●平成22(行ケ)10268 審決取消請求事件 特許権「高周波超伝導電磁

 本日は、『平成22(行ケ)10268 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「高周波超伝導電磁エンジン」平成23年03月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110328150211.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本件補正却下の判断の当否についての判断と、特許法36条4項1号違反についての判断とが参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 清水節、裁判官 古 谷 健二郎)は、


『1 取消事由1について

 原告は,特許法53条3項ただし書きの規定等を根拠として,本件補正を却下する決定については不服申立てができると解すべきであるなどと主張する。


 しかし,特許法53条3項ただし書きは,拒絶査定不服審判を請求した場合には,審判手続において,審査段階でなされた補正却下の当否を争うことができることを前提にしているものであって,その規定から,審判段階でなされる補正却下の当否についての独立の不服申立てが認められるものではない。特許法159条1項により同法53条の規定が準用されることから明らかなように,拒絶査定不服審判の段階でなされた補正却下の決定に対しては,独立の不服申立てをすることはできず(同条3項本文),審決取消訴訟が提起された場合に,その訴訟において補正却下の当否を争うことができるのである。


 原告の上記主張は独自の見解によるものであって,採用することができない。


 したがって,事前の通知や教示をせずに,審決において本件補正を却下したことに違法はなく,取消事由1は理由がない。


2 本件補正却下の判断の当否

(1) 審決は,本願明細書の段落【0006】,【0014】及び【0015】に記載された「永久電流」を「永久電流(輸送電流)」と補正する補正事項?が新規事項の追加に当たるとして,本件補正を却下したので,その当否について判断するに,当初明細書(甲10)には,「永久電流」に関し,次の記載がある。


 ・・・省略・・・


(2) 超伝導磁石を流れる永久電流には輸送電流と遮蔽電流があるところ,超伝導磁石の強い磁界を発生させるのは一般に輸送電流であるから,上記段落【0014】の「超伝導磁石の強い磁界を作る永久電流」は輸送電流を指すものと解される。


 また,超伝導磁石による磁界の強さは,一般に輸送電流に依存することからすると,上記段落【0015】の「電磁力の強さは,超伝導磁石の磁界の強さを変えることで,変化させることができる。」との記載もまた,「永久電流」が「輸送電流」であることを示唆するものといえる。これらの点に照らすと,当初明細書における「永久電流」は,その中の「輸送電流」を指していたものと解されるから,「永久電流」を「永久電流(輸送電流)」とする補正事項?は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり,かつ,明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。


 なお,被告は,当初明細書には輸送電流を流すための外部電源の記載がないなどと主張するが,当初明細書における「超伝導コイルを流れる永久電流」(段落【0014】)等の記載からすれば,当業者にとって,外部電源により超伝導コイルに電流を流すことは自明であるから,被告の上記主張は採用することができない。


 したがって,補正事項?が新規事項に当たるとして本件補正を却下した審決の判断には誤りがある。


特許法36条4項1号違反について

(1) しかしながら,本件補正において請求項1の文言の補正はないし,上記2で説示したとおり,かつ,原告も「本願発明の永久電流が,発明の構成上当然に輸送電流であることを釈明したもの」と主張するように,補正事項?は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって,本件補正の前後において,請求項1の「永久電流」が永久電流中の輸送電流を指すことに変わりはない。なお,明細書における補正事項?についても,平成21年10月19日付けの補正で発明の詳細な説明段落【0014】の記載に付加した部分を,最後の拒絶理由の指摘に応じて削除するもので,内容的にも請求項1の内容を変更するものとは認められない。


 したがって,本願発明の要旨は,本件補正の前後を通じて変化はないことになる。


 このように本件補正前後で本願発明の要旨に変更がない以上,2で判断したとおり,本件補正却下についての審決の判断は誤りであるとしても,審決が本件出願を拒絶すべきとした理由のうち,特許法36条4項1号違反の点に関しては,本件補正前についての審決の判断に誤りがなければ,その判断内容は,本件補正後の本願発明にも当てはまり,審決の結論に結果的に誤りがないことになるので,その点について次に判断する。


(2) 本願明細書に記載された技術的事項は,少なくとも次のア,イのとおり,物理学や超伝導の技術分野における技術常識によって裏付けられているとはいえないから,たとえ本願明細書に,目的・構成・作用・効果が形式的に記載されているとしても,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。


 ・・・省略・・・


(3) したがって,本願明細書には,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできないから,本願発明について特許法36条4項1号に違反するとした審決の判断に誤りはないことになる。


4 したがって,本件出願は特許法36条4項1号所定の要件を満たさないから,同法49条4号により拒絶されるべきであり,これを理由の一つとして拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の結論には誤りはない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。