●平成22(行ケ)10313 審決取消請求事件 特許権「パン・菓子用米粉

 本日は、『平成22(行ケ)10313 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「パン・菓子用米粉組成物,米粉パン・菓子およびその製造方法」平成23年03月23日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110329135934.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の認容審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許法29条1項3号の新規性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 知野明)は、


『本件発明1は,甲1発明と同一であるから新規性を欠き,特許を受けることができないとした審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。


 ・・・省略・・・


3 原告の主張に対し

 原告は,新規性を判断する引用発明は,完成した発明でなければならないところ,引用発明は,用途発明として完成しているとはいえないから,新規性を判断する上で対比されるべき引用発明としての適格性を欠くと主張する。


 しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。


 すなわち,特許制度は,発明を公開した代償として,一定の期間の独占権を付与することによって,産業の発展を促すものであるから,既知の技術を公開したことに対して,独占権を付与する必要性はないばかりでなく,仮に,そのような技術に独占権を付与することがあるとするならば,第三者から,既知の技術を実施し,活用する手段を奪い,産業の発達を阻害することになる。特許制度の上記趣旨に照らすならば,出願に係る発明が,既に公知となっている技術(引用発明)と同一の構成からなる場合は,当該出願に係る発明は,新規性を欠くものとして,特許が拒絶されるというべきである。


 原告が主張する引用発明の完成とは,引用発明が従前の技術以上の作用効果を有することを意味するものと解されるが,新規性の有無を判断するに当たって,引用発明として示された既知の技術それ自体が,従前の技術以上の作用効果を有することは要件とすべきではない。


 また,出願に係る発明は,特定の用途を明示しているのに対して,引用発明は,出願に係る発明と同一の構成からなるにもかかわらず,当該用途に係る記載・開示がないような場合においては,出願に係る発明の新規性が肯定される余地はある。


 しかし,そのような場合であっても,出願に係る発明と対比するために認定された引用発明自体に,従前の技術以上の作用効果があることは,要件とされるものではない。


 以上の観点から,以下,本件発明1と甲1発明とを対比する。


(1) 本件発明1は,上記のとおり,米粉の粒度を特定し,粗い粉を一定量含有させたことに特徴がある発明であり,「パン用」という用途の特定はあるものの,用途そのものに格別の特徴を有する発明とまではいえない。


 他方,甲1には,前記認定のとおり,米粉により作製したパンは小麦粉により作製したパンに比べて品質が劣ること,従来の方式で製粉された米粉を分級する方式で,パン用として使用することは困難であると思われること,ペクチナーゼ処理をした米の米粉は製パンに適した特性を有するのに対し,篩分によって得た米粉は製パンの適性が低いことなどが記載されている。


 また,甲1には,ペクチナーゼ処理をせず篩分により得た微細な米粉はパン用に適さないこと,甲1の特定の条件の下では,小麦粉や,ペクチナーゼ処理をした米の粉により作製されたパンと比較して,篩分によって得た米粉により作製されたパンの方が,外観や食味において劣っていたこと等の記載がある。しかし,甲1は,ペクチナーゼ処理をした米を製粉して得られる米粉がパンの作製に適するとの結論を導くために記述された論文であって,篩分によって得た米粉はパン用に適さないとの上記の記述は,ペクチナーゼ処理により製パン性が向上すること等の結果を示す文脈において,ペクチナーゼ処理をした場合との比較を示した記述といえる。むしろ,甲1の表2によれば,作製されたパンの外観及び食味について,小麦澱粉が「+++」,ロール製粉の米粉が「― ―」であるのに対し,胴つきの米粉は「+」とされている。また,甲1の研究において使用された米粉は特定されているから,表2の「胴つき製粉」の米粉,「ロール製粉」の米粉は,図3の「胴搗方式製粉による米粉」,「ロール方式製粉による米粉」と同様のものであり,それぞれ図3に示されたのと同様の粒度分布を有するものと推認される。そうすると,図3と表2によれば,本件発明1の数値範囲に含まれる粒度の米粉(「胴つき製粉」の米粉)によって,本件発明1とは異なる粒度の米粉(「ロール製粉」の米粉)よりも外観,食味において優れたパンが製造されたことが示されていると認定できる。


 以上によれば,甲1には,本件発明1に定められた数値範囲内の粒度の米粉を用いてパンを製造する用途が明示的に記載されており,本件発明1に定められた数値範囲内の粒度のパン用の米粉の発明が記載されているといえる。したがって,甲1発明は,本件発明1の新規性を判断する上で,引用発明としての適格性を欠くと解する余地はない。


(2) また,原告は,甲33,34によれば,甲1発行前にすでに良質の米粉100%の米粉パンが開発されていたから,甲1の酵素処理を行っていない「胴搗方式製粉による米粉」は,当業者が反復実施して従来技術以上の優れた効果を挙げることができる程度まで具体的・客観的なものとして構成されているとはいえず,パン用の米粉の発明として未完成であると主張する。


 しかし,甲33,34は,その評価の基準が必ずしも甲1と同一ではなく,甲33,34に,米粉によって良質なパンができたことが記載されていたとしても,そのことを理由として,甲1発明が,本件発明1の新規性の有無を判断する前提としての適格性を欠くということはできない。


 したがって,甲1には,本件発明1に定められた数値範囲内の粒度のパン用の米粉に係る発明(甲1発明)が用途とともに記載されているから,本件発明1は,甲1発明と同一であり,新規性を欠くというべきである。

4 結論

 本件発明1は,甲1発明と同一であることにより新規性を欠き,特許法29条1項3号の規定に該当し,特許を受けることができないというべきであり,同旨の審決の判断に誤りはない。


 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。


 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。