●平成22(ネ)10014 各意匠権侵害差止等・特許権侵害差止等

 本日は、『平成22(ネ)10014 各意匠権侵害差止等・特許権侵害差止等 意匠権 民事訴訟「マンホール蓋用受枠(部分意匠)/地下構造物用丸型蓋」平成23年03月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110414114410.pdf)について取り上げます。


 本件では、まず、本件控訴事件についての当裁判所の管轄権と、争点A−1(被告意匠Aは本件登録意匠Aと類似するか)の部分意匠の類似判断についての判断が参考になります。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、

『当裁判所は,意匠権に基づく侵害差止請求事件であるA事件及びC事件については,原判決と同じく控訴人の請求を棄却すべきものと判断するが,特許権に基づく差止請求事件であるB事件については,原判決と異なり,いわゆる均等侵害を認めて差止請求は全部認容し,損害賠償請求は100万円と遅延損害金の限度で一部認容すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。


1本件控訴事件についての当裁判所の管轄権について

 本件記録によれば,A事件は意匠権に関する訴えで平成20年10月30日に大阪地方裁判所に提起され,一方,B事件は特許権に関する訴えで平成20年12月8日に大阪地方裁判所に提起され,さらにC事件はA事件と同じく意匠権に関する訴えで平成20年12月8日に大阪地方裁判所に提起されたものであること,上記各事件を審理した原審の大阪地方裁判所は,平成21年1月23日にB・C事件をA事件に併合して審理し,平成22年1月21日に全事件を通じた原判決をするに至ったこと,これに対し,各事件の一審原告である控訴人は,平成22年2月1日付けの知的財産高等裁判所宛ての1通の控訴状により本件控訴を提起し,その控訴の趣旨の記載もA・B・C事件の併合を前提としたものであったこと,これを受けた被控訴人も,平成22年4月20日付けの答弁書において前記各事件の併合を前提とした答弁を行っており,これらの両当事者の態度は,平成23年1月17日の当審口頭弁論終結日まで変更がなかったことがそれぞれ認められる。


 ところで,民事訴訟法6条3項,知的財産高等裁判所設置法2条1号によれば,特許権に関する訴えについての第一審が大阪地方裁判所である場合の控訴審管轄裁判所は東京高等裁判所の特別の支部である知的財産高等裁判所に専属するから,特許権に関する訴えであるB事件についての控訴審管轄裁判所は知的財産高等裁判所(当庁)に専属する。これに対し,A事件・C事件はいずれも意匠権に関する訴えであるから前記民事訴訟法6条3項の適用はなく,原判決をしたのが大阪地方裁判所である以上,その管轄高等裁判所は,下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律2条,別表第5表によれば大阪高等裁判所であることになる。


 しかし,本件のように,特許権に関する訴え(B事件)と意匠権に関する訴え(A・C事件)とが原審の大阪地方裁判所において弁論が併合され,判決もそれを前提とした1個のものであり,控訴審たる当庁の審理においてもA・B・C事件の口頭弁論が分離されることがなく併合して審理されたときは,B事件についての控訴審管轄裁判所たる当裁判所は,民事訴訟法7条(併合請求における管轄)及び知的高等裁判所設置法2条4号(関連ある通常訴訟事件の併合)等の趣旨からして,B事件のみならずA事件・C事件についても審理・判断することができると解するのが相当である。


 ・・・省略・・・


(2)争点A−1(被告意匠Aは本件登録意匠Aと類似するか)に関し

ア控訴人は,意匠の類否の判断において,公知意匠を参酌する手法を採ることは許されない旨主張する。

 そこで検討するに,登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており,意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である。


 そして,意匠の新規性(意匠法3条1項)及び創作非容易性(同条2項)という創作性の登録要件を充足して登録された意匠の範囲については,その意匠の美感をもたらす意匠的形態の創作の実質的価値に相応するものとして考えなければならず,公知意匠を参酌して,登録意匠が備える創作性の幅を検討する必要があるため,公知意匠を参酌することの必要性は,意匠法41条によって特許法104条の3が準用されるようになった後においても,完全に失われてはいないというべきであり,控訴人の上記主張は理由がない。


イ控訴人は,仮に,意匠の類否の判断において公知意匠を参酌するとしても,周知意匠に限って参酌すべき旨主張するが,上記のとおり,登録意匠が備える創作性の幅を検討する上で,公知意匠を参酌するものであって,その際,『公知意匠』の中で『周知意匠』のみを別異に扱う根拠はなく(意匠法3条2項参照),上記主張は採用できない。


 そして,前述のとおり,乙A1(引用意匠A)によれば,マンホール蓋用の受枠において,内周部に突設部を設けて,突設部と外周壁との間に水平部を設けるという形態が,本件登録意匠Aの出願時(平成15年8月5日)に公知であったものと認められる。


ウ控訴人は,原判決が,部分意匠の範囲外の部分を対比している旨主張するので,以下検討する。


 部分意匠制度は,独創的な創作がなされた物品の部分に係る意匠を保護する必要性から立法されたものである(意匠法2条1項参照)が,部分といっても,あくまでベースとなった物品の形状全体との関係における部分であるから,部分意匠の形態のみならず,物品全体の位置,大きさを勘案しながら部分意匠の類似の範囲を判断すべきである。


 したがって,仮に,原判決が,控訴人の主張どおり,部分意匠の範囲外の部分を対比していたとしても,これが直ちに誤りであるとはいえないのみならず,後記のとおり,原判決は,部分意匠の範囲外の部分を対比したものではない。


エ本件登録意匠Aは部分意匠(実線部分)であるところ,これに対応する被告意匠Aの部分を確定する必要がある。この点につき,控訴人は,『突設部の円柱状になった部分及び底面からみた部分』に対応する部分であり,被告意匠Aの突設部のうち下半分(円柱状になっている部分)のみと主張する。この主張によれば,原判決において『テーパー状』とされた部分は,類否判断の対象外となる。


 しかし,『マンホール蓋用受枠の上端から突設部下端まで』に占める割合等からして,同主張に基づく両方の意匠部分は対応しておらず,需要者の視覚を通じた美観からすると,被告意匠Aのうち『突設部の内周面,下端部及び外周面全体であって,突設部と受枠の外周壁との間に設けられた水平部よりも下の部分』(段部に続く第二傾斜面と,第二傾斜面に続くアール面及び受枠垂直面,並びに突設部下面と,傾斜面として形成される突設部の外周面,及び突設部と受枠の外周壁との間に設けられた水平部の範囲)に相当する範囲が比較対象であると解するのが相当である。


 以上を前提とすると,『テーパー状』の部分は類否判断の対象であって,同部分を類否判断の対象とした原判決に誤りはない。


 そして,前述のとおり,上方から観察した場合,本件登録意匠Aは,突設部が真下に落ち込み,真円柱に見えるのに対し,被告意匠Aでは,突設部の上部がテーパー状,下部が円柱状になっており,このように,本件登録意匠Aは,突設部の内周部分が単純な円柱状であり,それよりも複雑な構成となる被告意匠Aとの違いは顕著である。


オ控訴人は,需要者が意匠に係る物品の『断面図』を市場において観察することは不可能であるから,原判決が『断面図』に基づく類否判断を行ったことが誤りである旨主張する。


 しかし,需要者がマンホールを購入等する際に,『断面図』どおりの態様で観察できるか否かはともかく,その受枠部分を横や斜め上方から観察することは可能である上,『断面図』は対象物の断面の形状を正確に表すものであって,意匠の類否を判断する際に,『断面図』に基づいて判断することには相当程度の合理性があるものといえ,控訴人の上記主張は採用できない。


カ このほか,物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠につき,意匠登録を受けることができないこと(意匠法5条3号参照)等からすれば,本件登録意匠Aと被告意匠Aの機能的な共通点を強調する旨の控訴人の主張は,意匠の類否の判断においては妥当でなく,採用することができない。』


 と判示されました。