●平成22(行ケ)1030889 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成22(行ケ)1030889 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ルーティングのための方法および装置」平成23年03月03日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110304110050.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、拒絶査定不服の審判における審尋に対する手続補正書の提出を認めるか否かの判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 荒井章光)は、


『1本件審査・審判手続の経緯

(1)本件出願に係る審査手続において,審査官は,平成19年8月20日付け拒絶理由通知書(甲2)において,特許請求の範囲の請求項1に係る発明につき,本件引用発明等に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないことなどを記載するとともに,意見書の提出期限を発送日(同月22日)から3か月以内と指定した。


(2)原告は,平成20年2月22日付け意見書(甲3)及び手続補正書(甲4)を提出し,上記拒絶理由通知書記載の拒絶理由が解消されたと主張したが,審査官は,同年4月9日付けで,上記拒絶理由通知書に記載した理由によって,本件出願を拒絶する旨の拒絶査定をした(甲5)。


 なお,同拒絶査定の備考欄において,上記拒絶理由通知に記載した特許請求の範囲の請求項1の記載に係る拒絶理由が依然解消していない旨が付記された。


(3)原告は,平成20年7月15日,審判請求をし,また,同年8月14日付けで本件補正をして,上記拒絶理由は解消されたと主張したが,審判長は,原告に対し,同21年10月27日付けで,いわゆる「前置報告」の内容を記載するとともに,審判事件の審理を開始するに当たって,この前置報告の内容について原告の意見を事前に求めるとの記載のある本件審尋書(甲8)を送付した。なお,本件審尋書には,備考欄において,「この審尋は,拒絶理由の通知(同法(判決注:特許法をいう。以下同じ。)第159条において準用する同法第50条)ではありません。したがって,この審尋の回答に際し,同法第17条の2に規定する補正をすることができません。なお,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由があり,合議体が必要と判断した場合には,あらためて拒絶理由が通知され,同法第17条の2に規定する補正の機会が与えられます。」,「回答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありません」との記載がされていた。


(4)これに対し,原告は,審判長に対し,平成22年4月1日付けで,審尋に対する回答書において特許請求の範囲の補正をすることができないことを知った上で,次の機会に手続補正書を提出し,特許請求の範囲を補正し,明細書の該当する部分につき,整合性を有するように補正する予定であるなどとする回答書を提出した(甲9,弁論の全趣旨)。


(5)平成22年6月1日にされた本件審決は,本願発明について,本件引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとして,本件に係る審判の請求は成り立たないとした。


2検討

(1) 本件出願に適用される法17条の2第1項は,特許出願人が同法50条による拒絶理由通知を受けた後は,最初の拒絶理由通知を受けた場合の指定期間内,最後の拒絶理由通知を受けた場合の指定期間内及び拒絶査定を受けた場合の査定不服審判請求の日から30日以内にするときに限り,願書に添付した明細書(特許請求の範囲を含む)及び図面の補正をすることができると規定している。これは,無制限に補正を認めたのでは,手続を複雑にし,特許庁の負担もいたずらに増すことになり,ひいては迅速な権利付与手続の妨げにもなること,出願人同士の公平性の確保という見地などから,願書に添付した明細書及び図面の補正につき,補正のできる時期について一定の制限を加えたものである。


 これを本件についてみると,本件出願については,原告が本件審尋書を受領した時点において,上記1のとおり,平成19年8月20日付けで拒絶理由通知がされて補正をすることができる指定された期間が経過し,また,平成20年7月15日の審判請求の日から30日の期間も経過していたのであるから,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由があるとして改めて拒絶理由が通知される場合は格別,審判官において,法律上,特許出願人である原告に対して補正の機会を与える義務はない。


 しかるところ,本件審決は,平成19年8月20日付け拒絶理由通知書,原告からの同20年2月22日付け意見書及び手続補正書,同年4月9日付け拒絶査定で一貫して対象とされていた事項について,同拒絶査定と同じ理由で本願発明を査定することができないと判断したものであるが,原告として,査定不服審判請求の日から30日以内にする補正において,この点について適切に補正する機会が与えられていたものである。それにもかかわらず,原告は,この時点に至っても,なお,審判官とのせめぎ合いの中でできるだけ補正可能性のある広い特許請求の範囲を模索するとして,拒絶理由通知に対応した最終的な補正方針に基づく,より限定された特許請求の範囲の補正をせずにいたというのであって,このような対応をした原告が,改めて拒絶理由が通知された場合でないのに,その場合同様に補正の機会を与えられなかったことを不当であるなどと主張することは失当というほかない。


(2)この点について,原告は,本件審尋書において,「回答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありません」との記載がされたことをもって,回答書の提出後に,少なくとも1回は,意見書及び手続補正書を提出する機会が与えられるべきであるなどと主張する。


 しかしながら,本件審尋書は,「前置報告を利用した審尋」を行うために原告に対して送付されたものであるところ(乙1),これは,審判請求人に対して,前置審査の結果である前置報告の内容を審尋により送付し,審査官の見解に対する反論の機会を与えることにより,審判における審理・判断を充実させるために行われているものであって,「前置報告を利用した審尋」が行われたことをもって,審判請求人に更なる補正の機会が与えられるものではない。


 そして,このことは,本件審尋書においても,備考欄において「この審尋は,拒絶理由の通知(同法第159条において準用する同法第50条)ではありません。」と記載されて明らかにされているものである。また,同備考欄における「回答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありません」との記載は,仮に回答がない場合であっても,回答がある場合と比べて審理において不利には扱わないという意味以上のものとは解されないものであって,同記載をもって,審判請求人に必ず補正の機会が与えられるべきものであるとの原告の主張は,同記載を正解しないというにすぎず,これを採用する余地はない。


(3)なお,原告は,以上るる主張するところをもって,本件審判手続には,特許法153条2項の違反があると結論付けているが,その適条はともかく,原告の主張を採用し得ないことは以上説示したとおりである。


3結論

 以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。