●平成22(行ウ)183 特許庁による手続却下の処分に対する処分取消請

 本日は、『平成22(行ウ)183 特許庁による手続却下の処分に対する処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年09月09日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100916105828.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許庁による手続却下の処分に対する処分取消請求事件でその請求が棄却された事案です。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 山門優、裁判官 柵木澄子)は、


『1 本件処分の適法性

 特許法は,パリ条約による優先権の主張について,出願と同時に優先権の主張をする必要があり(法43条1項),さらに,最先の優先権主張の日から1年4か月以内に優先権証明書を提出する必要があるとし(同条2項),優先権証明書が上記期間内に提出されないときは,当該優先権の主張は効力を失うものと定めている(同条4項)。そして,特許法上,上記の優先権の主張が効力を失った場合に同効力の回復を認める旨の規定は存在しない。


 本件においては,前記争いのない事実で判示したとおり,最先の優先権主張の日は,先の出願の日である平成16年10月27日であり,優先権証明書の提出期間の末日は平成18年2月27日であるのに,原告は,同日までに特許庁長官に対して優先権証明書を提出しなかったことにより,原告による優先権の主張は,法43条2項及び4項の規定に基づき効力を失ったものである。そして,原告が優先権証明書提出書を提出物件とする手続補正書(本件補正書)を特許庁長官に提出したのは上記提出期間の経過後である。


 したがって,原告がした本件補正書に係る手続は,特許法上の根拠を欠く不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから(法18条の2第1項),これを却下した本件処分の判断は適法であると認められる。


2 原告の主位的主張について

 これに対し,原告は,原告が本件補正書を特許庁長官に提出したのは法43条2項に規定する優先権証明書の提出期間の経過後であるものの,パリ条約上の優先権制度の趣旨に鑑みれば,同項の規定に反したという手続的瑕疵については,特に不都合が発生しない限り広く補正を認め,私有財産たる「優先権の恩恵を受ける権利」を保護するのが相当であり,同項の規定を必要以上に厳格に解して補正を認めず,私有財産を公権力で剥奪するかのような本件処分は,憲法29条1項に違反し違法である旨を主張する。


 しかしながら,パリ条約は,優先権を主張する場合の手続について規定した上で(4条D(1),(3),(4 )),かかる手続がされなかった場合の効果については,優先権の喪失を限度として各同盟国において定めることを認めており,特許出願制度において優先権証明書の提出期間を徒過した場合にどのような措置を講ずるかという問題を,優先権の喪失を限度として各国の立法政策等に委ねているのであり,我が国は,同条約に基づき,法43条4項で,優先権証明書の提出期間を徒過した場合に,優先権の主張の効力を失わせることとする措置を講じたものである。


 パリ条約による優先権は,パリ条約の同盟国の第一国に出願した者が他の同盟国(第二国)において出願するについて,一定期間に限り,先後願の関係,新規性,進歩性等の判断の基準日としての出願日を第一国出願の日に遡らせることができる特別な利益であり,先願主義の例外事由となり,新規性等の判断の基準日を遡らせるなど,その効果が第三者に与える影響は大きいものである。


 上記のような我が国の制度の下で,提出期間内に優先権証明書を提出しなかったことにより失効した優先権主張の手続を,その後に優先権証明書が提出されたことにより,事後的に有効な手続と取り扱うことを認めた場合,当該優先権による基準時より後の日で,当該出願より前の日までに同一発明の出願を完了した第三者は,優先順位が覆ることになる不利益を被ることになるのであり,明文の規定のないまま,解釈により,いったん失効した優先権主張の手続を復活させる取扱いをすることは,手続の安定を害し,許されないというべきである。


 原告の主張は,立法論としてはともかく,解釈論としては到底採用することができない。本件において失効した優先権の主張を補正により復活させなかったことが,原告の財産権等の法的利益を侵害するものであるといえないことは明らかである。


 したがって,法43条2項及び4項に基づき本件補正書に係る手続を却下した本件処分は,憲法29条1項に違反するものとは認められず,原告の主張は理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。