●平成21(行ケ)10246 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「容器」

本日は、『平成21(行ケ) 10246 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「容器」平成22年07月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100727142502.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(実施可能要件についての判断の誤り)および取消事由2(サポート要件の判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『1 取消事由1(実施可能要件についての判断の誤り)について

 ・・・省略・・・

(2) 本件特許発明は,いずれも平成19年10月22日付け訂正審判請求が認められたことにより,ハッチや貫通孔といった構成が加えられ,それによって,進歩性が認められたものである。上記各構成が加えられる前の請求項3に係る発明は,原告が本訴で問題としている,流路の有効内径の数値限定部分等を発明の本質的事項の一部としていたといえるが,上記訂正により,同部分は,それによって進歩性が認められる事項ではなく,単に望ましい構成を開示しているにすぎないといえる。


(3) 以上を前提として,本件特許発明3につき実施可能要件違反の有無を検討するに,本件特許発明3の目的の1つと解される「溶融金属を容器内から導出するために必要な圧力を小さくすること」を達成するためには,溶融金属の重量,流路の粘性抵抗等の条件を設定する必要があり,そのうち粘性抵抗については,溶融金属の性状,ライニングの性質,表面粗さ等のパラメータによって決定され,溶融金属の重量やそれによる影響は,金属の種類や流路の長さ,流速等のパラメータによって決定されるものである。


 そうすると,単に「溶融金属を導出するために必要な圧力を小さくする」との目的のみを達成するためであれば,流路の有効内径以外のパラメータも設定する必要があることは自明であり,その限りにおいて,原告の主張は誤りではない。


 しかしながら 「導出圧力の最小化」は,本件特許発明においては,付随的な目的にすぎない。この点を措くとしても,被告が主張するように,公道を介して搬送する取鍋の内径は,取鍋を搬送するトラックの車幅との関係で,一定の限度内に収まらざるを得ないのであり,また,そのトラックの車幅も,公道の幅員等により,自ずから相当の限度内になるものということができる。


 この点につき,原告は,公道搬送可能な取鍋の大きさは千差万別である旨主張するが,取鍋の標準的な大きさは一定の範囲で自ずから存在するものであり,逆に,単に「望ましい」事項を記載しているにすぎない部分においても,あらゆる大きさや種類のトラックに対して有効なすべてのパラメータを提供しなければならないとするのでは,特許権者や出願人に過大な要求をするものであって,相当ではない。


 また,作業に慣れた当業者(本件においては,溶融金属を取鍋等を用いて運搬する者)が出湯を行う場合であれば,その出湯時間や速度に,大きな差があるとは考えられない。


 そして,溶融アルミニウムを流路や配管を通じて排出する場合に粘性抵抗があること自体は,当業者にとって自明であり,望ましいとされる流路の有効内径が提供されれば,それを最大限に生かすべく,他の条件を設定するよう努めるのは,当然であって, ここで必要とされる試行錯誤が過度なものであるとは認められない。


 また導出圧力の最小化のみを目的とする場合の数値限定と,これが単に付随的な目的にすぎない場合の数値限定では,必然的に相違が生じ,後者の場合には,他の条件との兼ね合いにより,当該目的達成の程度が変化することは明らかである。


(4) 以上からすれば,本件特許発明3における,流路の有効内径に関する数値限定部分において,他のパラメータにつき記載がないことをもって,実施可能要件に違反するということはできず,原告の主張は理由がない。


2 取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について

 本件特許発明に係る明細書(甲12参照)の発明の詳細な説明には,段落【0046】において,流路の有効内径を65ないし85mmと特定した根拠について,一応の理論的説明とともに, 「試作」によってその数値を見い出した旨が記載されている。そして,発明の詳細な説明には 「溶融金属の圧送に必要な圧力,溶融金 ,属自体の重量,粘性抵抗の大きさ」等についての具体的な記載は全くなく,これらのパラメータの特定は,本件特許発明3において必要的な事項とはされていない。


 以上からすれば,本件での「流路の有効内径」の数値限定は,他の条件については技術常識を参酌しつつ,溶融金属の導出圧力を適宜低下させることが可能であるという程度のものとみるべきであり,本件特許発明3の特許請求の範囲において,流路の有効内径以外のパラメータの記載がないとしても,特許請求の範囲において発明の詳細な説明に記載されていない部分が生じてはいないから,特許請求の範囲において過大な記載をしていることにはならず,サポート要件には違反しないというべきである


3 以上のように,本件特許発明3につき,原告が主張するような実施可能要件違反やサポート違反はなく,審決に誤りはないから,原告の請求は理由がなく,棄却を免れない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。