●平成22(行ケ)10335審決取消請求事件商標権「天使のチョコリング」

 本日は、『平成22(行ケ)10335 審決取消請求事件 商標権「天使のチョコリング行政訴訟平成23年03月17日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110318132105.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、取消事由1(本件商標の構成に係る判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 荒井章光)は、

『1 取消事由1(本件商標の構成に係る判断の誤り)について

(1) 商標の類否判断の対象

ア本件商標は,「天使のチョコリング」の文字を標準文字で横書きにし,指定商品を第30類「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」とするものであって,漢字による「天使」と片仮名による「チョコリング」とが格助詞「の」で結び付けられている結合商標である。


イところで,商標法4条1項11号に係る商標の類否判断に当たり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されないが,他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。


(2) 本件商標に係る語句の意味

 そこで,本件商標の構成についてみると,その構成のうち「天使」の語は,「天使の使。勅使」,「神の使者として派遣され,神意を人間に伝え,人間を守護するというもの。セラピム(熾天使)・ケルビム(智天使)など。エンゼル。エンジェル」,「比喩的に,やさしく清らかな人」との意味(乙11。「広辞苑第6版」平成20年1月株式会社岩波書店発行),「ユダヤ教キリスト教イスラム教などで,神の使者として神と人との仲介をつとめるもの。ペルシャに由来する思想とされる。エンジェル」,「やさしい心で,人をいたわる人。女性についていうことが多い」,「天子の使者。勅使」との意味(「大辞林第3版」平成18年10月株式会社三省堂発行)とされている。


 また,本件商標の構成のうち「チョコ」の語は,「チョコレートの略」との意味(上記「広辞苑第6版」及び「大辞林第3版」)とされている。


 さらに,本件商標の構成のうち「リング」の語は,「輪。環」,「指輪」,「ボクシングやプロレスの試合を行う方形の台」との意味(上記「広辞苑第6版」),「輪。輪状のもの」,「指輪」,「ボクシングやプロレスなどの試合場」の意味(上記「大辞林第3版」)とされている。
さらにまた,上記によると,「チョコリング」の語は,「チョコレートの輪,環」の意味となる。


(3) 本件商標から生ずる観念及び称呼

ア本件商標の指定商品は「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」であるところ,上記(2)に照らすと,「チョコリング」については,チョコレート成分含有又はチョコレート味という原材料や品質で,かつ,輪状という形状の菓子又はパンであることを普通に用いられる方法で一般的に表示したものということができるのであって,このような菓子又はパンの品質,原材料及び形状を普通に用いられる方法で一般的な文字で表示した本件商標中の「チョコリング」の部分からは,商品の出所識別標識としての称呼,観念は生じない。他方,「天使」との語は,上記(2)のとおりの意味を有するものであって,本件商標の指定商品である「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」についての性状等を表すものではなく,本件商標の指定商品との関係では商品の出所識別標識としての機能を発揮し得るものである。また,本件商標の「天使」との部分は,「チョコリング」との部分と何ら観念的な結び付きも有しないものである。


 以上によると,本件商標については,「天使のチョコリング」全体のほかに,「天使」の部分についての観念及び称呼が生じるものということができる。


イしたがって,本件商標からは,「天使のチョコレート製又はチョコレート味の環状の菓子又はパン」,「天使のようなチョコレート製又はチョコレート味の環状の菓子又はパン」のほかに「天使」という観念が生じ,また,「テンシノチョコリング」のほかに「テンシ」との称呼も生じる。


(4) 原告の主張の当否

 原告は,「天使」という名称は一般名詞化しており,「天使」との文字が出所識別標識として強く支配的な印象が与えられるものではないこと,原告は,「天使のチョコリング」という名称を一体として使用していることから,「天使のチョコリング」を一体のものとして判断すべきであることなどを主張する。


 しかしながら,上記説示のとおり,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるところ,これを本件商標についてみると,「天使」との語は,本件商標の指定商品である「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」についての性状等を表すものではなく,本件商標の指定商品との関係では自他商品の識別標識としての機能を十分に発揮し得るものであるのに対し,「チョコリング」との語は,本願商品の指定商品の品質,原材料及び形状を普通に用いられる方法で一般的な文字で表示したものにすぎず,自他商品の識別力を有しないものであるから,本件商標は,「天使のチョコリング」という一連の称呼及び観念が生じるとしても,さらにまた,その構成中の「天使」の部分としての称呼及び観念が生じることも否定することができない。そして,このことは,原告が,製造販売する商品に「天使のチョコリング」との名称を使用しているということのみをもって影響されるものではない。


(5) 小括

 以上によると,本件商標と本件引用商標との類否判断の前提として,本件商標のうち「天使」の文字部分のみを抽出することができ,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。


 したがって,取消事由1は理由がない。』

 と判示されました。