●平成21(ワ)12902 損害賠償請求事件 その他 民事訴訟

 本日は、『平成21(ワ)12902 損害賠償請求事件 その他 民事訴訟 平成22年04月28日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100506180823.pdf)について取り上げます。


 本件は、いわゆるパブリシティ権侵害に基づく損害賠償請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点(1)(被告によるAに係るパブリシティ権侵害の成否)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳、裁判官 鈴木和典、裁判官 坂本康博)は、


『1 争点(1)(被告らによるAに係るパブリシティ権侵害の成否)について

(1)パブリシティ権について

 人は,その氏名,肖像等を自己の意思に反してみだりに使用されない人格的権利を有しており(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁,最高裁昭和44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照),自己の氏名,肖像等を無断で商業目的の広告等に使用されないことについて,法的に保護されるべき人格的利益を排他的に有しているということができる。


 そして,芸能人やスポーツ選手等の著名人については,その氏名・肖像を,商品の広告に使用し,商品に付し,更に肖像自体を商品化するなどした場合には,著名人が社会的に著名な存在であって,また,あこがれの対象となっていることなどによる顧客吸引力を有することから,当該商品の売上げに結び付くなど,経済的利益・価値を生み出すことになるところ,このような経済的利益・価値もまた,人格権に由来する権利として,当該著名人が排他的に支配する権利(いわゆるパブリシティ権。以下「パブリシティ権」という。)であると解される。


(2) 原告の地位について

 ア本件専属実演家契約(甲1の1の1)は,「第3条(独占的許諾)」として「(1) Aは,第4条によりAが行う歌唱,演奏,演技その他の実演(以下「実演」という。)の録音,録画,放送,有線放送及び衛星放送(以下「録音・録画等」という。)並びにその一切の利用については,アップ・デイトに対してのみ独占的に許諾します。また,アップ・デイトが第三者にAの実演の録音・録画等及びその一切の利用を許諾することを承諾します。(2) アップ・デイト及びAは,Aの氏名(芸名,通称等を含む。),写真,肖像,筆跡及び経歴等についての権利を共有するものとし,その処分や使用については,すべてアップ・デイトの判断と指示に基づいて行うものとします。」と規定しているが,上記(1)項の趣旨は,Aが実演家として行う実演に係る権利について,アップ・デイトに独占的に許諾したものであると解される。そうすると,続く(2)項において,氏名,写真,肖像等の「処分や使用については,すべてアップ・デイトの判断と指示に基づいて行う」とあるのは,(1)項の実演に関係する氏名,写真,肖像等の「処分や使用」について定めたものと解するのが相当である。また,「第6条(権利の帰属)」として,「本契約の有効期間中に前2条の業務により制作された著作物,商品その他のものに関する著作権,商標権,意匠権パブリシティ権,所有権その他一切の権利は,本契約又は第三者との契約に別段の定めのある場合を除き,すべてアップ・デイトに帰属するものとします。」と規定しているが,上記「前2条」のうち「第4条(Aの業務)」としては,実演(?〜?)のほか,「『取材・撮影,会見』等への出演」(?),「『作詞・作曲,編曲,プロデュース』等の業務」(?),「執筆等の業務」(?),「Aの実演…氏名…,写真,肖像,ロゴ及び意匠等を用いた各種の商品の企画等に関する業務」(?)及び「その他前各号の業務(判決注:上記?〜?の業務を指すものと解される。)に付随する一切の業務」(?)が規定され,「第5条(アップ・デイトの業務)」として,マネジメント業務等が規定されている。


 したがって,本件専属実演家契約の上記規定内容からすれば,Aがアップ・デイトに独占的に許諾した対象は,Aの実演に係る権利に関係するものであり,第6条によりアップ・デイトに帰属することとされる権利も,上記実演(?〜?)及び実演家であるAの活動に関係する上記?〜?の業務に関するものをいう趣旨と解するのが相当というべきであり,実演家の活動とは直接の関係を有しない店舗の経営にまで及ぶものと解することはできない。


イ証拠(甲1の1の3,4,甲15。なお,甲1の1の3のA作成部分及び甲1の1の4については,甲44及び弁論の全趣旨により,いずれも真正に成立したものと認められる。)によれば,アップ・デイトは,平成15年3月1日以降,本件専属実演家契約に基づくAのマネジメント業務に係る契約上の地位をエターナル・ヨークに譲渡し,エターナル・ヨークは,平成18年12月18日,Aの実演家活動全般に関するマネジメント業務権(本件専属実演家契約によりアップ・デイトが取得した上記契約上の地位)を原告に移譲し,Aもこれに同意したことが認められる。


 しかしながら,上記経緯により原告が取得したのは,本件専属実演家契約上のアップ・デイトの地位であるから,その内容は,上記アに説示したものにとどまり,原告が,Aのパブリシティ権の帰属主体になったものということはできない。そして,原告の取得した地位が上記のものにとどまる以上,本件専属実演家契約は,実演家の活動とは直接の関係を有しない店舗の経営にまでは及ばないから,被告らがAの芸名や肖像等を使用してラーメン店を経営したことが,原告の上記契約上の地位ないし権利を侵害するものということはできない。


(3) Aの許諾について

 また,証拠(甲3の1,甲4の1,2,甲11,43,44,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,本件において,Aは,ラーメン店の経営に興味を持ったことから,ラーメン,餃子等を扱う飲食店を全国に展開させた経験を有する被告Yと共同してラーメン店「我聞」を立ち上げ,自らを「店長」と称し,被告KNOSの取締役(平成17年12月14日から平成19年4月4日までは代表取締役)にも就任するなど,同店の経営に自ら関与してきたものであり,同店の宣伝,広告のためにAの氏名,肖像等を利用することについては,A自身がこれを許諾していたことが認められる。


 ところで,原告は,上記(2)に説示したとおり,Aのパブリシティ権の主体ではなく,本件専属実演家契約上の地位を譲り受けたにすぎないから,仮に同契約の効力がラーメン店の経営に及ぶとしても,同契約の効力は第三者である被告らには及ばない。そうすると,被告らがAの許諾を得て,Aの芸名や肖像等を使用してラーメン店「我聞」を経営することは,自由競争の範囲内の行為というべきであるから,これが不法行為を構成するというためには,被告らの行為が自由競争の秩序を逸脱したような場合に限られるというべきである。

 しかるところ,本件全証拠によるも,被告らに自由競争の秩序を逸脱した行為があったものと認めることはできない。

 したがって,上記の点からも,被告らによるラーメン店「我聞」におけるAの氏名,肖像等の使用が,原告又はエターナル・ヨークに対する不法行為を構成するということはできない。


2 以上検討したところによれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 なお、同日に出された、●『平成21(ワ)25633 損害賠償請求事件 その他 民事訴訟 平成22年04月28日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100506180523.pdf)も同様の判決のようです。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。