●平成21(行ケ)10380 審決取消請求事件 商標権「和幸食堂」

 本日は、『平成21(行ケ)10380 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「和幸食堂」平成22年05月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100513132749.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審判の棄却審決の取り消しを求めた審決取り消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、結合商標の類否判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 荒井章光)は、


『1 商標の類否判断

 本件商標は,漢字で記載された「和幸」と「食堂」とから構成されている,いわゆる結合商標であるところ,本件審決が,本件商標からその構成部分の一部である「和幸」の文字部分を抽出し,当該抽出部分だけを引用商標と比較して,各商標の類否を判断したものであることは,別紙審決書(写し)の理由から明らかである。


 もとより,商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断しなければならない最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


 しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。


 他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。


 そこで,以上説示した見地から,本件商標と引用商標とが類似していると判断した本件審決の当否について検討することとする。


2 本件商標と引用商標との類否

 本件商標から生じる称呼及び観念について

 本件商標は,「和幸食堂」の文字を横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものではあるが,「和幸」の文字部分と「食堂」の文字部分とをその構成部分とするものであることは,視覚上,容易に認識することができるものであるところ,原告は,「和幸」の文字部分の識別力等及び「食堂」の文字部分の識別力についてその主張するところから,本件商標は,「和幸」の部分と「食堂」の部分とを全体として,これを考察すべきであるという。


 しかしながら,本件商標からは,「ワコウショクドウ」という1連の称呼が生じ,また,「和幸」という名前の「食堂」といった観念が生じることは否定し得ないが,本件商標の称呼ないし観念が「和幸食堂」以外に生じる余地がないということはできない。


 けだし,本件商標の「食堂」の文字部分は,「食事をする部屋」あるいは「いろいろな料理を食べさせる店」を意味する語(甲2)であるばかりでなく,本件商標の指定役務を提供する場所そのものを指す語であるから,本件商標中の「食堂」の部分からは,「和幸」の部分と一体となって,上記の称呼ないし観念が生じ得るとしても,それ自体で独立した,出所識別標識としての称呼及び観念までは生じないというべきであるからである。


 そうすると,本件商標からは,「和幸食堂」という当該商標の全体に対応した称呼及び観念とは別に,「和幸」の部分に対応した「ワコウ」の称呼も生じるといわざるを得ないのであって,本件商標と引用商標との類否判断に際して,本件商標から「和幸」の部分を抽出することは当然に許されるべきものである。


 引用商標2から生じる称呼及び観念について他方,引用商標のうち,引用商標2についてみると,同商標は,太線で表された四角形内に「とん」と「かつ」の文字を二段に併記し,その下に太線ゴシック体で「和幸」の文字を縦書きして成るものであり,「とんかつ」の部分は,上記のとおりの視覚上の特徴がみられるものの,「とんかつ」の部分と「和幸」の文字部分とをその構成部分とするものであることは,視覚上,容易に認識することができるものであるところ,「とんかつ」の部分は,同商標の指定役務の対象そのものを表す語から成るものであるから,本件商標の「食堂」について説示したのと同様に,引用商標2の「とんかつ」の部分からは,それ自体で独立した,出所識別標識としての称呼及び観念は生じないものといわなければならない。


 そうすると,引用商標2からは,「とんかつ和幸」という当該商標の全体に対応した称呼及び観念とは別に,「和幸」の部分に対応した「ワコウ」の称呼も生じるといわざるを得ない。



本件商標と引用商標2との類否

 上記 及び によると,本件商標と,引用商標のうち,引用商標2とは,称呼において共通するものであり,両商標の外観の相違は,出所識別標識としての称呼及び観念が生じない「食堂」及び「とんかつ」部分が異なる程度にとどまるものであるから,そのような外観の相違を考慮してもなお,本件商標と引用商標2とが同一又は類似の役務に使用された場合には,当該役務の出所について混同が生じるおそれがあるというべきであって,本件商標は,引用商標2と類似するものと認めるのが相当である。


役務の同一性

 本件商標の指定役務である「飲食物の提供」は,引用商標2の指定役務である「とんかつ料理の提供」を含むものである。


本件商標と引用商標1との類否
前記2 ないし において説示したところは,引用商標1についても当てはまる
ものであり,本件商標は,引用商標1とも類似するものと認めるのが相当である。


小括

 以上の検討結果によれば,本件商標が引用商標と類似するとして本件商標の登録を無効とした本件審決の判断は,少なくとも引用商標1及び2との類否判断を前提にする限り,これを是認し得ることが明らかである。


 もっとも,本件審決は,専ら引用商標2が周知であることを前提として,本件商標が引用商標と類似すると結論付けているのであるが,本件商標が,引用商標のうち,引用商標3ないし7と類似すると判断した理由については,本件審決書に照らしても,具体的に説明されているとはいい難く,その理由は十分ではない。原告は,この点に関連して,引用商標1及び3の周知性の認定を含め,本件審決の理由齟齬,理由不備をいうのであるが,本件商標と引用商標1及び2とが類似する商標と認められる以上,引用商標3ないし7との類否について進んで検討するまでもなく,本件商標が商標法4条1項11号に掲げる商標に該当するとした本件審決の判断は,その結論において相当ということができる。


 3 結論

 以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。