●平成21(ネ)10033 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権

 本日は、『平成21(ネ)10033 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「熱伝導性シリコーンゴム組成物」平成22年03月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100408091636.pdf)について取り上げます。


 本件では、均等侵害の第5要件についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官澁谷勝海)は、


『(4) 被告製品(ただし,GR−n及びGR−iは除く。)は均等侵害の第5要件を充足しているとの主張(予備的主張2)について


最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決(民集52巻1号113頁)は,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合に,なお均等なものとして特許発明の技術的範囲に属すると認められるための要件の一つとして,「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」旨を掲げており,この要件が必要な理由として,「特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないからである」と判示している。


 そうすると,第三者から見て,外形的に特許請求の範囲から除外されたと解されるような行動をとった場合には,上記特段の事情があるものと解するのが相当である。そこで,本件において上記特段の事情が認められるかどうかについて検討する。


イ前記(1)で述べたところからすると,一審原告は,本件特許の出願経過において,本件補正によって,本件各特許発明は,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理することを前提として,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」のシランカップリング剤を含む「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量」に対する割合が「40vol%〜80vol%」である旨の構成要件Bを付加したものであるから,一審原告が,その範囲を超えて本件各特許発明の技術的範囲の主張をすることは,外形的に特許請求の範囲から除外されたと解されるものについて技術的範囲に属すると主張することになり,上記特段の事情に該当するというべきである。


ウこれにつき一審原告は,「本件補正に関して,構成要件Bにいう『熱伝導性無機フィラー』がカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを意味する旨を表明したことは一度たりともなかったし,特許庁が,本件補正に基づき,構成要件Bの意味内容について,『熱伝導性無機フィラー』がカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを意味するとの解釈を前提として審査し,本件特許査定がなされたことを裏付ける証拠はない,かえって,本件特許に対する無効審判事件において,一審被告は,『熱伝導性無機フィラー』に限定はないとの解釈を前提として新規性欠如及び進歩性欠如を理由とする無効主張を行い,特許庁は,この解釈を前提として審決をし,審決取消訴訟においても,この解釈を前提とした判断がなされている」旨主張する。


 しかし,一審原告が,構成要件Bにいう「熱伝導性無機フィラー」がカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを意味する旨を明示的に表明したことがなく,特許査定において特許庁がその点をどのように解したかが明らかでないとしても,本件補正が上記のとおり解される以上,上記特段の事情に該当すると解することができるのであって,無効審判及び審決取消訴訟の経過も,その点を左右するものではない。


エ以上のとおり,GR−b等について,「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことという要件を充たさないから,これらを本件各特許発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。


 したがって,一審原告の予備的主張2も理由がない。


(5) まとめ

 以上の(1)ないし(4)によれば,被告製品はいずれも一審原告の有する本件各特許発明の技術的範囲には属しないことになる。

 そうすると,その余の争点について判断するまでもなく,一審原告の本訴請求のうち,被告製品の製造販売禁止請求(請求の趣旨第1項),被告製品の廃棄請求(同第2項),平成15年10月2日から平成18年9月30日までの損害賠償等の請求(同第4項)は,理由がないことになる。』


 と判示されました。