●『平成21(行ケ)10306 商標登録取消決定取消請求事件 商標権

 本日は、『平成21(行ケ)10306 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政訴訟「いなば和幸」 平成22年03月29日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100330135533.pdf)について取り上げます。


 本件では、結合商標の商標法4条1項11号に係る商標の類否についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知材高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 浅井憲)は、


『1 取消事由(本件商標と引用商標との類否判断の誤り)について

 本件商標は,平仮名で記載された「いなば」と漢字で記載された「和幸」とから構成されている,いわゆる結合商標であるところ,本件決定が,本件商標からその構成部分の一部である「和幸」の文字部分を抽出し,当該抽出部分だけを引用商標と比較して,両商標の類否を判断したものであることは,別紙異議の決定書(写し)の理由から明らかである。


 しかしながら,商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)から,以下,その見地から本件決定がした本件商標と引用商標との類否判断が許されるものであるか否かについて検討する。


(1) 本件商標,引用商標等に係る取引の実情


 ・・・省略・・・


(2) 本件商標から「和幸」の文字部分を抽出して観察することの当否

ア 本件商標は,「いなば和幸」の文字を横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから,「和幸」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。


イまた,本件商標の「和幸」の文字部分の出所識別機能についてみると,前記(1)アのとおり,本件3社は,長きにわたって「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称で豚カツ料理店を経営し,本件役務について引用商標,参考商標1及び2等を使用してきたものであり,また,その経営規模をみても,本件3社は,全国に店舗網を広げ,豚カツ料理業界の中で大きな市場シェアを占めるに至り,さらに,本件3社が経営する「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店は,各種新聞,雑誌等において広く紹介され,我が国有数の豚カツ料理チェーン店として認知されているということができるのであるから,本件商標が本件役務について使用された場合,取引者及び需要者は,本件商標の「和幸」の文字部分が「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店を指すと容易に理解するものと認められるが,他方で,前記(1)ウのとおり,「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店が本件3社ないし複数の別会社により経営されるものであるとの事実が本件役務に係る取引者及び需要者に広く知られているとまで認めることはできないのであるから,引用商標との関係でみると,本件商標の「和幸」の文字部分が,本件役務に係る取引者及び需要者に対し,引用商標の商標権者である補助参加人が当該役務の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものということはできず,その他,そのようにいうことができるに足りる証拠はない。


ウさらに,本件商標の「いなば」の文字部分についてみると,一般的には,該文字部分からは,氏の1つである「稲葉」が想起されるが,「いなば」には,これが氏を平仮名書きしたものであるとしても,「稲場」,「因幡」などの氏が,また,氏以外に,地名を平仮名書きしたであるとしても,「稲場」,「因幡」などの地名が含まれるから,氏としての「稲葉」以外を想起し得ないものではないところ,前記(1)アの事実に加え,当該文字部分が,氏,地名として想起される「いなば」は1つに限定されないが,そのなかから,本件では,原告を設立したCの氏である「C」から取られたものと認められることをも併せ考慮すると,本件商標が本件役務について使用された場合に,当該文字部分に自他役務を識別する機能が全くなく,当該文字部分から出所識別標識としての称呼及び観念が全く生じないとまでいうのは相当でないというべきである。


エその他,本件商標について,その構成中の「和幸」の文字部分だけを抽出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできないから,本件商標と引用商標との類否を判断するに当たっては,本件商標の構成部分全体をみるべきであって,同商標の構成中の「和幸」の文字部分だけを引用商標と比較して類否判断を行うことは許されないというべきである。


(3) 本件商標と引用商標との類否

 前記(2)において説示したところによると,本件商標と引用商標との類否判断に当たっては,本件商標の構成部分全体を引用商標と比較すべきであるところ,本件商標と引用商標とは,外観上,「和幸」の文字において共通性を見いだし得るにすぎないし,また,引用商標の「とんかつ」の文字部分が同商標の指定役務(本件役務)の対象そのものを表す語から成るものであることから,同商標からは「和幸」の文字部分に対応した「ワコウ」の称呼及び「豚カツ料理店の名称としての和幸」の観念が生じるとしても,本件商標からは,「イナバワコウ」の称呼及び「いなば(稲葉)に係る豚カツ料理店の名称としての和幸」の観念しか生じないのであるから,結局,両商標は,外観,称呼及び観念のいずれの点においても異なるものであるといわざるを得ず,これらが類似するということはできない。


(4) 小括

 したがって,原告主張の取消事由は理由がある。


2 結論

 以上の次第であるから,本件決定は取り消されるべきものである。』


 と判示されました