●平成21(行ケ)10164 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、今年初めに出された知財高裁第3部から出された『平成21(行ケ)10164 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「携帯型電子計算機のキャリングケース」平成22年01月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100128171116.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が取り消された事案です。


 本件では、本件特許発明と甲3発明の相違点に関する容易想到性判断の誤り(取消事由2)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 上田洋幸)は、


『2 本件特許発明と甲3発明の相違点に関する容易想到性判断の誤り(取消事由2)について

 当裁判所は,審決が,本件特許発明と甲3発明の相違点に関し,「当業者といえども,甲3発明に甲2発明の周回状枠材を採用することは容易に想到し得ないから,甲3発明に甲2発明を適用して容易に本件特許発明をすることはできない。」,とした点に誤りはないと判断する。その理由は 以下のとおりである。

(1) 甲3発明の目的,作用効果について


 ・・・省略・・・


(2) 容易想到性の有無について

ア 前記(1)イのとおり,甲3発明の目的,作用効果は,収容すべき物品の形状に制約されることなく種々の形状をもった物品を容易に収容することができること,及び不要時には小さくコンパクトにまとめることができることの両者である。


 そうすると,仮に,甲2発明の周回状枠材(保持すべき携帯型電子計算機を枠内空間に納める大きさの周回状をなす線材よりなる枠材)を甲3発明に適用するならば,カバン本体の大きさ,形状が,周回状枠材によって規制されることとなるから,上記の目的,作用効果を達成することができなくなる。


 したがって,甲3発明に甲2発明の周回状枠材を採用することには,阻害要因があり,これを当業者が容易に想到することはできないというべきである。


イ(ア) 原告は,甲3発明には,用途に応じて4つのパターンがあるが,これを,パターン?(ファスナー4を係着せしめて袋形状にして物品を収容する用途)のみに着目した発明であると理解するならば,周回状枠材を甲3発明に適用することによって損なう機能は,パターン?ないし?のみにとどまるから,パターン?の作用は維持されているので,阻害要因にはならないと主張する。


 しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。


 すなわち,前記(1)イに認定したとおり,甲3発明は,収容すべき物品の形状に制約されることなく種々の形状の物品を容易に収容できることとともに,不要時に小さくコンパクトにまとめられることをも目的,作用効果としている。それにもかかわらず,原告の主張は,周回状枠材の適用によって,不要時に小さくコンパクトにまとめられるとの目的,作用効果を奏しなくなるとしても,そのことは阻害要因とならないとするものであるから,その主張自体失当であり,採用できない。


(イ) また,原告は,?甲2発明と甲3発明は,本件特許発明とともに,重ね合わせた状態でパソコンを間に挟み込んで保持するキャリングケースである点で共通し,技術分野の関連性,作用・機能の共通性があること,?周回状枠材は,周知技術であること(甲2の1,甲6,甲7),?本件特許の出願前に,可撓性を有するが故に折りたたむことができる周回状の枠体が存在すること(甲7)等を挙げて,容易想到性を肯定すべきであると主張する。


 しかし,原告の上記主張も,以下の理由により,採用することができない。すなわち,?甲2発明と甲3発明が,パソコンを間に挟み込んで保持するキャリングケースである点で共通すること,?周回状枠材が周知技術であること,?可撓性を有するが故に折りたたむことができる周回状の枠体が本件特許発明の出願前に存在することを斟酌したとしても,甲3発明を基礎にして,これに周回状枠材を採用するならば,甲3発明の前記(1)イの特有の目的,作用効果を失うことになるから,甲3発明に甲2発明を適用することが,当業者にとって,容易であったということはできない。


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。