●平成22(行ケ)10051 審決取消請求事件 特許権「振動発生装置」

 本日は、『平成22(行ケ)10051 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「振動発生装置」平成22年10月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101021102928.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(第4回補正を却下した判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 井上泰人)は、


『1 取消事由1(第4回補正を却下した判断の誤り)について

(1) 認定事実

 証拠によれば,本件特許出願について,特許庁における主な手続の経緯は,以下のとおりであると認められる。


ア原告は,平成17年2月2日,本件特許出願(請求項の数は9項)をした(甲9)。


イ原告は,平成18年6月20日提出の手続補正書(甲10)により,第1回補正(請求項の数は9項)を行った。


ウ原告は,平成19年4月11日,最初の拒絶理由通知(甲13)を受け,これに対応して,同年6月25日提出の手続補正書(甲3)により,第2回補正(請求項の数は1項)を行った。


エ審査官は,平成19年8月13日,以下の内容の最後の拒絶理由を通知した(甲6)。

(ア) 理由1:第2回補正は,願書に最初に添付した明細書等の記載事項内においてしたものではないから,法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(イ)理由2:請求項1に記載された本願発明は,引用文献に記載の発明から容易に想到できるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


(ウ) 理由3:本願発明は,請求項1の記載が不明確であるから,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない。

オ原告は,上記エの拒絶理由通知に対応して,平成19年10月22日提出の手続補正書(甲11)により,第3回補正(請求項の数は1項)を行うとともに,以下の内容の意見書(甲8)を提出した(「/」は原文の改行部分を示す。)。「本願に対する平成19年8月13日付拒絶理由通知に対し,次のとおり意見を申し述べます。/1.先ず,拒絶理由1,3に対処する為,当書と同日付にて,明細書全文,特許請求の範囲を訂正する手続補正書を提出致しました。…従って,特許法第17条の2第3項の規定に違反しておりません。/以上の補正により,拒絶理由1,3は解消されたものと考えます。」


カ審査官は,平成20年2月5日,第3回補正は,願書に最初に添付した明細書等の記載事項内においてしたものではなく,法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから,法53条1項の規定により却下する旨の決定をし(甲4),上記エと同一の理由により拒絶査定をした(甲5)。


キ原告は,拒絶査定不服の審判を請求するに際し,平成20年4月11日提出の手続補正書(甲2)により,第4回補正(請求項の数は3項)を行った。


ク本件審決は,第4回補正を却下し,第2回補正による本願発明について上記エの拒絶理由のうち理由1及び3と同様の理由により,拒絶すべきである旨判断したものである(甲1)。


(2) 第4回補正の適否

ア手続補正の効果は,その手続補正を行う時点の記載事項を変更するものということができるところ,上記(1)イ,ウ,オ,キ認定のとおり,第1回補正による9項の請求項を含む特許請求の範囲が,第2回補正により1項の請求項のみの特許請求の範囲に変更され,拒絶理由通知に対処するため第3回補正により1項の請求項のまま特許請求の範囲が変更された後,第4回補正により3項の請求項を含む特許請求の範囲に変更されたものである。


 もっとも,上記(1)カのとおり,第3回補正は,第4回補正を行う以前に却下されているのであるから,第4回補正は,第3回補正を行う時点の特許請求の範囲の記載,すなわち,第2回補正による特許請求の範囲の記載を変更したものといわざるを得ない。


 そうすると,第4回補正は,第2回補正により1項の請求項とされた特許請求の範囲を,3項の請求項を含む特許請求の範囲に変更するものである。


イ法17条の2第4項は,拒絶査定不服審判請求に伴って行われる特許請求の範囲についてする補正は,同項1号ないし4号に掲げる事項を目的とするものに限ると規定するところ,上記のとおり,請求項を増加させる第4回補正の目的は,法17条の2第4項1号(請求項の削除),2号(特許請求の範囲の減縮),3号(誤記の訂正)及び4号(明りょうでない記載の釈明)のいずれの事項にも該当しないといわざるを得ない。


ウよって,本件審決が,第4回補正の目的は,法17条の2第4項各号のいずれの事項にも該当しないと判断したことに誤りはない。


(3) 対象となる発明の認定について

 原告は,第2回補正は,補正違反を指摘されたものであって,審理の対象とはなり得ないもので,第4回補正が審理対象となるべき発明である旨主張する。


 しかし,上記1に判示したとおり,本件審決が第4回補正を却下した点に誤りはないから,原告の主張は失当である。また,第3回補正は,第4回補正の前に補正の却下の決定がされたものである。


 そうすると,第4回補正及び却下された第3回補正の前になされた第2回補正に係る本願発明を審理の対象とすることに誤りがあるとはいえない。


(4) 原告の主張について

ア原告は,第2回補正は,拒絶理由通知により補正要件の違反を指摘されているため,本来であれば補正却下されることによって以降の補正の基礎となるものではない旨を主張する。


 しかし,法17条の2第3項から第5項に補正の要件が規定されているところ,上記補正要件違反の場合に決定をもって補正を却下しなければならない場合として,法53条は,「第17条の2第1項第3号に掲げる場合において,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面についてした補正が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたとき」と規定し,法159条において準用される拒絶査定不服審判については,「第17条の2第1項第3号又は第4号に掲げる場合において,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面についてした補正(同項第3号に掲げる場合にあっては,拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く。)が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたとき」と規定している。


 他方,法49条1号は,「その特許出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面についてした補正が第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとき」は,審査官はその特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならないと規定し,法50条は,審査官は,拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは,補正却下決定をするときを除き,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知しなければならないと規定している。


 上記(1)ウのとおり,第2回補正は,最初の拒絶理由通知に対応してされたものであるところ,これらの規定によれば,最初の拒絶理由通知に対してされた特許請求の範囲等の補正が,法17条の2第3項に規定する要件(新規事項追加の禁止)を満たしていないときは,出願の拒絶理由となるのであって(法49条1号),拒絶の理由を通知しなければならない場合(法50条)に当たるが,決定をもって補正を却下しなければならない場合(法53条1項)には当たらない。


 したがって,第2回補正について,補正却下をしなければならない理由はない。

 補正が却下されない以上,第2回補正が存在しないものと扱うことは予定されていないから,これを,それ以降の補正の基礎とすることが違法であるとはいえない。


 なお,原告自ら,第4回補正において,第2回補正を変更すべき部分にアンダーラインを引いていることからも(甲2),原告自身第2回補正を基礎として,その後の補正を行ったものということができる。


イ原告は,補正要件違反がありながら,その実質的に存在価値のない補正を出願に織り込んでおいて,この違反を含んだままの出願を以降の判断の基準にすることは,発明者の保護の観点を無視するものである旨主張する。


 しかし,法17条の2第1項3号は,「拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において,最後に受けた拒絶理由通知に係る第50条の規定により指定された期間内にするとき」に補正をすることができる旨規定しているから,出願人には,最後の拒絶理由通知により指摘された拒絶理由についても,これを是正する機会が与えられている。


 本件についてみると,原告が第3回補正と同日に提出した意見書(甲8)において,上記(1)オ認定のとおり意見を述べていることからすると,第3回補正は,最後の拒絶理由通知に記載された拒絶理由(第2回補正に係る補正要件違反)を是正するためになされたものということができる。


 さらに,本件においては,原告は,拒絶査定不服審判を請求する際に第4回補正を行っているところ(法17条の2第1項4号),この第4回補正がされる前に,第3回補正が却下されたことは,原告に通知されているのであるから(甲4),出願人たる原告は,第4回補正の際にも,上記拒絶理由(第2回補正に係る補正要件違反)を是正する機会を与えられていたということができる。


 そうすると,本件出願の審査過程において,出願人から補正の機会を不当に奪う手続がされたということはできない。

ウしたがって,原告の主張は採用することができない

(5) 小括

 以上のとおり,取消事由1は理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。