって(段落【0009】【0020】等参照),『受枠には凹部が存在すれば足り,凹曲面部は不要である』との控訴人の主張は正当であると認められ,本件発明において,受枠の『凹曲面部』は本質的部分に含まれないというべきである。


 なお,明細書の段落【0020】には,『閉蓋状態において,受枠上傾斜面部と蓋上傾斜面部および受枠下傾斜面部と蓋下傾斜面部は嵌合し,蓋凸曲面部と受枠凹曲面部および蓋凹曲面部と受枠凸曲面部は接触しないようにする』という構成を採ることにより,本件作用効果?を奏する旨記載されており,ここでは受枠の凹部が『曲面部』であるかどうかは問題とされていないといえ,本件作用効果?を奏する上でも,受枠の凹部が『曲面部』であることは本質的部分には含まれないというべきである。


オ均等論適用のための第2要件具備の有無

 甲B37ないし39,乙B13ないし19(実演結果)からすれば,確かに裁判所での実演は,実演者の開閉方法の巧拙等に大きく依存するものではあるが,被告製品Bも,本件作用効果?を一定程度奏するものと認められ,受枠に設けられているのが『凹曲面部』か『凹部』かによって大きな差異がないものといえる。


 また,前記ウ(ウ)のとおり,控訴人によるシミュレーション結果(被控訴人が提出した図面に基づいて行われており,その正確性については,当事者間において争いがあるが,相当程度正確であるものと認められる。)でも,日之出製品では,3mm〜9mm移動位置の水平移動の間に,凸曲面部どうしの当接位置が徐々に上方に移動するのに対し,被告製品Bでは,当接位置の上下方向の移動が,最後の2mm程度の水平方向の移動の間に行われることが認められる。


 このように,蓋を閉じる際,被告製品Bにおいては,本件発明と比べて,蓋と受枠との当接位置の上下方向の移動が遅く開始されるものである。


 このほか,上記シミュレーション結果からは,蓋と受枠とが接する際に上部傾斜面に生じる最大面圧が,被告製品Bの方が概して大きいことが認められる。


 これらは,被告製品Bでは,本件発明と比べて,蓋と受枠の各上部の各傾斜面部分がかなり長く,蓋と受枠の各アール面が短い(小さい)ため,アール面どうしが接触する範囲も限られ,蓋と受枠の各上部の各傾斜面部分の接触する範囲が大きいことにより,マンホール開閉時の上下方向,左右方向の移動距離や最大面圧の値に影響を及ぼしているものと判断できる。


 しかし,本件発明と被告製品Bとでは,蓋を閉じる際の蓋の移動,とりわけ,凸曲面部どうしが当接し,凹部(本件発明の凹曲面部どうし,被告製品Bの蓋アール面,蓋下部傾斜面と受枠の段部22)は当接しないとのメカニズムに違いはなく,凸面部の寸法や,蓋と受枠の各上部の各傾斜面の寸法の違いなどにより,シミュレーション結果に若干違いが生じたものと解される。


 したがって,本件発明と被告製品Bとでは,蓋を閉じる際,蓋の移動についての作用効果に本質的な差異はなく,被告製品Bにおいても,本件作用効果?を奏することができるというべきである。


 なお,被告製品Bは,蓋と受枠の上部傾斜面どうし,蓋の環状凸面と受枠垂直面が,いずれも互いに嵌合し,中間にある隙間部分は互いに接触しないように構成されているため,被告製品Bが本件作用効果?を奏することは明らかである。


カ均等論適用のための第3要件具備の有無

 『凹曲面部』を『段部』に置き換えるということは,すなわち,『曲面部』を二本の略『直線部』に置き換えるということであって,一般に,部材を製作するに当たり,曲線よりも直線で構成することが容易であることはいうまでもなく,このような置換自体に何ら困難があるとはいえない。


 以上からすれば,被告製品Bの製造の時点(平成20年3月ころ以前)において,当業者が,本件発明の凹曲面部を凹部(段部)に置き換えることを想到するにつき,特段の困難があったものとは認められず,むしろこのような置換は容易であったものと解するのが合理的である。


キ均等論適用のための第4要件具備の有無

 被控訴人作成のパンフレット(甲C3)上の記載や,本件特許出願過程において特許庁からなされた拒絶理由通知(甲B28,乙B11)において挙げられた公知文献(甲B29ないし31)の記載をみても,本件特許の出願時(平成14年2月14日)に,地下構造物用丸型蓋(マンホール)の分野において,蓋本体と受枠とを傾斜面部により嵌合支持すること自体は周知であったとしても,被告製品Bのように,内鍔を設けず,蓋と受枠の凸曲面部どうし,又は上部傾斜面部どうしの当接によって,蓋の開閉をスムーズにし,蓋と受枠の上部傾斜面部どうしを当接させること等によって,蓋本体のガタツキを防止し,土砂,雨水等の浸入を防止するとの解決手段は容易に想到し得なかったというべきである。


ク均等論適用のための第5要件具備の有無

 本件において,控訴人による特許出願過程における手続補正書(甲B32),意見書(甲B33)を参照してもなお,控訴人が,本件特許の出願手続において,特許請求の範囲から被告製品Bのような構成(受枠の『凹曲面部』を『段部』に代える構成)を意識的に除外した等の特段の事情があるものとは認められない。


ケ以上によれば,被告製品Bは,本件発明と均等であり,その技術的範囲に属するものというべきである。』


 と判示されました。