●平成22(行ケ)10139  審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

 本日は、『平成22(行ケ)10139  審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「こころをなでる静寂 みやこ」 平成22年09月08日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100909112900.pdf)-について取り上げます。


 本件は、商標登録の拒絶審決の取り消しを求めた取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標の類比判断についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 荒井章光)は、


『1 商標の類比判断について

 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものである最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


 しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されないが,他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。


 そこで,以上説示した見地から本願商標と引用商標との類否について検討することとする。

2 本願商標について
(1) 外観

 本願商標は,標準文字によって,「こころをなでる静寂みやこ」と12文字を横書きしてなるものである。そして,1ないし9字目の「こころをなでる静寂」と10ないし12字目の「みやこ」との間には,1文字分程度の空白が存在し,視覚上,両者は分離してみることができるものである。


(2) 観念

 ・・・省略・・・

(3) 称呼

 本願商標は,「ココロヲナデルセイジャクミヤコ」と称呼が比較的長く,また,上記(1)及び(2)のとおり,全体として一個不可分の概念を示すものとは認められない12文字から成る外観が比較的長い商標であり,反面,「心をなでる静寂」と「みやこ」とからはそれぞれ一定の観念が生じ,簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,その一部分だけによって簡略に表記ないし称呼され得るものということができるから,「ココロヲナデルセイジャクミヤコ」の外に,「みやこ」の文字部分に相応した「ミヤコ」の称呼も生ずるものということができる。


3 引用商標について

(1) 外観
引用商標は,別紙引用商標目録のとおり,中央に「都」の文字があり,その周りに円弧状に,上部に「MIYAKO HOTELS」の文字,下部に「KINTETSU GROUP」の文字を配した構成よりなるものであるところ,このうちの「都」の文字部分は,中央に大きく表されており,引用商標を見る者は,「都」の文字に着目することになる。

(2) 観念

 ・・・省略・・・

(3) 称呼

 引用商標は,上部から順に,「MIYAKO HOTELS」,「都」及び「KINTETSU GROUP」ごとに分けてみることができるものであるところ,これらは,全体として一個不可分の既成の概念を示すものとは認められず,また,欧文字で25字,漢字で1字から成る外観及び称呼が比較的長い商標であるから,簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,その一部分だけによって簡略に称呼され得るものであるということができ,構成の一部である「ミヤコ」との称呼も生ずるものということができる。


4 本願商標と引用商標との類否について

 以上によると,本願商標と引用商標とは,その外観が異なるが,いずれも,「都」との観念及び「ミヤコ」との称呼を有する類似の商号ということができる。また,本願商標と引用商標とは,いずれも指定役務において「宿泊施設の提供」において共通し,また,本願商標の「飲食物の提供」は,引用商標の「日本料理を主とする飲食物の提供,西洋料理を主とする飲食物の提供,中華料理を主とする飲食物の提供,アルコール飲料を主とする飲食物の提供,コーヒー・清涼飲料を主とする飲食物の提供」を含むものであって,本願商標の指定役務のうちの「宿泊施設の提供,飲食物の提供」と引用商標の指定役務のうちの「宿泊施設の提供,日本料理を主とする飲食物の提供,西洋料理を主とする飲食物の提供,中華料理を主とする飲食物の提供,アルコール飲料を主とする飲食物の提供,コーヒー・清涼飲料を主とする飲食物の提供」とは類似する役務であるということができる。


 そして,引用商標の権利者は,我が国有数の鉄道会社である近畿日本鉄道株式会社であり(甲1),同社の関連会社は,大手ホテルチェーンとして,都ホテルズ&リゾーツとの表示を用い,シティーホテルやリゾートホテルとして,シェラトン都ホテル東京,金沢都ホテル,岐阜都ホテル四日市都ホテル,津都ホテル,志摩観光ホテル,ホテル志摩スペイン村,プライムリゾート賢島,ホテル近鉄アクアヴィラ伊勢志摩,ウェスティン都ホテル京都,新・都ホテル奈良ホテルシェラトン都ホテル大阪,天王寺都ホテル,博多都ホテル,沖縄都ホテル及び都ホテル・ロサンゼルスと,広く事業展開を行っており(弁論の全趣旨),これらのホテルチェーン名及びうち12のホテル名には「都」が存在し,引用商標が使用されているものと解されるから,「都」との観念及び「ミヤコ」との称呼が引用商標と共通する本願商標を,その指定役務のうちの「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,会議室の貸与」に使用するならば,取引者,需要者に対して,その出所について誤認混同を生ずるおそれがあるということができる。


 したがって,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するものとして,商標登録を受けることができないものというべきである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。