●平成22(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権「水処理装置」

 本日は、『平成22(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「水処理装置」平成23年03月17日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110318120928.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由2(相違点2の認定判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官  滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 井上泰人)は、


『2 取消事由2(相違点2の認定判断の誤り)について

(1) 相違点2について

 相違点2は,本願発明は,「水処理」について特定されていないのに対し,引用発明においては,「水熱処理」に特定する点である。


 前記1のとおり,引用発明においては,超臨界状態又は亜臨界状態の高温高圧の水の存在下に被反応物を酸化反応等させる水熱反応が前提となっているのであるから,引用発明に基づき,0.4MPa程度の容器内圧で処理を行う本願発明の「水処理装置」に想到することは,引用発明の前提を変更することになり,当業者が容易に想到し得るとはいえない。


 また,高温高圧で使用することを前提としている引用発明の耐圧容器は,本願発明の圧力容器とは異なるものであるから,オゾンを使用していることから高温にすることは示唆されているとはいえず,相違点2を容易に想到することはできない。


(2) 被告の主張について

ア被告は,引用発明の処理装置が適用される温度圧力条件としては,超臨界又は亜臨界状態のような高温高圧の範囲に限られることなく,100℃以上の範囲も可能となるとして,本願発明には,圧力温度条件を特定する事項が記載されていないので,引用発明の処理装置を,水熱反応よりも低温低圧の水処理に適用することは当業者が容易に想到し得る旨主張し,亜臨界状態の温度圧力範囲に関連して,乙4ないし6を提出する。


 しかし,乙4は,水熱処理に用いる密閉容器であるオートクレーブを用いれば水を100℃以上にすることができ,反応速度を著しく大きくできることを説明したもので,その記載の後の有害物質を分解無害化する目的での高温高圧の水溶液系とはどの範囲の温度圧力範囲を指すのか示されていないし,水熱反応との具体的関係も不明である。また,乙5は,水熱反応とは,水の存在下高温高圧に保持することによる反応をいい,0.1ないし8.6MPa,100ないし300℃という条件範囲が示されるものの,可溶化処理水を得るための水熱反応条件であり,引用発明と関連する酸化剤による水熱反応としては,4.0MPa以上に加圧し,250ないし600℃に加熱することが例示され(【0010】【0012】),マイクロ波を用いた実施例では,5.1MPa,265℃という条件が例示されている(【0061】〜【0063】)。さらに,乙6の「121〜232℃(250〜450°F)」の記載は,熱水反応からの熱エネルギーを供給物質の調整及び予熱に使用するという前提の下,供給混合物を超臨界圧力まで加圧した後,臨界圧力で亜臨界温度で酸化剤を噴射して,酸化反応熱を利用して超臨界温度まで上昇させるという文脈の中で亜臨界温度として例示されたものにすぎず,臨界圧力以下での水熱反応を行う温度を記載したものとはいえない。


 そして,亜臨界状態を定義する場合の温度及び圧力の条件は,両者を併せて論ずべきところ,温度条件のみを取り出して亜臨界状態の範囲とする本件審決の論理は,不適切である。


 このように,高温高圧で使用することを前提としている引用発明の耐圧容器は,本願発明の圧力容器とは,必要とされる耐圧性,耐熱性,それに伴う大きさや形状が異なるものであるから,水熱処理を前提とした引用発明から,本願発明を容易に想到できるということはできない。


 また,仮に,水の役割の相違を度外視したとしても,オゾンを高濃度で被処理水に可溶させる工夫をしている本願発明において,オゾンの脱離を伴うことになる高温条件を対象とすることは,本願発明において想定されているとはいえず,相違点2を容易に想到することはできない。


イ被告は,原告が本件補正に際し,「圧力容器」を「圧力容器(水の超臨界状態及び亜臨界状態における水熱反応用の容器を除く)」と補正し,引用発明と技術分野が異なることを明確にした旨主張したこと,本件審決が本件補正を却下したことについて争っていないことから,本願発明は,超臨界状態及び亜臨界状態を含むと主張する。


 しかし,本件出願過程において,引用例1を引用した拒絶理由通知書(甲1−3)に対し,原告は,引用発明は,超臨界又は亜臨界状態の高温高圧の状態であるのに対し,本願発明は,水の超臨界状態における反応ではなく,オゾンを利用した水処理装置であるなどとして,両者が異なることを意見書で説明した(甲9)。しかるに,その意見書を採用できないとし,本願発明に,超臨界又は亜臨界状態において反応させる水処理装置を含むとして,拒絶査定を受けたことから(甲1−4),不服審判請求をするとともに本件補正を行ったものである。


 このような本件補正の経過に照らすと,原告は,もともと本願発明には超臨界又は亜臨界状態における反応は含まないという見解であったが,拒絶査定に対応して,いわゆる除くクレームにより,これを明確化したにすぎないものと解され,本件補正をしたことや補正却下の判断を争わなかったことから,直ちに本願発明が超臨界状態及び亜臨界状態を含むということはできない。


(3) 小括

 よって,取消事由2も,理由がある。


3 結論

 以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。