●平成22(行ケ)10150 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「京や」

 本日は、『平成22(行ケ)10150 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「京や」平成22年08月19日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100827104155.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標の類否の判断手法についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『1 商標の類否の判断手法について

 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品又は役務に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品又は役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁参照)。


 また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されない(最高裁昭和38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成20年9月8日判決・判例時報2021号92頁,判例タイムズ1280号114頁参照)。


2 本願商標及び引用商標の類否について

(1) 本願商標について

ア 証拠(甲3)によれば,本願商標は,別紙1のとおり,筆書体風に書された円内に,左上から右下にかけて,大きく「京や」の文字を書し,その文字の下に「きょうや」の平仮名文字を配し,また「京や」の文字中の「京」の右, 側に家紋風の図形を配してなるものであり,指定役務を第43類「飲食物の提供」とするものであることが認められる。


イ そして,審決が指摘するとおり,「きょうや」の平仮名文字は,「京や」の読み方を特定したものと解され,同商標からは,「きょうや」との称呼が生じ,他の称呼は生じないものと解される。


 これに対し,原告は,同商標からは「マルにキョウヤ」,「キョウ」,「マルキョウ」などの称呼も生じ得る旨主張するが,これらは抽象的な可能性を指摘するものにすぎず,実際にそのような称呼が生じている旨の証拠もなく,上記主張は採用できない。


ウ 証拠(乙2ないし4)からすれば,「京や」,「きょうや」という言葉は,いずれも,広辞苑第6版,大辞泉増補・新装版,大辞林第3版といった辞書に掲載されていないことが認められる。

 したがって,本願商標からは,特段の観念は生じないとみるのが自然である。


 もっとも,証拠(甲7)からすれば,「京」という漢字には「皇居のある土地。みやこ。帝都。」といった意味があることが認められる。


 したがって,本願商標からは,「京」の文字から,「皇居のある土地。みやこ。帝都。」といった観念が生じる可能性があるともいえる。


(2) 引用商標について

ア 証拠(甲1)によれば,引用商標は,「饗家」の漢字と「きょうや」の平仮名文字とを上下二段に書してなる商標であり,指定役務を第43類「飲食物の提供,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取り次ぎ」とするものであることが認められる。


イ そして,審決が指摘するとおり,「きょうや」の平仮名文字は,「饗家」の読み方を特定したものと認識され,同商標からは,「きょうや」との称呼が生じ,他の称呼は生じないものと解される。


ウ 証拠(乙2ないし4)からすれば「饗家「きょうや」という, 」, 言葉は,いずれも,広辞苑第6版,大辞泉増補・新装版,大辞林第3版といった辞書に掲載されていないことが認められる。


 したがって,引用商標からは,特段の観念は生じないとみるのが自然である。


 もっとも,証拠(甲7)からすれば,「饗」という漢字には「酒食をもてなすこと。また,その酒食。」といった意味があることが認められる。


 したがって,引用商標からは,「饗」の文字から,「酒食をもてなすこと。また,その酒食。」といった観念が生じる可能性を否定できないが,「饗」の文字がやや難しいことからすれば,このような観念が生じる可能性は高いとはいえない。


(3) 本願商標と引用商標の類否について

ア 本願商標は,円の中に大きな「京や」の文字,これに比較してはるかに小さな「きょうや」の文字,及び家紋風図形が配された,図柄入りの商標であるのに対し,引用商標では,図柄はなく,上下二段になっており,上段には大きな「饗家」,下段には小さな「きょうや」の文字が配された商標であって,両商標の外観は大きく異なるものである。


 この点に関し,被告は,両商標のうち「きょうや」の平仮名文字につき,出所識別標識として重要な役割を果たす部分であり,その限りで,両商標は外観において共通する旨主張する。


 しかし,前記1のとおり,結合商標における商標の類否は,基本的には全体として検討すべきであって,一部のみを抽出して類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである。


 別紙1,2のとおり,本願商標において「京や」の漢字部分は最も大きな構成部分であって,同部分は本願商標の要部の一部であり,同様に,引用商標において「饗家」の漢字部分は最も大きな構成部分であり,同部分は引用商標の要部の一部であって,これらの部分は,いずれも取引者や需要者に対して出所識別標識としての称呼,観念が生じないとすることができない部分である。


 そうすると,本願商標の「京や」や引用商標の「饗家」の部分を,類否判断における検討の対象から外すことはできない。


 同様に,本願商標における家紋風図形についても,本願商標の特徴的部分ともいえ,同部分を要部から外すことはできない。


イ 前記(1)イ,(2)イのとおり,本願商標と引用商標からは,いずれも「きょうや」との称呼のみが生ずるものと認められ,これらの称呼は完全に一致している。


ウ 前記(1)ウ,(2)ウのとおり,「京や」, 「饗家」,「きょうや」という言葉は,いずれも辞書に掲載されていないこと等からすれば,本願商標及び引用商標のいずれからも,特段の観念は生じないとみるのが自然である。


 もっとも,「京」という漢字には「皇居のある土地。みやこ。帝都。」といった意味があり,「饗」という漢字には「酒食をもてなすこと。また,その酒食。」といった意味があるため,本願商標からは,「京」の文字から,「皇居のある土地。みやこ。帝都。」といった観念が生じる可能性があり,また,引用商標からは,「饗」の文字から,「酒食をもてなすこと。また,その酒食。」といった観念が生じる可能性があるといえる。ただし,前述のとおり,「饗」の文字がやや難しいため,引用商標からは特定の観念が生じない可能性が高い。


エ なお,被告は,「飲食物の提供」の業界において,その店名等を告知する方法として,テレビ,ラジオ等によるコマーシャルが利用されており,音声を用いた宣伝・広告に対する人の耳からの記憶(商標の称呼)が,出所の識別に重要な役割を果たしている旨主張し,その根拠として,各種コマーシャルに関する証拠(乙6ないし16)を挙げる。


 これらのコマーシャル等の音声情報自体は,証拠として提出されていないものの,これらのテレビ,ラジオ等によるコマーシャルにおいて店名等が告知されているものがあることが推認できる上,本願商標と引用商標の共通の指定役務である「飲食物の提供」の分野において,称呼が極めて重要であることは自明であるから,本願商標と引用商標の類否を判断する上で,外観及び観念の果たす役割を軽視するものではないが,称呼の果たす役割が非常に大きいことは否定できない。


オ 以上のとおり,本願商標と引用商標の外観は大きく異なり,両商標からは特段の観念が生じないか,又は互いに異なった観念が生じ得るものであるが,他方で,両商標からはいずれも「きょうや」との称呼のみが生じるものであって,両商標から生じる称呼は完全に一致している。


 また,引用商標の指定役務は,本願の指定役務と同一又は類似する役務を含むものである。


 以上の事情を総合的に考慮すると,たとえ外観が大きく異なるとしても,称呼が完全に一致することからすれば,本願商標と引用商標は類似するというべきであり,これを「飲食物の提供」に用いた場合に誤認混同が生じるおそれは否定できず,本願商標につき商標法4条1項11号を適用した審決に誤りはないから,原告の請求は棄却を免れない。

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。