●平成20(ワ)25956 不正競争行為差止等請求事件 不正競争(1)

 本日は、『平成20(ワ)25956 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟  平成22年09月17日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100922100123.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争行為差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、まず、不競法2条1項1号の不正競争行為の成否(争点1)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 大西勝滋、裁判官 石神有吾)は、

『1 不競法2条1項1号の不正競争行為の成否(争点1)

(1) 争点1−1(原告商品の形態の周知商品等表示該当性)について

ア原告は,原告商品の形態は,原告の周知の商品等表示(不競法2条1項1号)に該当する旨主張する。


 ところで,不競法2条1項1号は,不正競争行為として,「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し,又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,若しくは電気通信回線を通じて提供して,他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を規定している。


 同号は,他人の商品表示(商品を表示するもの)又は他人の営業表示(営業を表示するもの)であって,「需要者の間に広く認識されている」もの,すなわち,他人の周知の商品表示及び営業表示(他人の周知の商品等表示)を保護するため,商品主体の混同を生じさせる行為及び営業主体の混同を生じさせる行為を不正競争行為として禁止する趣旨の規定であり,同号の商品表示は,商品の出所を他の商品の出所と識別させる出所識別機能を有するものであることを要すると解される。


 商品の形態は,本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等の見地から選択されるものであり,商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,特定の商品の形態が,他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し,かつ,その形態が長期間継続的・独占的に使用され,又は短期間でも効果的な宣伝広告等がされた結果,出所識別機能を獲得するとともに,需要者の間に広く認識されるに至ることがあり得るというべきである。


 このような商品の形態は,不競法2条1項1号の他人の商品表示として需要者の間に広く認識されているものといえるから,同号によって保護される他人の周知の商品等表示に該当するものと解される。


 そこで,まず,原告商品の形態が,被告商品の販売が開始された平成19年11月26日の時点において,原告の周知の商品等表示(商品表示)となっていたかどうかについて検討する。


イ原告商品の形態の独自性について

(ア) 原告商品(検甲1,2)によれば,原告商品は,?角質除去具としての本体部分(原告円筒管)が直径約4ミリメートルの「極細」で,長さ約7.5センチメートルの「コンパクトな円筒管」である点,?原告円筒管の材質がステンレス製で,光沢のあるシルバー色である点,?原告円筒管の両端部を開口として,各先端部分の円周に沿って角質除去のための刃が設けられている点,?樹脂製スティック(原告スティック)が原告円筒管内に挿入され,原告スティックの一部が原告円筒管からはみ出して見える点において,形態上の特徴があり,その中でも,角質除去具としての本体部分における上記?及び?の特徴は,これによって,原告商品に全体としてシャープでシンプルな印象を与えるという点において,特に看者の注意を惹く特徴であるものと認められる。


 他方,証拠(甲7の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日以前に,我が国で販売されていた美容用の角質除去具の商品としては,全体の形状が,ブラシ様のもの(甲7の1,4),平板で細長い棒状のもの(甲7の2,3,5),野菜等のピーラー(皮むき具)様のもの(甲7の3)で,いずれも角質を擦り取るためのやすり部と把持部からなるものがあったことが認められるが,原告商品のように,極細でコンパクトな円筒管形状のものが販売されていたことをうかがわせる証拠はない。


 加えて,原告商品は,美容用の角質除去具という商品の性質上,美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者をその需要者とするものと認められ,これらの需要者が原告商品のような美容器具を購入するに当たっては,その機能のみならず,外形的なデザインの美しさや新しさにも着目する傾向が強いと考えられるところ,後記ウで述べるとおり,原告商品が販売開始後短期間のうちにヒット商品となったという事情をも考慮すれば,原告商品の上記形態は,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日当時,他の同種商品(角質除去具)には見られない独自の特徴であったということができる。


(イ) これに対し被告は,原告が原告商品を販売する以前から,原告商品と同様の形態を有するSTT社製の「SCRAPE IT」が販売されていたことのほか,円筒形状の金属製のパイプの端部に刃物部分が形成された商品は数多く出回っていたとして,原告商品と同様又は類似の形態を有する複数の商品等(乙4ないし10,22ないし25,検乙2ないし5)が存在していたことなどを指摘し,原告商品の形態に独自性があることを争っている。


 しかしながら,以下のとおり,被告が指摘する商品等の存在によっても,原告商品の形態の独自性が否定されるものとはいえない。


a STT社製の「SCRAPE IT」について

(a) 前記争いのない事実等(前記第2の1)と証拠(甲4の1及び2,48,51の1ないし13,52,54,56,59の1ないし58,検甲1,2,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品は,米国フロリダ州所在のSTT社の代表者であるAが考案し,STT社が米国において「SCRAPE IT」の商品名で製造,販売する商品を,アイネクスト社が同商品に関するSTT社の米国以外の地域における総代理店であるENP社を通じて日本に輸入し,それらを原告がアイネクスト社から購入して,「SCRATCH」の商品名で平成18年9月26日から日本国内において販売していること,原告商品のパッケージには,「発売元」として原告が表示されていること,原告が原告商品の販売を開始する前の平成18年1月の時点では,STT社による「SCRAPE IT」の販売数量は合計1000本程度であり,その販売場所は米国国内の美容サロン(エステ店)での店頭販売のみであったことが認められる。


 そして,本件においては,原告による原告商品の販売が開始される前はもちろん,それ以後においても,原告が原告商品として販売するもの以外に,原告商品と同一の商品であるSTT社製の「SCRAPE IT」が,STT社又はそれ以外の者によって日本国内において販売され,商品として一般に出回っていたとの事実を認めるに足りる証拠はない。


(b) この点について被告は,STT社のホームページ上に,「SCRAPE IT」のインターネット販売に係る広告が掲載されていること(乙1,2),当該インターネット販売が日本国内への販売のみを特に避けて行っていたとする事情も見当たらないことから,STT社による上記インターネット販売によって,「SCRAPE IT」が原告による原告商品の販売開始前に日本国内においても販売されていた旨主張する。


 しかしながら,STT社の上記ホームページは,英語のみで表記されたものであり,上記インターネット販売の仕向地に日本が含まれるか否かは乙1,2からは明らかでないこと,他方,現に,日本国内において「SCRAPE IT」のインターネットを通じた購入が行われていることを具体的にうかがわせる証拠もないことからすれば,STT社によって「SCRAPE IT」の日本国内へのインターネット販売が行われていたか否か,その規模等の詳細はおよそ不明というほかない。したがって,少なくとも,STT社による上記インターネット販売によって,「SCRAPE IT」が,日本国内において,商品として一般に出回っていたといえる程度に販売されていたとの事実は認めることはできないというべきであるから,被告の上記主張は失当である。


b 乙4ないし10について

 原告商品の形態に独自性があるか否かの判断は,原告商品の需要者である美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者の認識を基準として行われるべきものであるから,当該判断に当たって比較されるべき他の同種商品の形態とは,これらの需要者において通常認し得る商品についての形態でなければならないというべきである。


 しかるに,被告が指摘する乙4(特公平4−42014号公報),乙5(特公平4−80694号公報),乙6(特公平7−108299号公報),乙7(特開平11−47142号公報),乙8(実用新案登録第3134240号公報),乙9(特開2002−10944号公報)及び乙10(米国特許出願公開第2005/0075651号明細書)は,いずれも,上記の需要者が通常目に触れるとは考え難い公開特許公報等の専門的な資料であり,これらの資料に示された物品の形態が原告商品の形態と類似していたとしても,そのことが原告商品の形態の独自性を否定する事情とならないことは明らかである。


 加えて,乙4ないし7に示された物品は,いずれも,円筒状の刃先を持つ「医療用皮膚切除具」であり,一般消費者が自ら用いる美容用の角質除去具である原告商品とは,明らかに商品の種類を異にし,その需要者も異なるものであるから,この点からも,これらの物品の形態いかんが原告商品の形態の独自性を否定する事情とはならない


 また,乙9に示された物品は,原告商品と同種の「皮膚の角質層除去具」ではあるものの,そこに示された物品の形状は,球形の握り部と二重の環状の刃からなるものであって,原告商品の形態とは明らかに異なるものであるから,この点からも,当該物品の形態が原告商品の形態の独自性を否定する事情とはならない。


 さらに,乙10(甲4の2と同じ)は,STT社の代表者Aが特許出願をした発明に係る米国特許出願公開明細書であって,その発明品である「たことり」(Callus Remover)は,正に「SCRAPE IT」あるいは原告商品そのものであるから,乙10が原告商品と同様又は類似の形態を有する商品が存在していたことの根拠となるものではない。


c 乙22ないし25及び検乙2ないし5について

 被告は,原告商品と同様の形態を有する商品として,?カイインダストリーズ株式会社が販売する皮膚科用製品の一部(乙22),?「男足」という商品名の角質除去具(乙23,検乙3),?「HEEL HORNY PEEELER」(ヒールホーニーピーラー)という商品名の角質除去具(乙24,検乙2),?「ジェイアンドエイチPurity(ピュリティ) ボディケアセット」という商品名のセット商品に含まれる角質除去具(乙25,検乙5),?「Pure Slick」という商品名の角質除去具(検乙4)が存在することを指摘する。


 しかしながら,まず,上記?の商品は,医療用皮膚切除具と認められるものであり,前記bで述べたとおり,原告商品とは,明らかに商品の種類を異にし,その需要者も異なるものであるから,当該商品の形態いかんが原告商品の形態の独自性を否定する事情とはならない。


 次に,上記?ないし?の各商品は,いずれも円筒形状の金属製のパイプの端部に刃物部分が形成された角質除去具であることが認められるものの,これらの商品の販売が開始された時期を示す証拠がなく,これらの商品が原告商品の販売が開始された平成18年9月26日の時点で販売されていたとの事実を認めることはできないから,これらの商品の存在が,原告商品の形態の独自性を否定する事情とはなり得ないというべきである。


(ウ) 以上の検討によれば,原告商品の前記(ア)の形態は,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日当時,他の同種商品(角質除去具)には見られない独自の特徴を有する形態であったものと認められる。


ウ原告商品の形態の周知性について


 ・・・省略・・・


エ小括

(ア) 前記イ及びウを総合すると,原告商品は,その販売が開始された平成18年9月26日当時,前記イ(ア)の形態において,同種商品と識別し得る独自の特徴を有していたものであり,かつ,販売開始後平成19年11月26日ころまでの約1年2か月の間に,多くの全国的な雑誌,新聞,テレビ番組等で繰り返し取り上げられて,原告商品の形態が写真や映像によって紹介されるなど効果的な宣伝広告等がされるとともに,原告商品の販売数も販売開始当初から飛躍的に増加し,平成19年11月の時点では約89万本に達し,美容雑貨の全国的なヒット商品としての評価が定着するに至ったものと認められる。


 上記認定事実によれば,原告商品の上記形態は,遅くとも平成19年11月26日ころまでには,全国の美容雑貨関係の取引業者及び美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者の間において,特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに,原告商品を表示するものとして需要者である上記取引業者及び一般消費者の間に広く認識されるに至ったものと認めるのが相当である。


 したがって,原告商品の上記形態は,原告の周知の商品等表示(不競法2条1項1号)に該当するというべきである。


(イ) これに対し被告は,原告商品は厳重にパッケージングされており,商品本体だけでバラ売りされていた事実は確認されておらず,通常,需要者が原告商品の形態を認識しにくい状態で販売されていること,原告商品は,長年大量にテレビコマーシャル等で宣伝広告が行われてきた商品ではなく,一般需要者が原告商品の形態を直接的に目にする機会はほとんどなかったことからすれば,原告商品の形態自体が商品等表示としての機能を獲得しているとされる余地はない旨主張する。


 しかしながら,?原告商品(検甲1,2)のパッケージには,透明窓が付いており,そこから原告商品を確認できる上に,同パッケージには,原告商品の使用方法を説明する写真が掲載されており,そこからも原告商品の形態が確認できること,?雑誌,新聞,テレビ番組等においても,原告を発売元とする商品として,原告商品の形態の写真や映像付きで原告商品の広告・紹介がされていること(前記ウ)に照らすならば,原告商品について,需要者がその形態を認識しにくい状態で販売されているということはできない。


 また,商品形態が商品表示として出所識別機能を獲得するには宣伝広告が必ず長期に及ばなければならないというものではなく,商品の販売開始から短期間であっても効果的な宣伝広告等がされた結果,当該商品の形態が出所識別機能を獲得するとともに,需要者の間に広く認識されるに至ることがあり得るというべきであり,原告商品は,このような場合に当たるものと認められる。


 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。


(2) 争点1−2(商品形態の類似性)について

ア前記(1)イ(ア)及び被告商品(検甲3)によれば,被告商品は,?角質除去具としての本体部分(被告円筒管)が「極細」で(直径約5ミリメートル),「コンパクトな円筒管」(長さ約7センチメートル)である点,?被告円筒管の材質がステンレス製で,光沢のあるシルバー色である点,?被告円筒管の両端部を開口として,各先端部分の円周に沿って角質除去のための刃が設けられている点,?樹脂製スティック(被告スティック)が被告円筒管内に挿入され,被告スティックの一部が被告円筒管からはみ出して見える点において,原告商品の前記(1)イ(ア)の形態と共通する形態上の特徴を備えており,上記?及び?の特徴から,看者に全体としてシャープでシンプルな印象を与えるという点においても共通するものと認められる。


イ他方,被告は,原告商品と被告商品との形態上の相違点として,?円筒管の太さと長さ,?ステンレス部分の厚み,?刃先の角度,?刃先の有効長,?スティックの長さと色を指摘する。

 確かに,原告商品と被告商品の各寸法等を測定した結果を示した「検査証明書」(乙11)等によれば,原告商品と被告商品との間に上記?ないし?に係る相違があることが認められるものの,いずれも微細な寸法の違いや色の違いにすぎず,需要者らの注意を惹かない些細な相違点にすぎないものというべきであり,原告商品及び被告商品を全体としてみれば,上記相違点をもって原告商品及び被告商品における前記アの形態上の共通点を凌駕するものとはいえない。したがって,被告商品の形態が原告商品の形態に類似するものであることは,優にこれを認めることができる。


(3) 争点1−3(混同のおそれの有無)

 前記(1)のとおり,原告商品の形態は原告の周知の商品表示としての機能を有しており,他方,前記(2)のとおり,被告商品の形態が原告商品の形態と類似することからすれば,需要者である美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者において,被告商品と原告商品との混同を生じるおそれがあるものと認められる。


 なお,証拠(甲36,37,41,46,47,58)によれば,原告商品が店頭販売及び通信販売のいずれにおいても税込価格2940円で販売されているのに対し,被告商品のインターネットによる通信販売の価格をみると,税込価格で1480円から1785円と原告商品よりも低い価格で販売されていることが認められるが,この程度の販売価格の差異があるからといって,上記認定が左右されるものではなく,他にこれを左右する証拠はない。


(4) まとめ

 以上によれば,被告商品を販売する被告の行為は,不競法2条1項1号の不正競争行為に当たるものと認められる。


 そして,原告は,被告の上記不正競争行為によって,原告商品の販売に係る営業上の利益を侵害されているものであるから,不競法3条1項に基づき,被告に対し,被告商品の譲渡,引渡し,又は譲渡若しくは引渡しのための展示の差止めを請求することができる。』


 と判示されました。