●平成22(行ケ)10094 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「AERIE」

 本日は、『平成22(行ケ)10094 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「AERIE」平成22年08月19日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100827104816.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容され、拒絶審決が取り消された事案です。


 本件では、商標の類否の判断手法


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『1 商標の類否の判断手法について

 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。


 また,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,上記3点のうち1点において類似するものでも,他の2点において著しく相違するなどして,取引の実情等によって,商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標とすべきではない(最高裁昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁参照)。


2 本願商標について

(1) 本願商標は,「AERIE」の欧文字よりなる商標であり,指定商品を第3類「ひげそり用クリーム,ひげそり用ローション,非薬用リップクリーム,リップグロス,口紅,バスオイル,ボディパウダー,バスソルト,パック用化粧料,ボディクリーム,バブルバス,スキンクリーム,身体防臭用化粧品,マニキュア,メーキャップ化粧品,アイメイク用化粧品,マッサージオイル,おしろい,スキンローション,皮膚用せっけん,日焼け止め用化粧品,香水類,コロン,香料類」とするものである。


 そして,証拠(甲8の4,8の5,乙1)によれば,「aerie」には「(崖や山頂にあるワシ,タカなど猛鳥の)巣,(一般に大形の鳥の)高所にある巣」との意味があることが認められるが,他方において,同用語が,我が国において取引上よく用いられており,親しまれている,又はその意味がよく知られていることを認めるに足りる証拠はない。


 したがって,我が国において,本願商標「AERIE」から,特段の観念が生じるものとは認められない。


 このほか,証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,アメリカ合衆国の会社であって,「ワシやタカなどの猛鳥の巣」との意味がある「aerie」につき,原告のグループ企業であるアメリカンイーグル社の社名である「EAGLE(ワシ)」としゃれで掛けて用いていることが認められる。


(2) 本願商標は,「AERIE」との5文字の欧文字からなるところ,小学館ランダムハウス英和大辞典第2版(乙1)によれば,その英語での発音は「ɛə ri」又は「iə ri」とされる(もっとも,公刊されたいくつかの英和辞典によれば,この英単語にはそのほかに数種類の発音があり,英語を母国語とする者の間でも,これといった定まった発音はないようである。)。そうだとすれば,この英単語を日本語で発音した場合には,「アエリー」ではなく「エアリー」又は「イアリー」と発音するのが,英語の発音に近いということになる。


 しかしながら,「aerie」は,いわゆる難語というべきであって,我が国において広く親しまれているとはいえない。そうすると,我が国において,常に「aerie」が「エアリー」と英語の発音に近く読まれるとは限らず,この英単語に接した者は何と発音してよいか分からず,ローマ字読みで「アエリー」又は「アエリ」と読まれることもあるものと解される。


 これに対し,被告は,「エアロビクス」と「Aerobics」,「エアゾール」と「Aerosol」とが,それぞれ併記されて使用されている例があるとして,乙2の1ないし2の4を挙げるところ,これらの証拠からすれば,「Aerobics」と「エアロビクス」,「Aerosol」と「エアゾール」が併記されて使用されている事例が散見されるといえるが,被告の指摘する例は空気を意味する「aero」の場合に限られており,我が国において,「Aer」が通常「エア」と読まれるとか,「Aerie」を「エアリー」と読むのが原則であるなどとはいえない。


 このほか,被告は,「aerie」が「エアリー」と読まれている事例があるとして,乙3ないし乙6の3を挙げるところ,これらの証拠からは,「aerie」が「エアリー」と読まれたり,両者が併記されている事例があることが認められる。


 しかし,他方で,証拠(甲9)からすれば,「aerie」を「アエリー」として読んだり,併記したりしている事例も多数ある。


 以上からすれば,「aerie」については,英語の発音に近く「エアリー」や「エアリ」と読まれる場合と,ローマ字読みで「アエリー」や「アエリ」と読まれる場合のいずれもあり得るというべきである。


3 引用商標1及び2について

 証拠(甲1,2)によれば,引用商標1及び2は,いずれも「エアリー」との商標であり,引用商標1は指定商品を第3類「化粧品」,引用商標2は指定商品を第3類「せっけん類,歯磨き,香料類」,第30類「食品香料(精油のものを除く。)」とするものであることが認められる。


 そして,引用商標1及び2からは,文字どおり「エアリー」の称呼が生じるものといえる。


 また,「エアリー」からは,特段の観念は生じないものと認められる。これに対し,原告は,「エアリー」からは,需要者,取引者において「空気のように軽やかな」程度の意味合いが生じると主張し,証拠(甲10の1ないし甲10の3)を挙げる。


 確かに,証拠(甲11の4,11の5)によれば,「airy」という語には,英語で「風のよく当たる,(広くて)風通しのよい,空気のような,無形の,(物が)軽やかな」等の意味があることが認められる。


 しかし,甲10の1ないし10の3上も,「エアリー」という語は,「くしゅっとやわらか,ふんわり」,「空気感のある軽やかさ」,「軽やかな」等,様々な意味に用いられたり,単に「エアリーな」,「エアリー感のある」と説明なく用いられている。


 そして,証拠(乙7ないし10)によれば,「エアリー」という語は,コンサイスカタカナ語辞典第3版(2005年10月20日第2刷発行),日経新聞を読むためのカタカナ語辞典〈改訂版〉(2005年5月15日第1刷発行),大きな字のカタカナ新語辞典第2版(2009年1月19日第2版発行),現代用語の基礎知識(2010年1月1日発行)のいずれにも載っていないことが認められる。そうであれば,いかに化粧品や被服,髪型などのファッションの分野で「エアリー」の語の使用例があるとしても,いまだ,我が国において,一般に「エアリー」という語が「空気のように軽やかな」という単一の意味で広く知られているとはいえない。


 そうすると,やはり,我が国において,引用商標1及び2の「エアリー」からは,特段の観念は生じないというべきである。


4 本願商標と引用商標1及び2の類否について

(1) 以上を前提として検討するに,まず,本願商標は欧文字5文字からなるのに対し,引用商標1及び2がいずれもカタカナ4文字からなるものであって,外観は大きく異なるものである。


 この点に関し,被告は,本願商標も引用商標1及び2も,外観上相違はしているものの,いずれも格別に印象を与えるような特徴のある態様ではないから,両者の外観に著しい差異があるとはいえない旨主張する。


 しかし,上記のとおり,本願商標と引用商標1及び2は,外観上明らかに相違しているものであって,そうであるにもかかわらず,被告の上記主張を採用すると,一般論として,英語による記述型の商標については,外観の相違は多くの場合問題とならなくなってしまうものであり,このような主張を採用することはできない。


(2) そして,称呼については,本願商標は,英語の発音に近く「エアリー」や「エアリ」と読まれる場合と,ローマ字読みで「アエリー」や「アエリ」と読まれる場合のいずれもあり得ると解されるのに対し,引用商標1及び2は「エアリー」であって,両商標の称呼は,同じ場合と異なる場合があり得る。


(3) 他方で,観念については,本願商標と引用商標1及び2のいずれからも,特定の観念が生じるとはいえず,比較できない。


(4) なお,被告は,本願商標と引用商標の指定商品に係る商品の取引者,需要者による取引の実情を考慮すれば,本願商標と引用商標の類否を判断するに当たっては外観及び観念に比して称呼を重視すべきことが明らかである旨主張する。


 しかし,本願商標及び引用商標に関して,被告が主張するように,電話を用いた口頭による取引を行う場合が少なくないことを認めるに足りる証拠はない。


 また,そもそも,テレビ・ラジオ等によるコマーシャルが重要であるのは,業界を問わないことであって,本願商標や引用商標に関して,専ら称呼による商品の宣伝広告が行われており,これらの宣伝広告を記憶してその称呼を頼りに取引に当たるものであることを認めるに足りる証拠もない。


 逆に,原告は,本願商標に関する商品の需要者が,商標を耳よりも目で捉える機会が多いため,商標の類否判断においては外観をより重視すべき旨主張する。確かに,本件において,両当事者が提出した証拠(甲9,乙6の1ないし6の3)からすれば,本願商標に係る商品は,インターネット上取引されることが多いものと認められるので,本願商標において,称呼や観念と比較して外観が果たす役割が大きいものといえる。


(5)以上の諸事情を総合的に考慮すると,本願商標と引用商標の外観は大きく異なっている上,称呼上も,同じ場合だけでなく異なる場合もあるから,たとえ両商標が,観念につき比較できないとしても,両商標には誤認混同のおそれがなく,類似していないというべきである。


 したがって,本願商標につき商標法4条1項11号を適用することはできず,審決は誤りであるから,これを取り消すこととする。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。