●平成21(行ケ)10244等 特許権 行政訴訟 

 本日は、『平成21(行ケ)10244等 特許権 行政訴訟「容器,溶融金属供給方法及び溶融金属供給システム」平成22年07月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100727140620.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(数値限定部分に関する判断の誤り)および取消事由2(特許請求の範囲と実施例の矛盾についての判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、

1 取消事由1(数値限定部分に関する判断の誤り)について

(1) 実施可能要件について

ア本件特許発明に係る明細書(平成20年1月11日付け訂正審判請求が認められた後のもの。甲28の2)には,以下の記載がある。


 ・・・省略・・・


イ本件特許発明は,いずれも平成20年1月11日付け訂正審判請求が認められたことにより,ハッチや貫通孔といった構成が加えられ,それによって,進歩性が認められたものである。上記各構成が加えられる前の本件特許発明は,原告が本訴で問題としている,流路の有効内径の数値限定部分等を発明の本質的事項の一部としていたといえるが,上記訂正により,同部分は,それによって進歩性が認められる事項ではなく,単に望ましい構成を開示しているにすぎないといえる。


ウ以上を前提として,本件特許発明につき実施可能要件違反の有無を検討するに,本件特許発明の目的の1つと解される「溶融金属を容器内から導出するために必要な圧力を小さくすること」を達成するためには,溶融金属の重量,流路の粘性抵抗等の条件を設定する必要があり,そのうち粘性抵抗については,溶融金属の性状,ライニングの性質,表面粗さ等のパラメータによって決定され,溶融金属の重量やそれによる影響は,金属の種類や流路の長さ,流速等のパラメータによって決定されるものである。


 そうすると,単に「溶融金属を導出するために必要な圧力を小さくする」との目的のみを達成するためであれば,流路の有効内径以外のパラメータも設定する必要があることは自明であり,その限りにおいて,原告の主張は誤りではない。


 しかしながら,「導出圧力の最小化」は,本件特許発明においては付随的な目的にすぎない。この点を措くとしても,被告が主張するように,公道を介して搬送する取鍋の内径は,取鍋を搬送するトラックの車幅との関係で,一定の限度内に収まらざるを得ないのであり,また,そのトラックの車幅も,公道の幅員等により,自ずから相当の限度内になるものということができる。この点につき,原告は,公道搬送可能な取鍋の大きさは千差万別である旨主張するが,取鍋の標準的な大きさは一定の範囲で自ずから存在するものであり,逆に,単に「望ましい」事項を記載しているにすぎない部分においても,あらゆる大きさや種類のトラックに対して有効なすべてのパラメータを提供しなければならないとするのでは,特許権者や出願人に過大な要求をするものであって,相当ではない。


 また,作業に慣れた当業者(本件においては,溶融金属を取鍋等を用いて運搬する者)が出湯を行う場合であれば,その出湯時間や速度に,大きな差があるとは考えられない。


 そして,溶融アルミニウムを流路や配管を通じて排出する場合に粘性抵抗があること自体は,当業者にとって自明であり,望ましいとされる流路の有効内径が提供されれば,それを最大限に生かすべく,他の条件を設定するよう努めるのは当然であって,ここで必要とされる試行錯誤が過度なものであるとは認められない。


 また,導出圧力の最小化のみを目的とする場合の数値限定と,これが単に付随的な目的にすぎない場合の数値限定では,必然的に相違が生じ,後者の場合には,他の条件との兼ね合いにより,当該目的達成の程度が変化することは明らかである。


エ以上からすれば,本件特許発明における,流路の有効内径に関する数値限定部分において,他のパラメータにつき記載がないことをもって,実施可能要件に違反するということはできず,原告の主張は理由がない。


(2) 明確性要件について

 原告は,本件特許の明細書において,「溶融金属を導入する圧力を小さくする」との効果を達成する上で必要な条件がすべて記載されていないから,本件特許発明は不明確であると主張するが,前述の訂正によって「溶融金属を導入する圧力を小さくする」ことは,既に本件特許発明の主たる目的ではなくなっている上,特許請求の範囲や発明の詳細な説明に記載すべき事項については,特許出願人において適宜選択すべきものであって,本件特許発明についても,その効果が実際に存在するかどうかはともかくとして,特許請求の範囲に記載された流路の有効内径の記載自体は明確であって,他のパラメータの記載がないからといって直ちに,同発明が不明確になるとはいえない。


このように,原告の主張は理由がない。


2 取消事由2(特許請求の範囲と実施例の矛盾についての判断の誤り)について

 原告は,本件特許発明が,ストーク等の部品交換を行う必要のない容器を提供することを目的としながら(段落【0005】参照),他方で,配管474は「ストーク」に相当するものと解され(段落【0123】,図11参照),以上からすれば,特許を受けようとする発明が明確ではなく,特許法36条4項違反であると主張する。


 確かに,明細書の段落【0123】や図11において,「ストーク」に相当する配管474が記載されており,これは,段落【0005】の記載とは整合しないといえる。


 しかし,本件特許発明は,その特許請求の範囲の記載からすれば,いずれも流路を内在するものを指すことが一義的に明らかであって,流路を有さずストークにより溶湯を外部に供給するものは,本件特許発明の対象に含まれない。そもそも,特許出願人において,必ずしも,発明の詳細な説明に記載したものすべてにつき,特許として出願しなくてはならないものではない上,本件での特許請求の範囲の記載が,この点に関して明確であることからすれば,本件において,発明の詳細な説明の段落【0123】の記載や図11が存在することによって,実施可能要件に違反するとはいえず,原告の主張は理由がない。


3 以上のように,本件特許発明につき,原告が主張する実施可能要件や明確性要件違反はなく,審決に誤りはないから,原告の請求は理由がなく,棄却を免れない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。