●平成21(行ケ)10326 審決取消請求事件 特許権「マッサージ機」

 本日は、『平成21(行ケ)10326 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「マッサージ機」平成22年04月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100427155831.pdf)について取り上げます。


 本件は、訂正審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消訴訟事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、訂正審判における特許請求の範囲の減縮にについての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 大須賀滋)は、

『当裁判所は,審決が,本件訂正後発明2について「操作装置への所定の操作を施す場合に『所定操作による基準位置検出に基づく制御』を行うこと」及び「前記操作装置への所定の操作を行わない場合に『一定時間経過による基準位置検出に基づく制御』を行うこと」を択一的に行う発明であるとして,本件訂正前発明2を減縮したものではないなどとした点には誤りがあり,同誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものと判断する。その理由は,以下のとおりである。


 本件訂正前発明2と本件訂正後発明2の各特許請求の範囲(以下,便宜上「発明の技術的範囲」との語を用いる場合がある。)について対比する。


1 事実認定

(1) 本件訂正前発明2について

 本件訂正前発明2は,以下のとおりである。これを構成ごとに分説すると,以下のとおりとなる(注請求項1を引用する形式を書き改めた。)。

ア マッサージ機本体(2)と,使用者にマッサージを施すように当該マッサージ機本体(2)に設けられていると共に使用者の身長方向に移動自在な施療子(14)と,当該施療子(14)を操作して任意の位置に位置決めすることができる位置操作部(49,50)を有する操作装置(40)と,を備えたマッサージ機において,

イ 前記位置操作部(49,50)の操作によって決められた施療子(14)の位置をマッサージの基準位置として記憶する記憶部(39)を備え,

ウ 前記施療子(14)の位置決めを行うための一定の時間を設定しておき,その時間内に前記施療子(14)を移動させ,その時間が経過した時点での前記施療子(14)の位置を検出しその位置を基準位置として自動的に前記記憶部(39)に記憶させることを特徴とする

エ 前記基準位置は肩位置であることを特徴とするマッサージ機。

(2) 本件訂正後発明2について

 本件訂正後発明2は,次のとおりである。これを構成ごとに分説すると,以下のとおりとなる。

ア マッサージ機本体(2)と,使用者にマッサージを施すように当該マッサージ機本体(2)に設けられていると共に使用者の身長方向に移動自在な施療子(14)と,当該施療子(14)を操作して任意の位置に位置決めすることができる位置操作部(49,50)を有する操作装置(40)と,

イ 前記位置操作部(49,50)の操作によって決められた施療子(14)の位置をマッサージの基準位置として記憶する記憶部(39)と,を備え,

ウ 施療子(14)を移動させた後,前記操作装置(40)への所定の操作を施すと,その所定の操作が行われたときの前記施療子(14)の位置を基準位置として検出する,マッサージ機において,

エ 前記所定の操作を行わなくとも,前記施療子(14)を移動させて位置決めを行うために予め設定された一定の時間が経過すると,前記施療子(14)の位置を検出しその位置を基準位置として自動的に前記記憶部(39)に記憶させ,

オ 前記基準位置は肩位置であることを特徴とするマッサージ機。

(3) 本件明細書の記載


 ・・・省略・・・


2 判断

(1) 本件訂正前発明2及び本件訂正後発明2は,いずれも,マッサージ機において,より正確に肩位置を設定できるようにするために,マッサージ機本体と,使用者にマッサージを施すように当該マッサージ機本体に設けられていると共に使用者の身長方向に移動自在な施療子と,当該施療子を操作して任意の位置に位置決めすることができる位置操作部とを備え,前記位置操作部の操作によって決められた施療子の位置を基準位置(肩位置)として記憶する記憶部を備えていることを特徴とするマッサージ機である。


 そして,本件訂正後発明2は,本件訂正前発明2に対して,「施療子(14)を移動させた後,前記操作装置(40)への所定の操作を施すと,その所定の操作が行われたときの前記施療子(14)の位置を基準位置として検出する,マッサージ機において,」(本件訂正後発明2のウ)との構成が付加されたものである。


 ところで,特許請求の範囲の記載において「構成」が付加された場合,付加された後の発明の技術的範囲は,付加される前の発明の技術的範囲と比較して縮小するか又は明りょうになることは,説明を要するまでもない。


 本件において,本件訂正後発明2記載の特許請求の範囲に属するマッサージ機は,構成アないし構成オのすべてを具備するものに限定される。本件訂正前発明2では,何らの限定がされていなかったものに対して,本件訂正後発明2では,「施療子(14)を移動させた後,前記操作装置(40)への所定の操作を施すと,その所定の操作が行われたときの前記施療子(14)の位置を基準位置として検出する,マッサージ機において,」との構成を有するものに限定されたのであるから,これに伴って,その技術的範囲が縮小するか又は明りょうになることは,当然である。


(2) この点,被告は,本件訂正後発明2は,「所定操作による基準位置検出に基づく制御」を行うと,もはや「一定時間経過による基準位置検出に基づく制御」を行わないから,本件訂正前発明2と比較して択一的記載であり,特許請求の範囲の減縮に当たらないと主張する。

 被告の主張は,発明の技術範囲の解釈についての誤りに由来するものであって,到底採用できるものではない。

 確かに,マッサージ機の使用者(ユーザ)は,本件訂正後発明2の構成ウに係る操作方法を選択することによって,構成エ〔前記施療子(14)を移動させて位置決めを行うために予め設定された一定の時間が経過すると,前記施療子(14)の位置を検出する構成〕に係る機能を選択することなく,位置決めをすることができる。

 しかし,ユーザが,そのような位置決め方法を選択することが可能であることは,本件訂正後発明2において,はじめて可能となるものではなく,本件訂正前発明2においても同様であり,本件訂正後発明2と本件訂正前発明2とは,その点に関する相違はない(任意の位置に基準位置を決定することのできる位置操作部が存在することは,本件訂正前発明2においても同様である。)。

 使用者(ユーザ)にとって,本件訂正後発明2の構成ウを選択することによって,構成エで示す機能を選択しないことがあり得ることは,本件訂正後発明2において,構成エを具備しないマッサージ機が,発明の技術的範囲に含まれること,すなわち,技術範囲が拡大することを意味するものではない。

 この点の被告の主張は,その前提において採用できない。


3 小括

 以上のとおりであり,本件訂正は,特許請求の範囲を減縮するものではなく,また,明りょうでない記載の釈明等に該当せず,本件訂正後発明2は本件訂正前発明2と異なる発明に実質上変更するものであるとした審決の判断は,誤りである。なお,任意の位置への位置決めは,肩位置の正確性を期するという本件明細書に記載された目的に沿うものであって,新たな目的を追加したものとはいえない。本件訂正は,特許法126条4項にも違反しない。被告は,その他,縷々主張するが,いずれも理由はない。原告の取消事由は,いずれも理由がある。

 以上によれば,審決の判断は誤りであるから,これを取り消すこととし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。