●平成22(行ケ)10191 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成22(行ケ)10191 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「アルミニウム溶接用二波長レーザ加工光学装置およびアルミニウム溶接用レーザ加工方法」平成22年11月17日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101118115318.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取り消し訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由(相違点2の判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 井上泰人)は、


『(1) 本件審決の判断
ア本件審決は,以下のとおり,相違点2に係る本願発明の事項は,引用発明1及び引用例2に記載された発明に基づき当業者が容易に想到し得たことであると判断した。

 ・・・省略・・・

イしかしながら,特許法29条2項は,「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が同条1項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたとき」は,特許を受けることができない旨を規定しているのであって,同条1項3号に掲げる刊行物記載の発明すなわち引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたか否かは,特許出願時において判断すべきはいうまでもないことであるから,本件原出願後に頒布されたものであることについて当事者間に争いがない引用例2に記載された事項を,引用発明1に採用することによって,容易に発明をすることができたと判断した本件審決には,特許法29条2項の適用を誤った違法があることが,明らかである。


(2) 被告の主張について

ア被告は,引用例2が本件原出願後に頒布されたものであることを認めた上,相違点2に係る本願発明の事項(アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルを持つ半導体レーザ)は,引用発明1及び乙1ないし3に記載された周知の事項に基づき当業者が容易に想到し得たことであるから,本件審決の結論に誤りはないと主張する。


 しかしながら,本願明細書には,背景技術として,「金属が低い反射率を有する短波長のレーザビームを吸収することによって金属の表面の温度が上昇し,さらに加工されるとこの2つの現象の結果,この部分の反射率が低下するため重畳された長波長のYAGレーザビームも容易に吸収されてレーザビームが効率よく加工物に結合されることを利用したものである」こと(【0002】),「この分野の最近の公知例…の場合,YAGレーザとKrFエキシマレーザを加工物の同一所に集光して照射するもので,これら2つのレーザビームは別々のレンズで集光され,水平面におかれた被加工物に対してYAGレーザビームは垂直にKrFエキシマレーザビームは垂直から45度傾けて照射される。このような従来技これらの記載によれば,本願発明においては,相違点2に係る短波長レーザの構成が,課題解決のための本質的な部分であると解される。


 しかるところ,前記のとおり,本件審決は,引用例2に,相違点2に係る本願発明の構成(アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルを持つもつ半導体レーザ)が開示されていると認定した上(前記(1)ア?),引用発明1のエキシマレーザに代えて引用例2に開示された上記半導体レーザを採用することが容易である(前記(1)ア??)という論理を展開したものである。


 しかし,引用発明1における短波長レーザであるエキシマレーザは,アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,波長0.8μm付近の発光スペクトルを持たない上に,半導体レーザとは異なる種類のレーザである(乙2,3)。このようなエキシマレーザを,「アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザ」という,種類の異なる短波長レーザに置き換える点の容易想到性を判断するに際し,引用例2に代えて周知技術で置き換えるという理由の差替えを,審判段階ではなく,訴訟段階に至ってから特許庁の側が行うことは,審決に理由を付することを義務づけた特許法157条の趣旨にも反するものであり,許されないといわざるを得ない。


 なお,審決取消訴訟において,審判の手続で審理判断された刊行物記載の発明との対比における進歩性の有無を認定して審決の適法,違法を判断するにあたり,審判の手続には現れていなかった資料に基づき当業者の特許出願当時における技術常識を認定し,これによって同発明の持つ意義を明らかにすることは許されるとしても(最高裁昭和54年(行ツ)第2号同55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照),刊行物記載の発明と公知技術との組合せにより容易に発明できたという理由を,技術常識の名の下に刊行物記載の発明から容易に発明できたという理由に差し替えることが許されるとまで解することはできない。


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。