●平成21(行ケ)10432 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10432 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「バッチ配送システムにおけるバッチの最大化方法」平成22年08月09日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100810132933.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本願発明の進歩性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 荒井章光)は、


『(5) 本願発明の進歩性について

ア 本願発明の容易想到性

 引用発明2において,タンクローリー内に充填できる石油製品の量は,石油製品の体積及び荷重により制限されるものであるところ,周知例2において開示されているとおり,車両や貨車等の輸送手段により資材を積み合わせて積載して運搬する場合,輸送器の寸法及び積載可能重量などの複数の制限条件をいずれも満たす必要があること,すなわち,複数のパラメータのうち,いずれかのパラメータが制限条件(目標)に達するまで積載可能であることが,経験則として知られていたことからすると,引用発明2に開示された出荷システムにおいて,少なくとも石油製品の体積又は荷重(重量)のいずれかが,それぞれの予定量(目標)に達するまで,タンクローリー内に石油製品を充填することができること,換言すれば,いずれかが予定量(目標)に達した場合には,それ以上充填することができないことは,当業者であれば,自明のことというべきである。


 そして,石油製品の体積及び荷重(重量)は,いずれも石油製品の流量に関する情報,すなわち流量情報であって,測定可能な量であるから,「1次測定値」及び「2次測定値」ということができ,また,タンクローリーの積載可能量や積載可能重量,法令による制限などにより定まる体積の制限値及び荷重(重量)の予定量は,石油製品を充填するに当たっての「1次目標」及び「2次目標」ということができるから,先に指摘した複数の制限条件をいずれも満たしているかを判断しながら資材を積み合わせる(あるいは特定の資材を積み込む)という経験則をシステムとして実現すれば,1次測定値に基づいて1次目標を監視するとともに,2次測定値に基づいて2次目標を監視し,いずれかの目標に達したとき,配送を終了する構成となることはむしろ当然である。


 また,2つのパラメータのいずれもが,それぞれの制限条件を満たしているか否かを判定する処理は,周知技術2が開示するとおり,計算機を用いた処理における通常の手段であり,上記経験則を計算機を用いたシステムとして実現すれば,本願発明に特定された構成となることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。


イ したがって,本願発明は,引用発明2及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとした本件審決の判断に誤りはない。


ウ この点について,原告は,引用例2において開示されている発明は,体積計の使用を排除し,質量計を用いることで目的を達しようとする発明であり,体積計の使用は,積極的に排除されているから,体積計を使用する周知技術と組み合せることの阻害事由があるなどと主張する。


 確かに,引用例2には,「従来の出荷システム」が,体積計を使用していたため,充填精度が悪く,過積や不積が生じやすいという課題があったことから,かかる課題を解決するため,従来の体積計に代えて質量計を採用したことが記載されている。


 しかしながら,本件審決は,「質量計」を採用した発明を引用発明2として認定したものではなく,体積計を用いた「従来の出荷システム」を引用発明2と認定し,容易想到性の判断の基礎としているのであって,原告の主張は,その前提自体が誤りである。


 また,原告は,引用例2には,ローリーへの石油製品の充填作業の終了基準として,2つの基準を用いるとの技術思想の開示や,これを必要とする課題の提示ないし示唆もないから,引用発明2に周知の計量計技術及び周知の配送管理技術を組み合わせる動機付けはないなどと主張する。


 しかしながら,引用発明2は,タンクローリーに充填された石油製品の体積(充填流量)が予定量に達したとき,タンクローリーへの石油製品の供給を停止するとともに,タンクローリーの空重量と充填後の実重量から,タンクローリーに充填された石油製品の重量を求め,タンクローリーに充填された石油製品の重量を計量・確認する発明であるから,タンクローリーに石油製品を充填する場合,石油製品の体積(充填流量)及び重量の制限条件があることは,当業者において,当然認識されていたものということができる。


 さらに,配送される資材の量を最大化し,かつ資材の積載及び輸送のコストを最小化することは,資材配送システムにおける自明な課題であり,また,車両や貨車等の輸送手段に資材を積み合わせる場合等,複数の制限条件がある場合には,すべての制限条件を満たしているかを判断しながら資材を積み合わせることは,一般に行われている経験則であることは先に指摘したとおりであるから,引用発明2において,石油製品の体積(充填流量)及び重量の2つの制限条件に基づいて充填の終了を判断することは,当業者であれば,当然に考えることであって,動機付けもあったということができる。原告の主張は,採用できない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。