●平成21(行ケ)10433 審決取消請求事件 商標権「喜多方ラーメン」

 本日は、『平成21(行ケ)10433 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟喜多方ラーメン」平成22年11月15日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101116133707.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取り消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、取消事由1(7条の2第1項の解釈の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子、裁判官 田邉実)は、


『1 取消事由1(7条の2第1項の解釈の誤り)について

(1) 原告は,前記のとおり,被告における7条の2第1項の解釈及び同項の登録要件の判断基準には誤りがあると主張するが,その要点は,地域団体商標(7条の2)の制度は地域振興等を目的として創設されたもので,3条2項の登録要件を緩和したものであるから,7条の2第1項にいう「使用をされた結果自己又はその構成員に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識された」は,需要者において,当該商標が使用された商品ないし役務が,誰の業務に係るものか全く判然としないものではないという意味で,一定の団体又はその構成員の業務に係るものであることが広く認識されていれば足り,当該商標から生産・提供される地域(産地)の識別ができる程度であれば十分であって,特定の者である出願人又はその構成員の業務に係る商品ないし役務に係るものであることまで広く認識されている必要はない,というものである。


(2) 7条の2が定める地域団体商標の制度が設けられたのは,その立法経緯にかんがみると,地域の産品等についての事業者の信用の維持を図り,地域ブランドの保護による我が国の産業競争力の強化と地域経済の活性化を目的として,いわゆる「地域ブランド」として用いられることが多い地域の名称及び商品ないし役務の名称等からなる文字商標について,登録要件を緩和する趣旨に出たものである。


 すなわち,上記のとおり地域の名称と商品ないし役務の名称等からなる文字商標については,従前,3条1項各号に該当するとして,使用による識別力を獲得し,3条2項の要件を満たさない限り登録が認められず,全国的に相当程度知られるようになるまでは他人の便乗使用を排除できず,また図形入りの商標の登録を受けるのみでは他人による文字部分の便乗使用を有効に排除できないという不都合等があったのを,これらの不都合を解消して上記のとおりの地域の名称と商品ないし役務の名称等からなる文字商標の登録を許容して,地域の産品等についての事業者の信用の維持等を実現する趣旨のものである。


 そして,1項柱書で,当該「商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」ことが要求されているのは,上記のとおり地域の名称と商品ないし役務の名称等からなる文字商標である地域団体商標の登録をすると,構成員でない第三者による自由な商標(表示,名称)の使用が制限されることになるので,かかる制限をしてまでも保護に値する程度にまで,出願人たる団体の信用が蓄積されている商標であるか否かを峻別するためであり,あるいは構成員でない第三者による便乗使用のおそれが生じ得る程度に,出願人たる団体の信用が蓄積されている商標であるか否かを峻別するためであると解することができる。


 この点,1項柱書にいう,「商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」こととの要件につき,原告は,前記(1)のとおり主張する。


 なるほど,3条2項で同条1項各号で登録できないとされている商標が,使用により登録が認められるとしても,「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」との要件,すなわち識別力を発揮できるまでの程度の要件を充たさなければならないのに対し,7条の2第1項柱書では,使用により「自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」との要件を充たすことを要件としており,前記の地域団体商標の立法経緯を踏まえてみると,後者の要件は前者の要件を緩やかにしたものと解するのが相当ということになる。


 しかし,この要件緩和は,識別力の程度(需要者の広がりないし範囲と,質的なものすなわち認知度)についてのものであり,当然のことながら,構成員の業務との結び付きでも足りるとした点において3条2項よりも登録が認められる範囲が広くなったのは別としても,後者の登録要件について,需要者(及び取引者)からの当該商標と特定の団体又はその構成員の業務に係る商品ないし役務との結び付きの認識の要件まで緩和したものではない。


 この登録要件は法律の解釈上導かれるものであり,立法経過や立法趣旨にも反するものではない。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


(3) 以上のとおり,審決の7条の2第1項の解釈に誤りはなく,「使用をされた結果自己又はその構成員に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識された」との要件の充足の有無を判断するに際して,審決が説示したとおり,実際に使用している商標及び役務,使用開始時期,使用期間,使用地域,当該営業の規模(店舗数,営業地域,売上高等),広告宣伝の方法及び回数,一般紙,雑誌等の掲載回数並びに他人の使用の有無等の事実を総合的に勘案するのが相当である。


 したがって,原告が主張する取消事由1は理由がない。』


 と判示されました。