●平成22(行ケ)10209  審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成22(行ケ)10209  審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「コンピュータシステムの起動方法,コンピュータシステムおよびハードディスクドライブ」平成23年03月17日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110318115500.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由2(相違点を看過した誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 井上泰人)は、


『2 取消事由2(相違点を看過した誤り)について

(1)原告は,本願発明のディスクに保存される「OS」にはOSの起動プログラムが含まれることが自明である一方,引用発明のフラッシュメモリーに保存されるプログラム起動時に使用されるファイルがハードディスクには保存されず,この点で本願発明と引用発明とが相違する旨を主張する。


(2) そこで検討すると,本願発明の特許請求の範囲の記載には,ディスクに保存される対象としては「OS」と記載されるにとどまり,OSのうちの起動プログラムを積極的に排除する記載がないばかりか,前記1(1)ウに認定のとおり,本件明細書には,本願発明のマイコンが,OS起動プログラムをディスクの起動領域に保存してからこれをフラッシュメモリーに保存させる旨を記載している(【0020】【0024】【0025】)ことに照らすと,本願発明の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明欄は,いずれも,HDDのディスクに保存される「OS」にその起動プログラムが含まれる実施形態を開示しているということができる。


(3) しかしながら,原告は,本件の分割出願以来,本願発明の請求項の記載においてフラッシュメモリーの保存対象としてコンピュータシステム又はOSの起動プログラムを特定している一方,分割出願当時の本願発明の請求項の記載ではディスクの保存対象について特定をしていなかったところ(甲1【請求項3】),その後,ディスクの保存対象を「コンピュータシステムのOS」と特定し(甲9【請求項4】),更に「コンピュータシステムのOSと前記OSの起動プログラム」と特定し直したものであって(甲12【請求項3】),以後,これを踏襲していたものであるが(甲15【請求項2】,甲18【請求項2】,甲22【請求項2】),拒絶理由通知書において,起動プログラムが不揮発性保存部(フラッシュメモリー)に保存されるのであれば技術常識から見れば起動プログラムをディスクに保存する必要はないと考えられるし,本件明細書には「OSの起動プログラムを保存するディスク」との発明特定事項の必要性やその作用効果についての説明が見当たらない旨を指摘されるや(甲23),本願発明の特許請求の範囲から,「OSの起動プログラムを保存するディスク」との発明特定事項を自ら削除したものである(甲25【請求項2】)


(4) また,原告は,本件の原出願以来,本願発明の特許請求の範囲の記載において,駆動モーターが定常速度になった後に制御部がディスクから読み出される対象について何ら触れておらず,当初明細書の発明の詳細な説明欄では,「必要なプログラム及びデータを読み出してシステム本体に伝送する」旨の記載があるにとどまっていた(乙1【0027】)。そして,原告は,本件の分割出願後,本願発明の特許請求の範囲の記載として,「前記駆動モーターが定常速度になった後に,前記ディスクに保存された前記起動プログラムが前記メインメモリにローディングされるようにする」旨の付加したものの(甲12【請求項3】),拒絶理由通知書において,明細書には上記の記載があるだけで当該付加部分に係る事項が記載されておらず,当該事項を読み出すことを導き出すことができないから,分割の要件を満たさず,出願日の遡及を認めない旨の指摘を受けるや(甲16),当該付加部分のうち「起動プログラム」との文言を「必要なプログラム」に自ら変更したものである(甲18【請求項2】)。なお,被告は,これを受けて,同年3月5日の拒絶査定の備考欄において,出願日の遡及を認める旨を記載している(甲19)。


(5) 以上の手続経過に鑑みると,原告は,拒絶査定を避けるべく,本願発明の特定に当たりディスクに保存される対象からOSの起動プログラムを排除した(前記(3))ほか,分割出願の要件を満たして出願日を遡及させるべく,駆動モーターが定常速度になった後に制御部がディスクから読み出す対象からOSの起動プログラムを除外した(前記(4))ものと認められる。


 そして,他に本願発明の特許請求の範囲の記載中にはディスクの保存対象としてOSの起動プログラムが含まれると解するに足りる記載が見当たらないことも併せ考えると,本願発明の解釈に当たり,ディスクにOSの起動プログラムが保存されていないものと認定し,引用発明との関係で相違点を認定しなかった本件審決に誤りがあるとまではいえない。


(6) また,本願発明は,前記1(1)イに認定のとおり,OSの起動プログラムをフラッシュメモリーに格納して読み出すことで,駆動モーターが定常速度になる時まで待たずに,HDDの起動時間を短縮するものである(本件明細書【0006】〜【0008】【0010】【0011】【0027】)一方,引用発明も,前記1(2)ウに認定のとおり,データ読み出し速度の速いフラッシュメモリーにプログラム起動時に使用されるファイルを格納することで,そのプログラムの起動を高速に行うものである(引用例1【0025】【0035】)。


 したがって,本願発明及び引用発明は,いずれもプログラム起動時に使用される実行ファイルがフラッシュメモリーに保存されていることで起動時間を短縮するという効果が得られる点で共通するから,仮に本願発明においてOSの起動プログラムが,フラッシュメモリーのほか,ハードディスクに保存されていたからといって,このことが引用発明との相違点となり,更には容易想到性の判断に影響するものではない。


 したがって,原告の前記主張は,採用できない。

(7) なお,原告は,本願発明の「マイコンは,フラッシュメモリーに起動プログラムが保存されたか否かを確認してフラッシュメモリーに起動プログラムが保存されない場合,ディスクに保存された起動プログラムをフラッシュメモリーに保存する」(本件明細書【0025】)ものであるのに,本件審決がこの点を相違点として認定していない誤りがある旨も主張する。


 しかしながら,この点は,本願発明の特許請求の範囲に記載されていないから,原告の上記主張は,それ自体失当である。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。