●平成22(行ケ)10114審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「讃岐庵」

 本日は、『平成22(行ケ)10114 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「讃岐庵」平成22年08月04日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100806151821.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法3条1項6号および商標法4条1項16号の該当性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 荒井章光)は、


『1 本願商標の構成

 本願商標は,標準文字によって,「讃岐庵」と横書きしてなるものである。そして,その構成中の「讃岐」は,現在の香川県に当たる旧国名として周知であり(乙1〜3の各1,乙4),また,「庵」は,草葺きの小家の外,料理屋などの家の名に添える語とされており(乙1〜3の各2),両者は容易に分離してみることができるものである。


 そうすると,「讃岐庵」からは,香川県産品を販売する店舗や香川県の郷土料理を提供する料理店との観念が生ずるものということができる。


2 商標法3条1項6号該当性

(1) 商標法は,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであるところ(同法1条),商標の本質は,自己の業務に係る商品又は役務と識別するための標識として機能することにあり,この自他商品の識別標識としての機能から,出所表示機能,品質保証機能及び広告宣伝機能等が生じるものである。同法3条1項6号が,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を商標登録の要件を欠くと規定するのは,同項1号ないし5号に例示されるような,識別力のない商標は,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,自他商品の識別力を欠くために,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される。


(2) しかるところ,香川県は,いわゆる「讃岐(さぬき)うどん」の産地として全国的に有名であること(甲1〜4,18,乙3の1,乙7,乙10の2・3,乙12),また,うどんを提供する店舗において,「うどんのめん」を商品として販売することも一般に行われていること(乙10)からすると,前記(1)のとおりの観念が生ずる本願商標の「讃岐庵」を,その指定商品中の「穀物の加工品」の1つである「うどんのめん」に使用するときは,これに接する取引者・需要者は,「讃岐うどんを販売又は提供する店」又は「讃岐うどんを販売又は提供する店が販売するうどんのめん」と認識するものであり,本願商標は,一般的に使用される標章として,自他商品の識別力を欠くために,商標としての機能を果たし得ないものであるということができる。


 そして,「讃岐(さぬき)庵」が,うどんを主とする飲食物の提供を行う店舗の店名や屋号として多数存在すること(甲15,17,18,乙8の2・3・6〜12,乙9)からすると,必ずしも,これらの各店舗間の店名や屋号間では自他商品役務の識別性があるとは考え難く,それ故,うどんを主とする飲食物の提供を行う店舗の店名や屋号として使用する際に,「讃岐庵つる鶴」(甲2,乙7),「讃岐庵たれ半」(乙8の1),「純手打ちうどんさぬき庵」(乙8の4),「饂飩さぬき庵神戸店」(乙8の5)とのように,「讃岐(さぬき)庵」の前後に語句を付加して店舗の識別性を出そうとしている例も見受けられるものであって,「讃岐庵」それ自体に自他商品識別力が備わっていると認めることはできない。

 また,上記のとおり,本願商標の「讃岐庵」を,その指定商品中の「穀物の加工品」の1つである「うどんのめん」に使用するときは,これに接する取引者・需要者は,「讃岐うどんを販売又は提供する店」又は「讃岐うどんを販売又は提供する店が販売するうどんのめん」と認識されるものであることに照らすと,そのような識別力のない商標について特定人による独占使用を認めることは,公益上適当としないものであるともいわざるを得ない。

(3) したがって,本願商標は,何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないものと解されるのであって,商標法3条1項6号に該当する。


3 商標法4条1項16号該当性

 さらに,前記1のとおりの香川県産品を販売する店舗や香川県の郷土料理を提供する料理店との観念が生ずる本願商標を,香川県とは無関係の「穀物の加工品」以外の指定商品に使用するときは,商品の品質の誤認を生じさせるおそれもあるといわざるを得ない


 したがって,本願商標は,商標法4条1項16号にも該当する。

 なお,原告は,本願商標は,指定商品との関連で,「讃岐うどん」を関係的に連想させるものであり,スーパーマーケット内等で商品「讃岐うどん風味のうどん」を探している需要者をいち早く目的の商品に導くことができ,ぜい弱ながらも識別力が保持されていると主張するものであるところ,前記1のとおり,「讃岐庵」からは,香川県産品を販売する店舗や香川県の郷土料理を提供する料理店との観念が生ずるものである上に,そもそも,本願商標は,その指定商品中の「穀物の加工品」として「うどんのめん」を含むものであるが,「うどんのめん」それ自体は,「讃岐うどん」はもとより,原告主張の「讃岐うどん風味のうどん」に限られるものではないから,本願商標登録を認めることは,これら以外の「うどんのめん」に本願商標を付すことによって「讃岐うどん」を関係的に連想させ,「讃岐うどん風味のうどん」を探している需要者にこれら以外の「うどんのめん」を提供することができることになり,商標法4条1項16号における商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるものであって,この点に関する原告の主張は到底採用することができない。


4 結論

 以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。