●平成22(行ケ)10169 審決取消請求事件 商標権「ヤクルト容器」

 本日は、『平成22(行ケ)10169 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「ヤクルト容器立体商標」平成22年11月16日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101117115242.pdf)について取り上げます。


 本件は、ヤクルト容器の立体商標の拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、ヤクルト容器の立体商標についての商標法3条2項該当性の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『1 請求原因(1) (特許庁における手続の経緯),(2) (審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。


 また,前記のとおり,原告は,審決が本願商標は商標法3条1項3号に該当する(その形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)とした部分は争わず,同法3条2項(使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの)該当性のみを争っているので,以下,平成20年9月3日付けでなされた本願に対し平成22年4月12日付けでなされた本件審決の当否につき,商標法3条2項該当性の有無の観点から検討する。


2 本願商標の商標法3条2項該当性の有無

 ・・・省略・・・

(2)アところで,商標法3条2項は,「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨規定している。


 したがって,本願商標のように,「その形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であって同法3条1項3号に該当する場合であっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」に至ったときは,商標登録が許されることになる。


 そして,本願商標のような立体的形状を有する商標(立体商標)につき商標法3条2項の適用が肯定されるためには,使用された立体的形状がその形状自体及び使用された商品の分野において出願商標の立体的形状及び指定商品とでいずれも共通であるほか,出願人による相当長期間にわたる使用の結果,使用された立体的形状が同種の商品の形状から区別し得る程度に周知となり,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っていることが必要と解される。


 この場合,立体的形状を有する使用商品にその出所である企業等の名称や文字商標等が付されていたとしても,そのことのみで上記立体的形状について同法3条2項の適用を否定すべきではなく,上記文字商標等を捨象して残された立体的形状に注目して,独自の自他商品識別力を獲得するに至っているかどうかを判断すべきである。


 そこで,以上の見地に立って本願商標について検討する。

イ上記(1) で認定した事実を総合すると,本件容器の立体的形状に関し,次の点を指摘することができる。


(ア) 原告商品は,本願商標の指定商品である乳酸菌飲料である。

(イ) 本件容器とほぼ同一形状の容器は,昭和43年に,原告商品の容器がガラス瓶からプラスティック製のワンウェイ容器に変更された際に,著名なデザイナーによってデザインされたものであり,飲みやすさ,持ちやすさ,コンベアー・ラインでのガイドへの適合性,自動包装機への適応性などの機能性が重視されたシンプルな形状ではあったものの,当時,乳酸菌飲料の容器としては斬新な形状であった。本件容器は,昭和43年の販売開始以来40年以上ほとんどその形状を変えることなく,一貫して原告商品に使用されてきた。


(ウ) 原告商品の販売額は,平成12年(2000年)以降300億円を超えており,特に平成20年(2008年)には459億円に達している。また,平成10年から平成19年までの間,乳酸菌飲料における原告の市場占有率は常に50%以上であり,原告商品のみでも,業界の約42%以上のシェアを占めている。


(エ) 原告商品の宣伝広告費は,原告商品「ヤクルト」の販売を開始した昭和43年は約9億6000万円であったが,翌年には約20億円に急増し,その後もほぼ年々増加傾向にあって,昭和57年には約50億円,平成元年には約76億円,平成17年には約95億円に達しており,原告商品には毎年巨額の宣伝広告費用が費やされてきた。


(オ) 宣伝広告記事の内容は,本件容器が採用された昭和43年ころから,本件容器の形状の特徴及び利点を強調する宣伝が数多くなされ,その後,原告の宣伝には,ほぼ必ず本件容器の写真若しくは図柄が掲載されており,本件容器があたかも原告のシンボルマークのように扱われて,需要者に強く印象付けられるような態様で宣伝されてきた。


(カ) 平成20年及び同21年の各アンケート調査の結果によれば,男女480人を対象とした東京及び大阪における会場テストにおいても,また男女5000人を対象としたインターネット調査においても,本願商標と同一の立体形状の無色容器を示された回答者の98%以上が,同容器から「ヤクルト」を想起すると回答している。


(キ) 現在,乳酸菌飲料を取り扱う市場においては,本件容器と類似する立体的形状の容器を使用した他社商品が多数販売されており,証拠上確認できるものだけでも本件容器と類似する立体的形状の商品が12種類以上存在しているが,いずれも,原告が昭和43年に本件容器を採用した以降に登場した商品であること,インターネット上の記事(乙1ないし乙5)によれば,本件容器と酷似する立体的形状の商品に接した需要者は,それらの容器を「ヤクルトとそっくりな容器」,「ヤクルトのそっくりさん」,「ヤクルトもどき」,「この容器はヤクルトを連想する」というように,それらの容器が本件容器の模倣品であるとの意識を持っていることが窺われる。


ウ以上によれば,本件容器を使用した原告商品は,本願商標と同一の乳酸菌飲料であり,また同商品は,昭和43年に販売が開始されて以来,驚異的な販売実績と市場占有率とを有し,毎年巨額の宣伝広告費が費やされ,特に,本件容器の立体的形状を需要者に強く印象付ける広告方法が採られ,発売開始以来40年以上も容器の形状を変更することなく販売が継続され,その間,本件容器と類似の形状を有する数多くの乳酸菌飲料が市場に出回っているにもかかわらず,最近のアンケート調査においても,98%以上の需要者が本件容器を見て「ヤクルト」を想起すると回答している点等を総合勘案すれば,平成20年9月3日に出願された本願商標については,審決がなされた平成22年4月12日の時点では,本件容器の立体的形状は,需要者によって原告商品を他社商品との間で識別する指標として認識されていたというべきである。


 そして,原告商品に使用されている本件容器には,前記のとおり,赤色若しくは青色の図柄や原告の著名な商標である「ヤクルト」の文字商標が大きく記載されているが,上記のとおり,平成20年及び同21年の各アンケート調査によれば,本件容器の立体的形状のみを提示された回答者のほとんどが原告商品「ヤクルト」を想起すると回答していること,容器に記載された商品名が明らかに異なるにもかかわらず,本件容器の立体的形状と酷似する商品を「ヤクルトのそっくりさん」と認識している需要者が存在していること等からすれば,本件容器の立体的形状は,本件容器に付された平面商標や図柄と同等あるいはそれ以上に需要者の目に付きやすく,需要者に強い印象を与えるものと認められるから,本件容器の立体的形状はそれ自体独立して自他商品識別力を獲得していると認めるのが相当である。


エ被告の主張に対する判断

(ア) 被告は,上記イ(カ) に関し,「今や『ヤクルト』と聞けば,この容器の形と味が思い浮かぶほどになりました。」(甲11の1)ともいわれていることからすれば,今回のような調査方法による以上,乳酸菌飲料の代名詞ともいえる「ヤクルト」を想起したと回答するのはむしろ当然の結果であると主張する。


 しかし,上記各調査は,「『ヤクルト』と聞いてどんな形状を想起するか」という質問ではなく,逆に無色の容器を示して,容器から思い浮かべるイメージ及び商品名を尋ねるものであるから,被告の上記主張は採用することができない。


(イ) また,被告は,上記イ(カ) に関し,平成20年及び同21年の各アンケート調査においては,同業他社の乳酸菌飲料の容器を用いた同種調査は行われていないが,本件容器のみによるアンケート調査では足りず,類似する他社の容器との関係をも踏まえた調査でなければ妥当でない旨主張する。


 しかし,この種のアンケート調査で重要なのは,本件容器から「ヤクルト」等の文字商標及び図柄等を捨象した無色の立体的形状を提示されてどのような商品を想起するかであって,容器の形状が類似する他社商品の中から本件容器の立体的形状を選別できるかどうかではなく,同業他社の乳酸菌飲料の容器を用いた同種調査がされなければならない必然性はないというべきであるから,この点に関する被告の主張は採用することができない。


(ウ) 被告は,上記イ(キ) に関し,取引の実情において,他社の類似する形状の包装用容器が多数存在すること,それにもかかわらず,原告が他社の類似容器の存在に対し適切な処置を講じてこなかったことを問題視する。


 しかし,市場に類似の立体的形状の商品が出回る理由として,通常は,先行する商品の立体的形状が優れている結果,先行商品の販売の直後からその模倣品が数多く市場に出回ることが多いと認められるところ,取引者及び需要者がそれらの商品を先行商品の類似品若しくは模倣品と認識し,市場において先行商品と類似品若しくは模倣品との区別が認識されている限り,先行商品の立体的形状自体の自他商品識別力は類似品や模倣品の存在によって失われることはないというべきである。


 そして,本件においては,前記認定のとおり,原告商品「ヤクルト」は,乳酸菌飲料の市場における先駆的商品であり,著名なデザイナーにデザインを依頼し,最初に本件容器の立体的形状を乳酸菌飲料に使用したものであり,現在市場に出回っている容器の立体的形状が類似する商品はその後に登場したものであると認められること,数多くの類似品の存在にもかかわらず,本件容器の立体的形状に接した需要者のほとんどはその形状から「ヤクルト」を想起する,という調査結果が存するのであるから,本件においては,市場における形状の独占性を過剰に考慮する必要はないというべきである。


(エ) 被告は,上記イ(キ) のインターネット上の記事に関し,要するに,原告の「ヤクルト」をはじめとする乳酸菌飲料の容器はどれも皆似たようなものだという,一般的な需要者の感覚や認識が存在することからして,本願商標は,その立体的形状のみでは自他商品識別力を獲得するに至っていないことが裏付けられると主張する。


 しかし,前記認定のとおり,インターネット上の記事から認められる重要な事実は,被告が主張するような「乳酸菌飲料の容器は原告商品も含めどれも皆似たようなものだ」という漠然としたものではなく,むしろ乳酸菌飲料の容器には本件容器と酷似した模倣品が数多く存在するとの需要者の認識であって,この事実は,被告の主張とは逆に,類似の形状の容器を使用する数多くの他社商品が存在するにもかかわらず,需要者はそれら容器の立体的形状は本件容器の模倣品であると認識しているということを示していると認められるのであって,それは,本件容器の立体的形状に自他商品識別力があることを強く推認させるというべきである。


3 結論

 以上によれば,平成20年9月3日付けでなされた本願商標につき商標法3条2項の適用を否定した審決は誤りであることになるから,審決は違法として取り消しを免れない。


 よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。