●平成21(行ケ)10342 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10342 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「液体微量吐出用ノズルユニット」平成22年08月19日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100826155730.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商業的成功および手続違背についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『(7) 商業的成功について

 原告は,本願発明の実施品に係るルビー製ノズルを含むノズルユニットは,微細なパターニングを実現するために必要とされる微細なノズルをノズル先端の劈開による破損・損傷の問題や接着剤溶出の問題を解消して提供可能とするものであり,商業的な成功を収めている旨主張する。


 しかし,引用発明に周知技術1ないし3を適用して本願発明の構成とすること,それによる効果も容易に予測可能であることは上述のとおりであるから,それにもかかわらず,本願発明の実施品が商業的な成功を収めているというのであれば,本願発明の実施品とそうではなかった製品とについて,それぞれの売上高の推移などについて明らかにし,そのうち本願発明の実施と因果関係を有するのがどの程度か等を主張し,必要な関係資料を証拠として提出すべきであるのに,原告は必要な主張立証を尽くしておらず,原告の主張は採用するに由ない。


(8) 以上のとおり,本願発明は,引用発明を前提として,周知技術1ないし3を斟酌することにより容易想到であったといえるものであり,この点に関する判断につき,審決に誤りはない。


4 取消事由3(手続違背)について

(1) 原告は,相違点1ないし3に係る構成は,いずれも本願発明が解決しようとする課題と密接に関連する構成であり,核心的なものである旨主張する。


 しかし,前記3のとおり,相違点1ないし3に係る構成は,「ノズルを圧入する」ことに関する構成以外,いずれも,明細書上,図面にのみ根拠があるか,又は何も根拠がない構成である。また,その意義についても,同図面の内容を,これに明細書の全体を併せて検討してみても,その構成が本願発明の核心的ないし特徴的な構成と認めることはできない。


 なお,「ノズルを圧入する」構成については,甲20(拒絶理由通知書)において,「請求項5に特定するようにノズルを圧入装着することも,従来周知の技術」として指摘されており,かつ,この手段が実際に周知技術であることは,前記3(4)ア(ウ)で検討したとおりである。


(2)ア原告は,相違点1ないし3に係る構成は,相違点3における「圧入」に関する構成を除き,審判段階で出願人に通知された拒絶理由通知(甲20)に応答する手続補正書(甲22)により初めて付加されたものであり,特許庁審判官は,審決において初めて挙示した文献により周知技術1から3を認定したが,これらが審決以前に争点とされたことはない旨主張する。


 しかし,拒絶理由通知に応答する手続補正書により初めて請求項に付加された構成に対して,その拒絶理由通知において文献が摘示されていないのは,審査対象となった請求項に当該構成が特定されていなかったのであるから,摘示する必要もなく,そもそも摘示不可能であり,当然のことである。


イまた,原告は,特許庁審判官が,審決において初めて挙示した周知技術を単に当業者の技術水準を知るためなどに補助的に用いたのではなく,実質的な引用例として判断を行った違法がある旨主張する。


 引用例を挙げて本願発明の容易想到性を指摘する拒絶理由を受けた出願人(審判請求人)が,当該拒絶理由を回避するために,当該引用例からだけでは想到できない構成とする補正を行い,拒絶理由を回避しようとすることがある。


 本件においては,拒絶理由通知後の手続補正(甲22)で補正された相違点1から3に係る構成につき,審決で摘示された周知技術1ないし3は,前記3のとおり,いずれも実際に周知技術であることが認められるところ,前記(1)のとおり,相違点1から3に係る構成は,本願発明における核心的ないし特徴的な構成とはいえない。


 そうすると,当事者の手続保障の観点からしても,相違点1ないし3に係る構成には,改めて特許出願人である原告に対し,拒絶理由を通知して,応答の機会を与えることが必要となるような事項はない以上,特許庁審判官が,原告に対し,当該相違点1ないし3に対応する周知技術1ないし3について,改めて文献を摘示し,意見を述べる機会を与えなかったとしても,違法になるとはいえない。


(3) 以上のとおり,本件での事情の下,特許庁審判官が,原告に対して改めて拒絶理由を通知せず,相違点1ないし3に係る構成がいずれも周知技術であるとした点に手続上の違法があるとはいえない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。