●平成21(行ケ)10142 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10142 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「粉粒体の混合及び微粉除去方法並びにその装置」平成22年03月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100331105305.pdf)について取り上げます。


 本件では、まず、本件訂正発明2についての容易想到性の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、

『3 本件訂正発明2についての容易想到性の有無について

(1) 原告は,本件訂正発明2について,甲2装置発明(取消事由1)及び甲3発明(取消事由2)との関係における審決の容易想到性判断(いずれも容易想到でないとしたもの)に誤りがあると主張するので,以下,順次検討する。

 ・・・省略・・・

エ原告は,上記<相違点2−1>についての容易想到性を否定した審決の判断に誤りがあると主張するので,この点について判断する。

 ・・・省略・・・

 しかし,甲2公報におけるレベル計の技術的意義は,これにより材料混合タンク内の混合済みの粉粒体混合材料の貯留量を検出し,材料供給源から材料混合タンクへの粉粒体材料の供給量を制御してその貯留量を一定とすることを可能とし,もって材料収容手段側に安定して混合済みの粉粒体混合材料を排出するというものであって(段落【0029】),そこには未混合材料が材料収容手段へ落下することを回避する目的で混合済み材料のレベルを制御するという本件訂正発明2の上記課題ないし技術思想について開示・示唆するところがない。


 そうすると,甲3公報及び甲2公報のいずれにおいても,本件訂正発明2における上記課題について開示・示唆するところがないから,そのレベル計の部分のみを取り出して両者を組み合わせる必然性はないといわざるを得ず,甲3発明のレベル計を,受部から更に上部に位置する混合ホッパーへと変更することについて動機付けがあるということはできない。


オ(ア) これに対し原告は,甲3発明と甲2装置発明の技術分野の同一性,技術内容の密接性,甲3発明と甲2装置発明が後者は前者を従来技術とするものであり,両者の目的も機能も同じであるから,甲3発明のレベル計の位置を甲2装置発明のレベル計の位置に置換することに困難性がないと主張する。


 しかし,たとえ技術分野や技術内容に同一性や密接な関連性や目的・機能の類似性があったとしても,そこで組み合せることが可能な技術は無数にあり得るのであって,それらの組合せのすべてが容易想到といえるものでないことはいうまでもない。


 その意味で,上記のような一定の関連性等がある技術の組合せが当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)において容易想到というためには,これらを結び付ける事情,例えば共通の課題の存在やこれに基づく動機付けが必要なのであって,本件においてこれが存しないことは前記エのとおりである。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


(イ) また原告は,甲3発明と甲2装置発明では材料を貯留する箇所が一時貯留ホッパー内に限られる必要はなく,かえって,貯留量という観点や装置のコンパクト化の観点からは,当業者が,甲2装置発明のレベル計の位置を参考に,甲3発明のレベル計の位置につき混合ホッパー内への変更を試みる動機付けがあるとか,レベル計の位置を一時貯留ホッパー内に設けるか流動ホッパー内に設けるかは設計的事項にすぎないと主張する。


 しかし,甲3発明におけるレベル計は,飽くまでも材料を混合する混合ホッパーと混合済み材料を貯留する受部とがそれぞれ区別されて構成されることを前提に,吸引空気源の停止時における受部内の混合済み材料の残存堆積量を判別対象とするものであるから,受部の存在を必須とする技術思想を有するものであるのに対し,甲2装置発明は,材料混合タンクに混合済み材料の貯留タンクとしての機能をも保持させるものであって,これ以外の貯留タンクの構成を必須とするものではない(段落【0063】参照)。


 このように,両者はその技術思想を明らかに異にするから,単に貯留量の増加や装置のコンパクト化という観点のみをもって,甲3発明において,レベル計の位置を受部以外の混合ホッパー内に変更を試みる動機付けがあるということはできないし,レベル計の位置を混合ホッパー内へと変更することが単なる設計的事項ということもできないのであって,混合済み材料の貯留場所に係る両者の構成は容易に置換可能ということはできない。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


(ウ) また原告は,甲2装置発明は,本件訂正発明2の作用・効果である未混合材料の落下防止について教示するものであると主張するが,甲2装置発明において,未混合材料が材料収容手段へ落下することを回避する目的で混合済み材料のレベルを制御するという本件訂正発明2の課題ないし技術思想について開示・示唆するところがないことは前記エのとおりである。


 この点,原告の上記主張は,甲2装置発明の構成を採用すると結果として上記のような課題が生じないことをいうものであり,これに加えて原告は,材料混合部を材料貯留部として兼用する思想を開示するものとして甲18公報を挙げるが,甲2装置発明の構成(ないし甲18公報記載の発明)が存する結果,甲3発明(ないし本件訂正発明2)のように材料を混合する機構と混合済み材料を貯留する機構とを明確に区別する混合装置の存在意義自体が解消し,当業者においてもはやこれを採用する必然性がなくなったというのであればともかく,そうでない限り,両機構を区別する混合装置の構成を前提とする上記課題はなおも存在するといわなければならない。そして,上記のような存在意義が消滅したことを認めるに足りる証拠はなく(むしろ,本件訂正発明2の存在自体,両機構を区別する混合装置の構成が依然として存在意義を有することを裏付けるものである),甲2公報や甲18公報は,このような構成を前提とする本件訂正発明2の課題やその解決手段について何ら教示するものではない。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


カ以上によれば,その余の相違点について検討するまでもなく,本件訂正発明2は甲3発明から容易想到であるということはできないというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りがあるということはできない。』


 と判示されました。