●平成16(行ケ)173 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成16(行ケ)173 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「熱可塑性樹脂とシリコーンゴムとの複合成形体の製造方法」平成17年01月31日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/FEF54B097351A96C492570FC000222B0.pdf)について取り上げます。


 本件は、先日、mkujiさんからコメントがあり、見つけた訂正審判の審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許後に、請求項から「除くクレーム」形式により追加した部分が新規事項追加と判断され、当該新規事項追加部分を削除する訂正が認められないと判断した点で、参考になるか事案かと思います。


 つまり、東京高裁(知的財産第2部 裁判長裁判官 篠原勝美、裁判官 古城春実、裁判官 岡本岳)は、


『(2) 本件訂正審判請求の経緯について

    原告は,本件訂正審判請求に至る経緯にかんがみれば,「但し,一次射出成形後に120℃未満の温度で冷却する工程を含まない」との文言を訂正前の請求項1から削除する訂正をしても,第三者に不測の不利益が生じることはないから,訂正事項aに係る訂正は許容されるべきであると主張する。


 また,原告は,本件においては,特許庁の審査段階において,上記文言を挿入する補正が新規事項の追加に当たることが看過され,誤って特許されたものであり,訂正事項aは,当該文言を削除することによってそもそもの誤りを正すものであるから,特許法旧126条1項ただし書にいう「誤記の訂正」又は「明りょうでない記載の釈明」に該当するとして,許容されるべきであるとも主張する。


    しかしながら,特許法旧126条は,いったん特許査定がされた発明については,その対象を確定して権利の安定を保証する趣旨から,特許明細書の訂正をむやみに許容すべきではないという要請と,明細書中に瑕疵が存在する場合には,当該発明を適切に保護するために,その瑕疵を是正して無効理由や取消事由を除去することができる途を開く必要があるという,相反する要請を調和させるものとして,同条の規定する一定の事項を目的とする場合に限って,特許明細書の訂正を許容することを規定したものと解される。


 このような同条の規定の趣旨に照らすと,訂正が許容されるかどうかは,同条に規定された要件を満たすか否かで判断すべきことであって,特許発明の技術的範囲の点で第三者に不測の不利益を与えるか否かによって判断すべきものではない。原告の主張は,独自の見解であって,採用することができない。


    また,「但し,一次射出成形後に120℃未満の温度で冷却する工程を含まない」との文言を削除する本件訂正は,誤った記載をその本来の意味内容に正すものであるとは認められないし,不明りょうな記載についてその本来の意味内容を明らかにするものであるとも認められないから,訂正事項aは特許法旧126条1項ただし書にいう「誤記の訂正」にも「明りょうでない記載の釈明」にも該当しない。


    なお,原告が主張するように,審査段階において行った補正の違法性が看過されて特許されたという事情があるとしても,そのことによっては,当該補正によって挿入された文言を削除する訂正が直ちに「誤記の訂正」や「明りょうでない記載の釈明」に該当するとはいえない。この点に関する原告の主張も,独自の見解であって,採用することができない。


  (3) 以上のとおりであるから,審決が本件訂正は特許法旧126条1項ただし書の要件を満たさないと判断したことに誤りはなく,原告の取消事由の主張は理由がない。


2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。』


 と判示されました。


 本件からすると、補正により追加した部分が特許後に新規事項追加と判断されると、その新規事項追加部分を削除する訂正は、認められない可能性が高いので、今まで以上に補正に注意が必要な気がします。


 なお、mkujiさんから質問がありましたが、明細書中に補正により追加した記載が特許後に新規事項追加と判断されると、その新規事項追加部分を削除する訂正は、特許法第126条1項各号のいずれかに該当し、認められるのか、ご存知の方がおられれば、ご教示願います。