●平成21(行ケ)10371審決取消請求事件 特許権「磁気ヘッド用基板」

 本日は、『平成21(行ケ)10371 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「磁気ヘッド用基板」平成21年10月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101014131022.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由3(訂正発明1の顕著な作用効果の看過等)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子、裁判官 田邉実)は、


『3 取消事由3(訂正発明1の顕著な作用効果の看過等)について

(1) 前記1,2のとおり,訂正発明1と引用発明の一致点及び相違点,甲第1号証等に記載された周知技術(技術常識)の内容に係る審決の認定に誤りはない。


(2)ア審決は,相違点aにつき,
「訂正明細書段落【0039】には,『本発明によれば,・・・・・・できる。これにより,薄膜磁気ヘッドなどのスライダーにおける浮上面の超精密加工を優れた精度で行うことができ,磁気ヘッドの信頼性を高めることができる。』との記載がなされているから,訂正発明1の『磁気ヘッド用基板』は『薄膜磁気ヘッド用基板』とみることができる。


 そうすると,この相違点aは単に表現上のものであって,実質的なものではない。
仮に,単に表現上のものではなく,実質的なものであるとしても,薄膜磁気ヘッド基板は磁気ヘッド基板の一つであるから,引用発明の『薄膜磁気ヘッド用基板』を『磁気ヘッド用基板』とすることは当業者であれば困難なくなし得たことである。」と説示する。


 訂正明細書の段落【0039】中には,審決が指摘するとおりの記載があるから,訂正発明1にいう「磁気ヘッド」には薄膜形成技術を利用して電磁変換回路を形成する磁気ヘッドすなわち薄膜磁気ヘッドが含まれるものということができる。したがって,訂正発明1と引用発明との前記相違点aは,両発明の実質的な相違点ではなく,これと同旨の審決の判断に誤りはない。


イまた,審決は,相違点bにつき,
「(た)そうすると,甲第2号証発明のAl2O3−TiC系焼結体は,薄膜磁気ヘッド用基板とするに当たり,上記(さ)〜(せ)(判決注:甲第1,5,6,7号証及び刊行物2の記載による分析)から明らかなように,『イオンミリング』加工を鏡面加工したスライダ浮上面に対してなすものといえ,この浮上面への加工は上記(そ)(判決注:訂正明細書の記載による分析)で述べたとおり,上記相違点bに係る訂正発明1の発明特定事項に含まれるから,引用発明において,基板の磁気記録面と対向する鏡面加工された面の一部にイオン照射により加工された加工部を有するようにすることは,当業者であれば困難なくなしえたものである。」と判断する。


 そこで,審決の上記判断につき検討するに,前記のとおり,甲第1,3,5ないし9号証から,遅くとも本件出願当時,薄膜磁気ヘッドの作成方法として,基板上に複数の電磁変換回路を形成した後に,基板を切断し,切断面たるスライダー浮上面に鏡面加工を行い,その後スライダー浮上面にイオンミリング加工を施して負圧発生部等を形成することが,当業者において周知の技術(技術常識)となっていたものと認めることができるところ,甲第3,8,9号証は辞典類の一般文献であるし,甲第1,5ないし7号証はいずれも磁気記録装置の磁気ヘッドに関するもので,引用発明や訂正発明1と技術分野が同一である。


 また,甲第1,5ないし7号証から認定できる周知技術と引用発明や訂正発明1とでは,磁気記録媒体の高密度化(大容量化)を実現するための磁気ヘッドの安定動作,さらには上記安定動作を実現するために磁気ヘッドを構成するスライダー浮上面の形状の適正化,表面の平滑化を実現するという課題が共通し,スライダー浮上面の形状の適正化,表面の平滑化を実現し,磁気ヘッドの安定動作を実現するという作用効果が共通する。


 そして,甲第1,5ないし7号証から認定できる周知技術と引用発明との間の技術分野及び作用効果の共通性の高さにもかんがみれば,上記周知技術を引用発明に適用することを阻害する格別の事情が存しなければ,上記周知技術を引用発明に適用する動機付けに欠けるところはないというべきである。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。