●平成22(行ケ)10037審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「久遠水」

 本日は、『平成22(行ケ)10037 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「久遠水」平成22年06月02日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100603131945.pdf)について取り上げます。


 本件は、不使用取消審判の認容審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本件商標の不使用に係る「正当な理由」の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 本多知成、裁判官 荒井章光)は、


『1 本件商標の不使用に係る「正当な理由」の有無について

(1) 証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。

ア 平成19年から同22年にかけて,被告が製造する「身延久遠水」との販売名の点眼薬が一般薬として薬事法による承認を得て存在している(甲3〜5)。


イ 医薬品製造販売指針2005(甲8,9)によると,医療用医薬品については,「医薬品の販売名は当該製造販売業者が自由に命名して差し支えないのが原則であるが,医薬品としての品位を保つとともに国民の保健衛生を確保する見地から,次の点に十分留意すべきである。」「特に,医療用医薬品の販売名については,販売名の一部を省略して記載した場合に,省略された販売名と同一の販売名の医薬品があること等が誤投与を招く原因となるおそれがあるため,その取扱いが規定されている。」「販売名の一部が省略された場合に,他に該当する製剤が存在しないこと。」「既承認品目のブランド名と同一のブランド名は認められない。」とされ,また,一般用医薬品については,「医薬品の販売名は原則として当該製造販売業者が自由に命名して差し支えないが,医薬品としての品位を保つとともに国民の保健衛生を確保する見地から,次のような場合には承認されないことがある。」「既承認品目の販売名と同一の販売名は認められない。」とされている。


(2) 原告は,以上の事実を踏まえ,原告が本件商標を使用しなかったのは,本件商標と「久遠水」の文字部分が共通する「身延久遠水」を販売名とした薬事法の既承認品目が存在し,それ故,本件商標の使用を予定する医薬品の製造販売の承認審査を受ければ,市場の混乱が生じる可能性が高いという理由でその製造販売が承認されないであろうと予見されたからであって,本件商標を使用していないことについて商標法50条2項ただし書の「正当な理由」があると主張する。


 しかしながら,上記「正当の理由」とは,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者(以下「商標権者等」という。)の責に帰すことができない事由が発生したために,商標権者等が登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合をいうものであるところ,本件において,原告が,実際に,本件商標を販売名とする医薬品の製造販売を企図しながら,薬事法上の製造販売の承認との関係で,その製造販売やその準備手続を見合わせざるを得なかったとの事実を認めるに足りる証拠はなく,そうである以上,本件商標の使用を予定する医薬品の製造販売の承認審査を申請しても前記指針によって承認がされないとの原告の見込みも,要は,原告の憶測にとどまるものであったといわざるを得ないのであって,そのような憶測を理由に,本件商標の不使用について原告の責に帰すことができない事由があったとまでいうことはできない。


 さらに,原告は,そのような見込みの下において,承認審査を申請するとすれば,その手数料として数十万円から数百万円を負担しなければならなくなることに加えて,パッケージや容器の作成代や最低ロット数の製造委託料など,少なくとも数百万円もの負担をも余儀なくされるのであって,単に形式的に承認申請が可能であったというだけで,その承認申請がない以上,本件商標の不使用について正当な理由が認められないというのは,原告に酷であるとも主張するが,原告の見込みが前記説示のとおり憶測の域を出るものではない本件において,以上の認定判断が覆されるものではない。


(3) したがって,本件商標をその指定商品に使用していないことについて正当な理由があるとの原告の主張は,これを採用することができない。


2 結論

 以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。