●平成21(行ケ)10440 審決取消請求事件 特許権「合成樹脂製窓材」

 本日は、『平成21(行ケ)10440 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「合成樹脂製窓材」平成22年08月09日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100809154629.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の取消を求めた審決取消訴訟事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(本件明細書の記載についての判断の誤り)および取消事由2(相違点2及び3についての判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 井上泰人)は、


『1 取消事由1(本件明細書の記載についての判断の誤り)について


 ・・・省略・・・


(2) 本件明細書の記載について

ア 原告は,あらかじめ設定された溶着代と窓材の厚みとの比の採り方いかんによっては,バリ取りの際に内層が露出しない条件として内層と外層との比率はどのようにもすることができるから,本件発明のように単に内層及び外層の樹脂層の厚みの比を規定するだけではバリ取りの際に内層が見えるのを回避することができず,本件発明が技術常識的に見ても不可解であって,上記以外の条件について一切規定していないから,本件発明が本件明細書にいう効果を得ることはできず,本件明細書には記載不備がある旨を主張する。


イ しかしながら,引用発明又は本件発明のように内外の2層からなる2つの樹脂製窓枠を加熱の上で溶着した場合,溶着代を大きく設定すれば,溶着による接合の強度が向上する一方,内層がバリとして流出しやすくなるが,溶着代を小さく設定すれば,溶着による接合の強度が低下する一方,内層がバリとして露出しにくくなることは,本件発明の出願当時の当業者の技術常識といえる。


 また,併せて,上記の場合に,外層を薄く構成すれば内層がバリとして露出しやすくなるが,外層を厚く構成すれば内層がバリとして露出しにくくなることも,本件発明の出願当時の当業者の技術常識といえる(以上につき,甲17,乙1,3,4及び5。特に乙5の参考図1〜6)。


 これらの当業者の技術常識を前提とすると,相違点3に係る本件発明の条件が示すように全厚さに対する外層部分の厚さの比について一定の数値が与えられれば,バリ取りによって内層が露出しない範囲で溶着代を設定することは,当業者にとって格別困難なこととはいえず,実施可能であるし,相違点3に係る本件発明の条件は,外層部分の厚さの比について下限を設定しているから,常に必ず一定の溶着代の存在を前提としており,溶着代が小さいからといって接合の強度が直ちに失われるものではないことは,明らかである。


ウ したがって,溶着に関する前記技術常識によれば,本件発明は,当業者が溶着代の大小を適宜配慮することで実施可能であり,技術的にも理解可能であって,本件明細書にいう効果を得ることができる。そして,このような本件発明に関する本件特許請求の範囲の記載は,本件発明について明確であり(特許法36条6項2号),本件明細書の発明の詳細な説明も,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている(平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項)から,本件明細書に不備は認められず,これと同旨の本件審決に誤りはない。


2 取消事由2(相違点2及び3についての判断の誤り)について

 本件発明の解決しようとする課題に対する技術思想は,前記1(1)ア記載のとおりであるところ,引用例によれば,引用発明は,本件発明が前提とする,廃材のリサイクル率が下がり,また,溶着時に生じたバリを除去する際に内層が露出するということを回避する目的で,構成層甲,乙及び丙の少なくとも1つの層について,全厚さに対する外層部分の厚さの比を特定の数値範囲に設定するという課題又は技術思想について顧慮するところはないし,その他,引用例にはこの課題の存在について開示又は示唆するところは見当たらない。


 また,周知例1ないし3には,プラスチック等の廃棄物由来の材料を内部に利用した型材等について記載があるものの,周知例1ないし11のいずれにも,本件発明の上記課題又は技術思想について開示又は示唆するところがない。


 したがって,引用発明の異形心材と外被とからなる構成層を,相違点3に係る構成とすることが容易想到であるということはできない。よって,その余の点について検討するまでもなく,本件発明について進歩性を認めた本件審決の判断に誤りはない。


3 結論

 以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。