●平成21(行ケ)10414 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10414 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟ケフィア倶楽部のピュアメープルシロップヌーボー」平成22年05月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100513120008.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標無効審判の棄却審決の取り消しを求めた審決取り消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、指定商品についての補正の要旨変更の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 井上泰人)は、

『1 原告は,本件商標の登録が各引用商標との関係で商標法8条1項に違反して無効であるとの主張の前提として,本件補正が商標法9条の4所定の要旨の変更に当たると主張するが,出願された商標について行われた補正が要旨の変更に当たるか否かは,当該補正が出願された商標につき商標としての同一性を実質的に損ない,第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるものと認められるか否かにより判断すべきものである。


2 しかるところ,「丸善食品総合辞典」(平成10年3月25日発行。甲18)には,「シラップ」の語義として,「シロップと同じ。一般に砂糖濃度10〜60%の糖液をいう。」と記載され,「広辞苑(第5版)」(平成10年11月11日発行。甲19)には,「シロップ」の語義として,「?果実シロップに同じ。」と記載され,また,「果実シロップ」の語義として,「イチゴ・レモン・メロンなどの果汁に砂糖を加えて濃縮した液。水などで薄めて飲料とする。」と記載されていることからして,「シロップ」との表現が飲用可能な糖の溶液として一般の取引者及び需要者により認識されていることが認められ,現に,第32類には,「シロップ」が含まれている。


 他方,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現は,その原料を「カエデの木から採取した樹液」として特定しているところ,カエデの木から採取した樹液(サップ。甲12,13,乙5,6)から製造された飲料そのものについては,「メープルサップ」との表現が第一次的に用いられる傾向にある(甲5,6)ばかりか,上記「広辞苑(第5版)」にも「カエデの木から採取した樹液」については,果実シロップとしては言及がなく,上記「丸善食品総合辞典」にも「メープルシロップ(北米産砂糖かえでの樹液を煮詰めたもの)」との記載があることにかんがみると,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現は,一般の需要者及び取引者によって,清涼飲料としてではなく,カエデの樹液を煮詰めて作られる砂糖溶液であって調味料などに用いられる「メープルシロップ」と同一のものと広く認識される表現(甲12,乙5)であると認められ,このことは,第30類として登録されている商標に「メープルシロップ」を指定商品とするものが存在すること(甲16,17)によっても裏付けられる。


 そうすると,本件補正に係る「メープルシロップ」は,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現を,より一般的な表現に改めただけであって,両者は,その内容において同一の商品を指定するものであったといわなければならない。


 したがって,第32類に「シロップ」が含まれているからといって,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現により一般の需要者及び取引者がこれを清涼飲料に含まれる「シロップ」と誤認するおそれはなく,調味料などとして利用される「メープルシロップ」と理解するのが一般的であるから,本件出願に際して商品区分を第32類と指定したことは,第32類に「シロップ」が含まれていたことにより,その記載を誤ったにすぎないものというべく,本件補正により第32類を第30類とすることは,誤記の訂正の範囲を出ないものといえる。


本件補正は,以上のとおりのものであって,そもそも,本件商標について商標としての同一性を何ら損なっていないし,また,それにより第三者に不測の不利益を及ぼすおそれが認められる場合ではないから,商標法9条の4所定の要旨の変更には当たらず,これと結論を同じくする本件審決に誤りはない。


 なお,本件審決には,本件補正が特許庁審査官の指摘に従ってされたものであることをもって要旨の変更に当たらないと判断したのではないかと解されなくもない説示があるが,審査官の指摘であっても,そこに誤りがあれば,正されるのが当然であって,上記のように解される説示は,措辞不適切である。


4 結論

 以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。