●平成22(行ケ)10005審決取消請求事件 商標「アスリートレーベル」

 本日は、『平成22(行ケ)10005 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「アスリートレーベル」平成22年04月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100430151004.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審判の棄却審決の取り消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由1(商標法3条1項柱書該当性の判断の誤り)、取消事由2(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)および取消事由3(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 井上泰人)は、

1 取消事由1(商標法3条1項柱書該当性の判断の誤り)について

(1) 商標法3条1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標」として登録を受けられる商標は,現に使用している商標だけでなく,使用する意思があり,かつ,近い将来において使用する予定のある商標も含まれるものと解すべきである。


(2) 被告は,医療用具,健康器具及び美容健康器具の製造,販売並びに輸出入等を目的とする株式会社であり,従前,医療用サポーターについて販売していたことがあり(甲23),将来,医療用腕環について使用する意思がある旨述べている(弁論の全趣旨)。


 そうすると,本件商標は,指定商品「医療用腕環」について,被告において使用する意思があり,かつ,近い将来において使用する予定のある商標ということができる。


 原告は,被告が「医療用腕環」について本件商標を使用する意思がないと主張するが,以上の認定判断を左右する事実を認めるに足りる証拠もなく,原告の憶測域を出るものではないから,その主張を採用することはできない。


(3) よって,取消事由1は,理由がない。


2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について

(1) 商標の類否判断

 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


 しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。


 他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。


(2) 認定事実

 証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。


 ・・・省略・・・


(3) 本件商標と原告の使用商標との類否

ア 本件商標は,「アスリートレーベル」の片仮名文字から成る結合商標である。

 本件商標を構成する「アスリート」は「運動選手,競技者」等,「レーベル」は「ラベル」と同義で「貼り紙,広告や標識のために貼る小さな紙片」等を意味する普通名詞である(岩波書店広辞苑〔第6版〕」,三省堂大辞林〔第2版〕」)。


 そして,前記(2)認定のとおり,本件商標の一部を構成する「アスリート」の部分が,需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者に対し,原告の商品を示すものとして周知性を獲得し,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから,本件商標のうち「アスリート」の部分だけを,原告の使用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものというべきである。


イ そうすると,本件商標からは,「アスリートレーベル」全体としてのみならず,「アスリート」の部分からも称呼,観念が生じるということができる。

 そして,後者の「アスリート」は,原告の使用商標のうち「アスリート」と同一の片仮名文字から成るものであり,両者とも「アスリート」という同一の称呼が生じ,「運動選手,競技者」という同一の観念が生じるから,その外観を考慮しても,両者は類似する。


 したがって,本件商標「アスリートレーベル」が医療用腕環に使用されるときは,本件商標中の「アスリート」は,需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者において,周知の原告の使用商標との出所を誤認混同するおそれがあるといわざるを得ない。

ウ しかるところ,1個の商標から2個以上の呼称,観念を生じる場合には,その1つの称呼,観念が登録商標と類似するときは,それぞれの商標は類似すると解すべきである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)。


エ よって,本件商標から生じる称呼,観念の1つである「アスリート」と原告の使用商標とが類似する以上,本件商標は,原告の使用商標と類似するものである。


(4) 商品の類似性

 本件商標の指定商品のうち,無効審判請求に係るのは,第5類「医療用腕環」であるところ,原告が「ATHLETE」,「アスリート」及びこれらを冠する商標を付して周知性を獲得したのは,ガイドワイヤーである。両者は,医療という用途に使用され,需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者が共通することから,類似の関係にある。


(5) 商標法4条1項10号該当性

 以上のとおり,本件商標は,原告がガイドワイヤーに使用して周知性を獲得した「ATHLETE」,「アスリート」及びこれらを冠する商標と類似し,商品においても類似するから,本件商標は,商標法4条1項10号に該当し,同号に該当しないとした本件審決の判断は,誤りである。


(6) 小括

 したがって,取消事由2は,理由がある。


3 取消事由3(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について

(1) 本件商標と引用商標との類似性

ア 前記2(3)アで述べたのと同様に,本件商標のうち「アスリート」の部分だけを,引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものというべきであるから,本件商標からは,「アスリートレーベル」全体としてのみならず,「アスリート」の部分からも称呼,観念が生じるということができる。

イ 他方,引用商標2からは「アスリート」の称呼が生じる(甲5の3)。そして,引用商標2からは,「運動選手,競技者」等の観念が生じる。

ウ そうすると,本件商標のうち「アスリート」の部分は,引用商標2と同一の片仮名文字から成るものであり,両者とも「アスリート」という同一の称呼が生じ,「運動選手,競技者」という同一の観念が生じるから,その外観を考慮しても,両者は類似する。そして,「アスリートレーベル」が医療用機械器具に使用されるときは,本件商標中の「アスリート」は,需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者において,引用商標2との出所を誤認混同するおそれがあるといわざるを得ない。

エ よって,本件商標から生じる称呼,観念の1つである「アスリート」と引用商標2とが類似する以上,本件商標は,引用商標2と類似するものである。


(2) 商品の類似性

 本件商標の指定商品のうち,無効審判請求に係るのは,第5類「医療用腕環」であるところ,引用商標2の指定商品は,第10類「医療用機械器具」である。医療用腕環も医療用機械器具も,いずれも医療という用途に使用され,需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者が共通することから,類似の関係にある。


(3) 商標法4条1項11号該当性

 以上のとおり,本件商標は,引用商標2と類似し,指定商品においても類似するから,本件商標は,商標法4条1項11号に該当し,同号に該当しないとした本件審決の判断も,誤りである。


(4) 小括

 したがって,取消事由3も,理由がある。

4 結論

 以上の次第であるから,原告主張の取消事由2及び3は理由があり,本件審決は取り消されるべきものである。』


 と判示されました。


 同日に出された●『平成21(行ケ)10411 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「ATHLETE LABEL」平成22年04月28日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100430150502.pdf)も同様の判示のようです。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。