●平成21(ワ)33872 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟

 本日は、『平成21(ワ)33872 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟 平成22年08月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100906085857.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点1(被告の行為主体性)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史、裁判官 石神有吾)は、


『1 争点1(被告の行為主体性)について

(1) 原告は,?被告が,自ら勧誘した本件各出店者が出店するインターネットショッピングモール(楽天市場)を運営し,被告サイトを通じて,購入者(同希望者を含む。)からの要請に応じて,自らが管理運営するサーバに保管し,内容を点検可能な本件各商品に関する情報を顧客に送信し,表示させる行為,及び本件各商品について顧客から購入の申込みを受け,本件各出店者をして出荷,すなわち譲渡させる行為(本件各商品の購入の申込みの意思表示を顧客から受信し,本件各出店者に送信し,出荷を促す行為,本件各商品の価格,消費税,配送料などに関する情報を顧客に提示する行為,その他決済に必要な情報の授受,配送先の指定(履行地の指定)に関する情報の授受などを含む。)を行い,利益を上げていること,?被告は,出店者が楽天市場に出店し,商品を展示及び販売するに当たり,多くの支援・援助を行い,不適切な商品等についてはコンテンツを削除する権限を有していること,?被告と本件各出店者の相互利用関係等にかんがみると,被告の上記行為ないし関与は,楽天市場における本件各商品の販売のための展示及び販売について,被告が主体となって本件各出店者を介し,あるいは本件各出店者と共同で,少なくとも本件各出店者を幇助して展示行為及び販売行為を行ったものとして,商標法2条3項2号の「譲渡のために展示」又は「譲渡」に該当し,同様に,不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のために展示」又は「譲渡」に該当する旨主張する。


 本件各出店者が,平成21年8月10日当時,楽天市場の各出店ページに本件各標章のいずれかを付した本件各商品を販売のために展示していたこと,本件各出店者のうち,ティキティキカンパニー及びデータリンクが,そのころまでに,楽天市場で本件各商品のうち,本件よだれかけ及び本件携帯ストラップをそれぞれ販売したことは,前記争いのない事実等(前記第2の2(5))のとおりである。


 そこで,本件各出店者における本件各商品の上記展示及び販売について,被告が,商標法2条3項2号(不正競争防止法2条1項1号及び2号)の「譲渡のために展示」及び「譲渡」を行ったものと認められるかどうかを判断する。


(2) 前提事実
前記争いのない事実等(前記第2の2)と証拠(甲21ないし32,39,40,乙1ないし4)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。


 ・・・省略・・・


(3) 判断

ア 商標法2条3項2号は,「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡」する行為は,当該標章の使用に当たる旨規定している。


 同号が規定する商品に標章を付したものの「譲渡」とは,当該標章を付した商品の所有権を他人に移転することをいい,これには有償,無償を問わないものと解される。


 そうすると,本件各標章を付した本件各商品の販売(売買)は,有償による「譲渡」に該当し,本件各標章の使用に当たるものと認められる。


 そこで,被告が本件各商品について上記「譲渡」を行ったかどうかについて検討する。


 前記前提事実によれば,?被告が運営する楽天市場においては,出店者が被告サイト上の出店ページに登録した商品について,顧客が被告のシステムを利用して注文(購入の申込み)をし,出店者がこれを承諾することによって売買契約が成立し,出店者が売主として顧客に対し当該商品の所有権を移転していること,?被告は,上記売買契約の当事者ではなく,顧客との関係で,上記商品の所有権移転義務及び引渡義務を負うものではないことが認められる。


 これらの事実によれば,被告サイト上の出店ページに登録された商品の販売(売買)については,当該出店ページの出店者が当該商品の「譲渡」の主体であって,被告は,その「主体」に当たるものではないと認めるのが相当である。


 したがって,本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品についても,その販売に係る「譲渡」の主体は,本件各出店者であって,被告は,その主体に当たらないというべきである。


イ(ア) これに対し原告は,楽天市場における本件各商品の販売についての被告の関与によれば,被告が主体となって本件各出店者を介し,あるいは本件各出店者と共同で本件各商品の譲渡を行った旨主張する。


 しかしながら,前記前提事実によれば,?被告が楽天市場において運営するシステム(RMS)には,出店者が出店ページに掲載する商品の情報がすべて登録・保存されているが,個別の商品の登録は,被告のシステム上,出店者の入力手続によってのみ行われ,出店者は,事前に被告の承認を得ることなく,自己の出店ページに商品の登録を行うことができ,また,実際上も,被告は,その登録前に,商品の内容の審査を行っていないこと,?出店ページに登録される商品の仕入れは,出店者によって行われ,被告は関与しておらず,また,商品の販売価格その他の販売条件は,出店者が決定し,被告は,これを決定する権限を有していないこと,?顧客の商品の購入の申込みを承諾して売買契約を成立させるか否かの判断は,当該商品の出店者が行い,被告は,一切関与しないこと,?売買契約成立後の商品の発送,代金の支払等の手続は,顧客と出店者との間で直接行われること,?被告は,出店者から,販売された商品の代金の分配を受けていないこと,?もっとも,被告は,出店者から,基本出店料(定額)及びシステム利用料(売上げに対する従量制)の支払を受けるが,これらは商品の代金の一部ではなく,また,システム利用料は売上高の2ないし4%程度であること(別表参照)に照らすと,商品の販売により,被告が出店者と同等の利益を受けているということもできないこと,?顧客が楽天市場の各店舗で商品の注文手続を行った場合,被告のシステムから顧客宛てに「注文内容確認メール」が自動的に送信され,これと同時に,同内容の「注文内容確認メール」が当該店舗の出店者にも自動的に送信されるが,これらの送信は,機械的に自動的に行われているものであり,被告の意思決定や判断が介在しているものとはいえないこと,?被告の出店者に対するRMSの機能,ポイントシステム,アドバイスコンサルティング等の提供等は,出店者の個別の売買契約の成否に直接影響を及ぼすものとはいえないこと,以上の?ないし?に照らすならば,実質的にみても,本件各商品の販売は,本件各出店者が,被告とは別個の独立の主体として行うものであることは明らかであり,本件各商品の販売の過程において,被告が本件各出店者を手足として利用するような支配関係は勿論のこと,これに匹敵するような強度の管理関係が存するものと認めることはできない。


 また,本件各商品の販売による損益はすべて本件各出店者に帰属するものといえるから,被告の計算において,本件各商品の販売が行われているものと認めることもできない。


 さらに,上記?ないし?に照らすならば,本件各商品の販売について,被告が本件各出店者とが同等の立場で関与し,利益を上げているものと認めることもできない。もっとも,本件各出店者と被告との間には,被告は,本件各出店者からその売上げに応じたシステム利用料を得ていることから,本件各出店者における売上げが増加すれば,システム利用料等による被告の収入が増加するという関係があるが,このことから直ちに被告が本件各商品の販売の主体として直接的利益を得ているものと評価することはできない。


 以上によれば,被告が本件各商品の販売(譲渡)の主体あるいは共同主体の一人であるということはできないというべきである。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


(イ) また,原告は,「売買」における商品を売却する行為は,権利主体の変更のための意思表示のみをいうのではなく,その法律的効果をもたらすための一連の行為をいい,申込みの誘引,申込みや承諾の意思表示及びその受領,物の発送(納品),代金の請求,回収等様々な行為が含まれるのであり,これらは,いずれも売買契約の当事者でなければできないものではないところ,被告は,本件各商品の譲渡に関する行為の全般にわたって有形無形の関与をし,このような被告の幇助行為がなければ本件各出店者が本件各商品を販売することは著しく困難であり,被告は本件各商品の譲渡により直接的利益を得ているのであるから,被告の幇助行為は,商標法2条3項2号の「譲渡」に当たる旨主張する。


 しかし,前記アのとおり,商標法2条3項2号の「譲渡」とは,当該標章を付した商品の所有権を他人に移転することをいい,有償,無償を問わないものと解されるが,原告が主張するような売却行為の一連の行為の一部に関与する幇助行為を行ったというだけでは,このような商品の「譲渡」を行ったものと認めることはできない。


 また,被告が被告が本件各商品の販売の主体として直接的利益を得ているものといえないことは,前記(ア)のとおりである。


 さらに,楽天市場の出店ページには当該出店者の事業所所在地等が記載されており,出店ページから出店者を特定できること(前記(2)オ)に照らすならば,原告の主張するような解釈を採らなければ,権利者の利益を不当に害するという事情も認められない。


 したがって,原告の主張は採用することができない。


ウ以上のとおり,本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品の販売に係る「譲渡」(商標法2条3項2号)の主体は,出店者であって,被告は,その主体に当たらないというべきであり,これと同様に,「譲渡のために展示」する主体は,出店者であって,被告はこれに当たらないというべきである。


 また,不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」についても,商標法2条3項2号と同様に解するのが相当である。


(4) まとめ

 以上によれば,本件各出店者の出店ページにおける本件各商品の展示及び販売に係る被告の関与(行為)は,商標法2条3項2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」に該当するものと認めることはできず,同様に,不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」に該当するものと認めることもできない。


 そうすると,被告の上記行為が上記「譲渡のための展示」又は「譲渡」に該当することを前提とする原告の本件差止請求及び損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。


2 結論

 以上のとおり,原告の請求は理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。