●平成22(行ケ)10101審決取消請求事件 商標権「きっと,サクラサク

 本日は、『平成22(行ケ)10101 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「きっと,サクラサクよ。」平成22年08月19日 知的財産高等裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100826160934.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標の類否の判断手法、および本件商標及び引用商標の類否についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『1 商標の類否の判断手法について

 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。


 また,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,上記3点のうち1点において類似するものでも,他の2点において著しく相違するなどして,取引の実情等によって,商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標とすべきではない(最高裁昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁同旨)。


 さらに,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されない最高裁昭和38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成20年9月8日判決・判例時報2021号92頁,判例タイムズ1280号114頁参照)。


2 本件商標及び引用商標の類否について

(1) 本件商標について

 本件商標は,別紙1のとおり,バラ色系の色彩が施され,右肩上がりに傾いたサクラ様の5弁の花びらの図形中に「きっと,」と「サクラサクよ。」の句読点を含む文字を二段に配置した構成からなるものである。


 証拠(甲2,4)からすれば,副詞「きっと」には「確実に行われることを予測・期待するさま。たしかに。必ず。相違なく。」といった意味があり,助詞「よ」には「自分の判断を示し,相手に同意を求めたり念を押したりする意を表す。」といった意味があることが認められ,以上からすれば,本件商標からは,全体として「きっと桜の花が咲くよ。」とか「きっと試験に合格するよ。」といった意味が生じるものといえる。


 そして,本件商標からは,少なくとも「キットサクラサクヨ」との称呼が生じるものと解される。


 この点につき,原告は,「キットサクラサクヨ」は9文字で冗長であり,本件商標からは「サクラサク」の称呼が生じる旨主張する。


 確かに,「サクラサク」という語が,合格電報の定型文であることからすれば,本件商標から「サクラサク」という称呼が生じ得る可能性は否定できないが,「キットサクラサクヨ」は,「サクラサク」に比べると長いものの,決して冗長というほどではなく,短い一文として十分称呼可能な長さであり,本件商標から「サクラサク」という称呼のみが生じるとまではいえない。


 また,原告は,本件商標において「サクラサク」部分のみが片仮名であるとか,上下二段になっている旨主張するが,本件商標において,特に「サクラサク」部分のみが文字のサイズが大きかったり,色が違うというような事情は存在せず,「サクラサク」部分だけが目立つものではなく,以上からすれば,「サクラサク」部分のみが本件商標の要部であるとはいえない。


 また,原告は,本件商標の「きっと,サクラサクよ。」は熟語ではなく文章ないしスローガンであるとも主張するが,この点もまた,上記判断に影響を与えるものではない。


 このほか,原告は,本件商標を付したキットカット商品の宣伝広告として行われた「サクラサク受験生応援バス」や「サクラサクシール」,受験生応援ソング「サクラサク」において,いずれも「きっと,サクラサクよ。」ではなく「サクラサク」部分だけが用いられている(甲31ないし37参照)として,本件商標の要部が「サクラサク」である旨主張する。


 しかし,このような宣伝広告の態様により,本件商標が「サクラサク」と称呼されるとしても,それによって直ちに同商標の要部が「サクラサク」部分のみとなるとまではいえない。


(2) 引用商標について

 証拠(甲1の1,1の2)からすれば,引用商標は,「サクラサク」の片仮名文字からなり,指定商品を第30類「菓子,パン」とするものであることが認められる。


 そして,引用商標からは,「桜の花が咲く」又は「試験に合格した」といった意味合いが生じるものといえる。


 また,引用商標からは,当然に「サクラサク」の称呼が生じるといえる。

(3) 本件商標と引用商標の対比

ア 外観上,本件商標は,バラ色系の色彩が施され,右肩上がりに傾いたサクラ様の5弁の花びらの図形中に「きっと,」と「サクラサクよ。」の句読点を含む文字を二段に配置した構成からなる,図柄を含む華やかな商標であるのに対し,引用商標は,単に片仮名の「サクラサク」だけからなる商標であり,両商標は,その外観が大きく異なる。


イ 他方で,本件商標からは「キットサクラサクヨ」又は「サクラサク」の称呼が生じ,引用商標からは「サクラサク」の称呼が生じるものであって,その称呼は同一になる場合もあり,少なくともかなり類似するものといえる。


ウ また,本件商標からは,「きっと桜の花が咲くよ。」又は「きっと試験に合格するよ。」といった観念が生じ,引用商標からは「桜の花が咲く」又は「試験に合格した」との観念が生じるものといえる。


 このように,両商標から生じる観念は,一定程度類似するが,引用商標からは,淡々と「桜の花が咲く」又は「試験に合格した」という事実についての観念が生じるのに対し,本件商標からは,受験生等に対するメッセージ的な観念が生じるものといえ,生じる観念はある程度異なるものといえる。


エ このほか,証拠(甲25,27)及び弁論の全趣旨から,本件商標は,受験シーズンに専らキットカット商品に用いられ,このことはよく知られており,本件商標の付されたキットカット商品はかなりの売上げを示しており,他方で,引用商標は,受験シーズンに関係なく,袋菓子や焼菓子などに用いられていることが認められる。


 このように,本件商標が用いられたキットカット商品が,受験生応援製品として持つ意味合いは大きいものと認められ,このような本件商標の用いられたキットカット商品と,そのような意味合いの薄い引用商標が用いられた袋菓子等との間で誤認混同が生じるおそれは非常に低いものと認められる。


 この点につき,原告は,誤認混同のおそれがないとしても,ネスレコンフェクショナリー株式会社による本件商標の使用によって,引用商標が希釈化されるおそれがある旨主張する。


 しかし,本訴において,引用商標の著名性等は全く立証されておらず,そのような引用商標につき,本件商標の使用による希釈化のおそれなどを考慮することは相当ではない。


 このほか,原告は,ネスレコンフェクショナリー株式会社による回答書(甲38)上の記載をもって,同社が,本件商標の使用は「商標的使用」ではなく,単なる励ましメッセージにすぎない旨主張していた点を指摘するが,この点もまた,上記判断に影響を与えるものではない。


オ 以上を前提とした場合,確かに,本件商標及び引用商標から生じる称呼はかなり類似しており,観念においても,一定程度類似することは否定し得ないが,他方で,もともと「サクラサク」は1つのまとまった表現として常用されており造語性が低く識別力が限られている上,両商標の外観は大きく異なり,取引の実態をも考慮すると,両商標につき混同のおそれはないといえる。


 以上のように,本件での諸事情を総合的に考慮した結果,本件商標と引用商標とは,類似しないというべきである。

3 したがって,本件商標につき商標法4条1項11号を適用することはできず,審決に誤りはないから,原告の請求は棄却を免れない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。