●商標権「シェ・トワ不使用取消審判事件」最高裁第三小法廷

 本日は、昨日取り上げた、●『平成22(行ケ)10100 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成22年09月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100930154237.pdf)の中で引用されている最高裁判決である、●『昭和63(行ツ)37 審決取消 商標権 行政訴訟「シェ・トワ不使用取消審判事件」平成3年04月23日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121147751740.pdf)について取り上げます。


 本最高裁の内容は、次の通りです。


『         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人江口俊夫の上告理由について

 商標登録の不便用取消審判で審理の対象となるのは、その審判請求の登録前三年以内における登録商標の使用の事実の存否であるが、その審決取消訴訟においては、右事実の立証は事実審の口頭弁論終結時に至るまで許されるものと解するのが相当である。


 商標法五〇条二項本文は、商標登録の不便用取消審判の請求があった場合において、被請求人である商標権者が登録商標の使用の事実を証明しなければ、商標登録は取消しを免れない旨規定しているが、これは、登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件とし、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、もって右審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたものであり、商標権者が審決時において右使用の事実を証明したことをもって、右取消しを免れるための要件としたものではないと解されるから、右条項の規定をもってしても、前記判断を左右するものではない。


 原審の適法に確定した事実によれば、本件では、被上告人が有する本件商標権について上告人が商標法五〇条一項に基づく不使用取消審判を請求したのに対し、被上告人が審判において本件登録商標の使用の事実を何ら立証しなかったことから、請求どおり本件商標登録を取り消す旨の審決があったというのであり、被上告人がこの審決の取消しを求めて本訴を提起したところ、原審は、右使用の事実が証明されたとして、審決を取り消したものである。そして、前記判断に照らしてみれば、所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例も、右判断と抵触するものではない。論旨は、採用することができない。


 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官坂上義夫の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


 裁判官坂上義夫の反対意見は、次のとおりである。

 私は、多数意見が、商標登録の不使用取消審判請求についてした審決の取消訴訟においては、登録商標の使用の事実の立証は、事実審の口頭弁論終結に至るまで許されるものと解するのが相当である、として本件審決を取り消した原判決を支持すべきものとされることに賛同することができない。


 多数意見は、商標法五〇条二項本文について、「これは、登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件とし、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、もって右審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたものであり、商標権者が審決時において右使用の事実を証明したことをもって、右取消しを免れるための要件としたものではないと解される」という。


登録商標を使用しない者に商標権という排他独占的な権利を与えておく必要はないという点からすれば、「登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件」とするものであると解するというのは理解できることではあるが、そのことの故に、何らの制限もなしに登録商標の使用の事実の立証は事実審の口頭弁論終結に至るまで許される、とすることには疑問を呈せざるを得ない。


 商標法五〇条二項本文が「前項の審判の請求があった場合においては、……登録商標……の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品に係る商標登録の取消しを免れない。」と、わが国の法体系上も例の少ない要件を定めたのは、商標権の保護と活用、特に長期の不使用による休眠商標権の排除に資するためであり、多数意見のいうところの「登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件とし、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、もって右審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたものである」のは、商標行政(審判)の円滑な施行のため、同項の被請求人に自己の権利を守るための誠実な対応を求めるものに外ならない。


 商標権者は、商標法二五条に基づき登録商標の使用を専有するという特典を与えられ、かたわらその使用の事実を最もよく知り又は知り得る立場にあって、容易に使用事実の証明をすることのできる者であるから、商標法五〇条一項に基づく不便用取消審判の請求があった場合には、被請求人(商標権者)は、自らの権利を守り商標登録の取消しを免れるためには、取消しの処分をなすべきか否かを決める審判において、前記要件にかかる登録商標使用の事実について証明することを要するとしたのが、商標法五〇条二項本文の法意であると思われ、かりにも、被請求人が審判において立証はおろか、応答すらしないというような場合にも、取消訴訟の事実審の口頭弁論終結まで新たな立証が許されるというような解釈は採るべきではない。


 ところが、本件では、被上告人が有する本件商標登録について、上告人が商標法五〇条一項に基づく不使用取消審判を請求したのに対し、被請求人である被上告人が、審判において商標法五〇条二項の要件につき何ら主張、立証しなかったことから、請求どおり本件商標登録を取り消す旨の審決があったというのである。正に、法が商標登録の取消しを免れようとする被請求人に求めた対応を全く欠いたものである。


 かかる被請求人(被上告人)の権利を擁護する必要はないと思われ、処分の取消しを求める訴訟における一般原則に従って、原審において立証を許すべき事案であるとは考えられない。しかるに、原審は、新たに本件登録商標の使用の事実についての立証を許し、登録商標の使用の事実が証明されたとして、本件審決を取り消したもので、原判決には、法令の解釈適用を誤り判決に影響を及ぼすことの明らかな違法があるといわねばならない。論旨は、理由があり、原判決は破棄を免れず、本訴請求は棄却されるべきものである。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    佐   藤   庄 市 郎
            裁判官    可   部   恒   雄  』