●平成21(ワ)1986 特許権 民事訴訟「フラッシュメモリ装置」

 本日は、『平成21(ワ)1986 特許権 民事訴訟フラッシュメモリ装置」平成22年08月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100914145118.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許発明の技術的範囲についての解釈が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 柵木澄子、裁判官 小川卓逸)は、

『(4) 構成要件1−D−1,1−E−1,1−G(奇数番グローバルワードライン)及び構成要件1−D−2,1−E−2,1−G(偶数番グローバルワードライン)について


ア原告は,「奇数番」,「偶数番」が問題となるのは,「グローバルワードライン」についてであって,「ローカルワードライン」の並び順は問わないと主張する(前記第2の3(1)(原告の主張)ア(エ)a(a))。これに対し,被告は,「奇数番グローバルワードライン」は,奇数番のローカルワードラインとのみ対応するグローバルワードラインであり,「偶数番グローバルワードライン」は,偶数番のローカルワードラインとのみ対応するグローバルワードラインである旨主張する(前記第2の3(1)(被告の主張)ア(エ)a(b))。


 本件発明の特許請求の範囲に記載された「奇数番グローバルワードライン」,「偶数番グローバルワードライン」の各用語は,一般的な技術用語ではなく,その意義は,本件発明の特許請求の範囲の記載から一義的に明らかであるとはいえないから,これらの用語は,本件明細書の記載及び図面を考慮して解釈されなければならない(特許法70条2項)。


 そこで,以下,本件明細書の記載及び図面を参酌し,上記各用語の意義について検討することとする。


イ 本件明細書中には,「奇数番グローバルワードライン」,「偶数番グローバルワードライン」のいずれの用語についても,その意義を直接的に定義付ける記載はなく,また,各用語の意義について直接説明する記載もない。

ウ 本件明細書には,本件発明の唯一の実施例として,図3(「本発明の好適な実施の形態による行デコーダ回路を示す回路図」)と共に次の各記載がある。


 ・・・省略・・・


エ 上記の本件明細書の記載及び図3によれば,本件発明の唯一の実施例においては,(WL0)ないし(WL7)の番号が付された8本のローカルワードラインが番号順に配列されており,奇数番グローバルワードラインは,4個のドライバを介して奇数番の付された(WL1),(WL3),(WL5)及び(WL7)の4本のローカルワードラインに連結され,偶数番グローバルワードラインは,4個のドライバを介して偶数番の付された(WL0),(WL2),(WL4)及び(WL6)の4本のローカルワードラインに連結された構成が開示されていることが認められる。そして,実施例においては,この構成を採用することにより,例えば偶数番グローバルワードラインに対応するローカルワードラインの一つ(WL2)が選択された場合に,選択されなかった同一のグローバルワードラインに対応する他のローカルワードライン(WL0,WL4及びWL6)はフローティング状態となるものの,交互に配置された接地電圧を有する奇数番グローバルワードラインに対応するローカルワードライン(WL1,WL3,WL5及びWL7)によって遮蔽されているため,選択されたローカルワードライン(WL2)がワードライン電圧に駆動されるときに,フローティング状態のローカルワードライン(WL0,WL4及びWL6)には電圧が誘起されず,いわゆるカップリングの発生が防止されている。


 そうすると,上記実施例においては,「偶数番グローバルワードライン」とは,順に並んだローカルワードライン(順にWL0,WL1,WL2,WL3,WL4,WL5,WL6,WL7と番号が付されている。)のうち偶数番が付されたローカルワードライン(WL0,WL2,WL4,WL6)に対応するグローバルワードラインであり,「奇数番グローバルワードライン」とは,上記順に並んだローカルワードラインのうち奇数番が付されたローカルワードライン(WL1,WL3,WL5,WL7)に対応するグローバルワードラインであるということができる。


オ 原告は,本件発明は上記実施例に記載された構成に限定されるものではなく,偶数番グローバルワードライン及び奇数番グローバルワードラインに対応するローカルワードラインの並び順は問わないのであって,本件発明におけるグローバルワードラインの「奇数番」,「偶数番」とは,複数のグローバルワードラインの並び順をいう旨主張する。


 本件発明の特許請求の範囲の記載中には,偶数番グローバルワードラインに対応する複数のローカルワードラインと奇数番グローバルワードラインに対応する複数のローカルワードラインとを交互に配置する旨の文言はなく,また,一般論として,特許発明の技術的範囲は,実施例に記載された構成に必ずしも限定されるものではない。


 しかしながら,原告が主張するようにグローバルワードラインに対応するローカルワードラインの並び順は問わないと解すると,本件発明には,例えば,前記ウの本件発明の実施の形態において,偶数番グローバルワードライン(EGWLi)に,順に並んだローカルワードライン(WL0ないしWL7)のうちWL0,WL1,WL2,WL3を対応させる構成も含まれることになる。


 このような構成の下で,仮にWL2が選択される場合について考えると,前記ウ(コ)記載のとおり,選択されなかったローカルワードラインWL0,WL1及びWL3は,フローティング状態となるから,ローカルワードラインWL2の電位が選択電位に上昇すると,カップリング効果により,同じ偶数番グローバルワードラインに属する他のローカルワードラインWL0,WL1及びWL3の電位も一斉に上昇することになり,メモリ装置として正常に動作しない状態になってしまうことは明らかである。このような場合に生じるカップリングの問題を解決するための具体的な手段は,本件明細書中には一切開示されておらず,その解決手段が自明であると認めるに足りる証拠もない。


 原告は,本件発明においてはローカルワードラインがフローティング状態になるという問題は前提にしておらず,段落【0032】のフローティング状態のローカルワードラインに生じるカップリングの問題とその解決についての記載は,請求項12,13の発明に係る記載であり,本件発明の解釈に参酌されるべき記載ではないと主張する。


 しかしながら,「奇数番グローバルワードライン」及び「偶数番グローバルワードライン」についての原告の前記解釈を前提とするならば,本件発明にはカップリングの問題があるにもかかわらず,その解決手段を講じないままの正常に動作しない状態のメモリ装置を含むことになってしまうことになる。このような原告の解釈は不合理であるといわざるを得ない。


カ前記ウの実施例に関する記載以外には,本件明細書中に「奇数番グローバルワードライン」,「偶数番グローバルワードライン」の用語の意義を把握する手掛かりとなる記載は存在しない。


キ 上記の本件明細書の記載及び図面を参酌するならば,本件発明の唯一の実施例に示されているとおり,「奇数番グローバルワードライン」とは,順に並んだローカルワードラインのうち奇数番が付されたローカルワードラインのみに対応するグローバルワードラインのことを意味し,「偶数番グローバルワードライン」とは,順に並んだローカルワードラインのうち偶数番が付されたローカルワードラインのみに対応するグローバルワードラインのことを意味すると解するのが相当であり,原告の「奇数番グローバルワードライン」,「偶数番グローバルワードライン」の各用語の意義についての主張は,採用することができない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい