●平成21(ネ)10006 補償金等請求控訴事件「中空ゴルフクラブヘッド

 本日は、『平成21(ネ)10006 補償金等請求控訴事件 その他 民事訴訟 平成22年05月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100608110428.pdf)について取り上げます。


 本件は、補償金等請求控訴事件で、原告の請求をすべて棄却した原判決が取り消された事案です。


 本件では、補償金請求権の行使の可否についての判断等が参考になるかと思います。

 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 上田洋幸)は、


『2 争点(4)〔補償金請求の可否,補償金及び損害賠償等の金額〕について

(1)補償金請求権の行使の可否

ア 警告の有無

(ア)補償金請求権を行使する旨の記載の要否

 特許法65条1項は,「特許出願人は,出願公開があった後に特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をしたときは」と規定し,補償金請求の要件として警告を定めている。


 その趣旨は,補償金請求の前提として,特許出願に係る発明の存在と内容を相手方に知らしめ,相手方がその発明を実施する場合には補償金請求権の行使があり得ることを相手方に認識させることにあると解される。


 そして,特許出願に係る発明の内容が記載された書面を実際に示した上,特許権の設定登録がされた場合に警告後の行為につき補償金請求権を行使する可能性があり,補償金請求の前提として警告していることが少なくとも黙示に示されているときには,相手方は,特許出願に係る発明の存在と内容を知り,その発明を実施する場合に補償金請求権の行使があり得ることを認識することができる。


 そうすると,特許法65条1項の警告に当たるというためには,特許出願に係る発明の内容が記載された書面において,「特許権の設定の登録がされた場合に警告後の行為につき補償金請求権を行使する」旨の明示の記載までは必要でなく,書面において,特許権の設定登録がされた場合に警告後の行為につき補償金請求権を行使する可能性があり,その警告が補償金請求の前提としてされていることが少なくとも黙示に示されていれば足りると解すべきである。


(イ) 甲3書面の警告該当性

 当裁判所は,原告が被告に対し,甲3と本件特許の公開公報の送付により行った通知は,特許法65条1項の警告に該当すると解する。その理由は,以下のとおりである。

 
 前記のとおり,原告は,被告に対し,原告知的財産部部長名で,被告開発部部長宛に,別紙3のとおり記載された平成15年9月19日付け内容証明郵便(甲3)を送付し,本件特許の公開公報も送付し,甲3及び本件特許の公開公報は, 平成15年9月20日には,被告に到達した。


 そして,甲3(別紙3)には,ゴルフクラブヘッドに関する本件特許の特許出願が出願公開された旨,出願公開された本件特許と被告が製造販売する被告製品のゴルフクラブとの関係を検討するよう要請する旨が記載されていた。


 甲3と本件特許の公開公報の送付により行われた通知は,特許出願に係る発明の内容が書面に記載されているということができる。


 そして甲3の差出人名と,宛名, 記載内容に照らすと,上記通知は ,被告製品が,本件特許の出願公開された発明の技術的範囲に属し,特許権の設定登録がされた場合に警告後の行為につき補償金請求権を行使する可能性があり,補償金請求の前提として警告していることが書面により示されていると認められる。したがって,原告が被告に対し,甲3と本件特許の公開公報の送付により行った通知は,特許法65条1項の警告に該当する。


イ 補正と再度の警告の要否

(ア) 補正後の再度の警告が不要な場合

 特許出願人が出願公開後に第三者に対して特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をした後,特許請求の範囲を含めて補正がされた場合,その補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を明瞭にし又は減縮するものに限られ,拡張することは許されないから,補正がされることによって,発明の技術的範囲に属しなかった製品が,技術的範囲に属するようになることは想定できない。


 したがって,警告後に補正がされることによって第三者に対して不意打ちを与えることはないから,再度の警告を発しないと不意打ちに当たるというような特段の事情(そのような特段の事情を想定することは困難ではあるが)がない限り,補償金請求の前提としての警告をした後,補正がされたからといって,再度の警告をしなければならない理由はないといえる。


(イ) 本件における再度の警告の要否について

 念のため,本件において,補償金請求の前提として,再度の警告を要する特段の事情があったかを検討する。


 ・・・省略・・・


b 再度の警告の要否についての判断

(a) 前記aの本件特許の補正等の経緯に照らすと,平成16年4月12日付け補正及び平成17年5月9日付け補正は,いずれも特許請求の範囲を減縮し又は明瞭にするものであったと認められる。


 すなわち,本件発明(平成17年5月9日付け補正後の本件明細書の特許請求の範囲の請求項1記載の発明)は,当初明細書の請求項5,【0018】,当初図面の図6に記載されていた。ただし,当初明細書の請求項5の記載は,本件発明(縫合材が金属製外殻部材のみを貫通し繊維強化プラスチック製外殻部材を貫通しない構成からなる発明)の他,縫合材が金属製外殻部材だけでなく繊維強化プラスチック製外殻部材も貫通する態様をも含むものとして記載され,当初明細書の【0018】では,発明の実施の形態として,本件発明の他,そのような態様をも含むことが記載されていた。


 平成16年4月12日付け補正は,同補正前の請求項5(当初明細書の請求項5)を,本件発明のみを対象とするように減縮して請求項6とした。


 平成17年5月9日付け補正は,同補正前の請求項6の「裏面側」との記載を「反対面側」と変更し,同補正前の請求項6を同補正後の請求項1とし,特許請求の範囲を明瞭にするとともに,その発明の実施の形態の説明である同補正前の【0018】の記載から,縫合材が金属製外殻部材だけでなく繊維強化プラスチック製外殻部材も貫通する態様のものを削除し,同補正後の【0011】とし,発明の実施の形態の記載が同補正後の請求項1の記載と整合するようにした。被告製品は,平成16年4月12日付け補正及び平成17年5月9日付け補正の前後を通じて発明の技術的範囲に属する。


 以上のとおりであるから,本件において補償金請求権を行使するために,平成17年5月9日付け補正後の本件明細書を示した上で再度の警告をしない限り,不意打ちに当たる,というような特段の事情は認められない。


(b) 被告は,平成17年5月9日付け補正により,発明の実施の形態の項の記載(同補正前の【0018】)から「金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材の双方に貫通穴を穿ち,この貫通穴に縫合材を通して刺す態様」が削除され(同補正後の【0011】),これにより,特許請求の範囲の「縫合材」の語は,「複数の対象物のすべてを貫き通すことによって結合させるために用いられる部材」という意義を有しないものとして用いられることになったから,同補正は,特許請求の範囲を減縮するものではない旨主張する。


 しかし,本件発明(縫合材が金属製外殻部材のみを貫通し繊維強化プラスチック製外殻部材を貫通しない構成からなる発明)は,当初明細書の請求項5,【0018】,当初図面の図6に記載されていたものであり,出願当初から一貫して,本件発明の上記構成(縫合材が金属製外殻部材のみを貫通し繊維強化プラスチック製外殻部材を貫通しない構成)が本件特許の発明に含まれるものであったことからすると,平成17年5月9日付け補正により再度の警告を要する場合となったものとは,到底いえない。


c 技術的範囲への属否

 中間判決の「2 争点(2)〔均等侵害の成否〕について」(中間判決17頁7行目ないし23頁5行目)のとおり,被告製品は,本件発明の構成と均等なものとして,平成17年5月9日付け補正後の請求項1記載の本件発明の技術的範囲に属する。そして,本件特許の特許請求の範囲のうち,当初明細書の請求項5は,平成16年4月12日付け補正により減縮されて同補正後の請求項6とされ,更に平成17年5月9日付け補正によりその記載を明瞭にして同補正後の請求項1とされたから,被告製品は,平成16年4月12日付け補正及び平成17年5月9日付け補正の前後を通じて,特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲に属するものと解される。


 被告は,警告が発せられたのは,補正前の特許請求の範囲に基づくものであるから,これに基づく補償金請求には,均等の手法による技術的範囲の解釈は適用されない旨を主張する。


 しかし,前記のとおり,本件特許の各補正は,特許請求の範囲を減縮し又は明瞭にする目的の範囲にとどまるものであること,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについては,補正後の設定登録を経由した発明の技術的範囲に基づいて判断していることに照らすならば,被告の上記主張は,理由がない(なお,被告製品の具体的態様に照らすならば,本件各補正の内容は,被告製品が本件発明の技術的範囲に含まれるか否かの争点(均等を前提とした技術的範囲の解釈を含む。)に関係するものではないし,いわゆる侵害論において,このような観点からの当事者の主張もされていない。)。


ウ補償金請求権の行使の可否

 甲3及び本件特許の公開公報の送付によって行われた警告は,補償金請求権行使の要件である警告に当たり(前記ア(イ)),本件の補償金請求権の行使のために,再度の警告は不要であり(前記イ(イ)b),均等により技術的範囲に属する場合にも補償金請求をすることができるから(前記イ(イ)c),本件において,補償金請求権を行使することはできる。』


 と判示されました。


 本判決文中、「(ア) 補正後の再度の警告が不要な場合」の部分が少しわかり難いような気がします。


 詳細は、本判決文を参照してください。